MAGAZINE &
SALON MEMBERMAGAZINE &
SALON MEMBER
仕事が楽しければ
人生も愉しい

GOLF

2024.05.12

「高速カメラやテレビは、スウィングをはっきり分析することができるが、プレーヤーが何を考えているかはわからない」――ヘンリー・ロングハースト

ヘンリー・ロングハーストは、1909年にイギリスで生まれ、ケンブリッジ大学在学時にはゴルフ部の主将だった。ドイツのアマチュア選手権で優勝したこともある名手だが、のちにサンデー・タイムズ社のゴルフ記者となり、ゴルフ評論家やテレビ解説者としても活躍し、多くの著書を残した。表題の言葉は、彼のエッセイ集“Only on Sunday”(1964年)の中に出てくる名言だ。

映像は事実を映せても、心の中は映し出せない

現在ではテレビなどが普及し、映像で映し出されるプロたちのスウィングをスロー再生でも見られる。そのスウィングの技術的な特徴を目視できることにより、より明確にスウィングを分析できるようになった。しかし、テレビ解説者もしていたロングハーストは、そのときのプレーヤーが何を考え、何を感じていたのかを解説者が勝手に推量し、とやかく解説することには警告を発したかったようだ。

プレーヤーがコースのレイアウトやマウンド、アンジュレーション、風などを見て何を考えてショットしたのか、またそのショットをしたときにどんな感覚があったかなどは、カメラでは映し出されない。

松山英樹プロは、ショットした直後に「ミスをしたような仕草」を見せることがあるが、カメラが追いかけた映像では、ベタピンに寄っていたということが多くある。解説者は「マツヤマの表情や仕草を信用してはいけない」と言ったほどだ。松山プロの感覚では少し完璧でない何かがあったのだろうが、これも、映像が事実を映したものであっても、心の中は映し出せないことの一例と言えるだろう。

自分の感覚と実際のスウィング・結果との乖離は、自分で自分のスウィングを撮影したときにも起こり得る現象だ。例えば、コーチや上級者にアドバイスを受けてアドレスを修正したようなとき、自分では窮屈だったり、ぎこちないスウィングになったりしているように感じてしまうものだ。

ところが、撮影したアドレスやスウィングは、自分の感覚とは違って、オーソドックスでよいものだったりするのだ。この映像が、そのアドレスやスウィングをしっかり自分のものにしようというモチベーションにつながることも大いにある。

映像は理想のスウィングへの道しるべにもなる

多くのアベレージ・ゴルファーは、自分のスウィングを映像で見ると、「え~、俺ってこんなヘンなスウィングしてるの?」と驚愕することが多いものだ。それほど、自分の感覚と実際のスウィングは一致せず、別物になっていることが多い。

自分では教科書通りのスウィングをしているつもりでも、実際は変則的なスウィングになっているのだ。そのギャップを埋めていくため、どこを直すべきかを分析するには、映像はあらゆる角度からのヒントを与えてくれるだろう。

ロングハーストの言うとおり、他人のスウィングの映像から技術的なミスなどはわかるが、そのときのプレーヤーの考えや感覚まではわからない。そのため、他人のスウィングを見てその人の感覚と実際のスウィングのズレを直すべくレッスンすることは、とても難しいのだ。教え魔は、してもされても迷惑なだけという根拠はここにある。

しかし、自分のスウィングの映像なら、そのときどんな感覚で振っていたのかは感触として自分でわかるはずだ。だから、ある程度ゴルフ・スウィングについての基礎的な知識があれば、自分の感覚と映像で見る自分のスウィングのギャップを分析できるし、改善に役立てることもできると思う。

「自分ではハンドファーストなインパクトをしているつもりだったが、まだ手の出方が足りないな」とか、「インサイド・トゥー・インサイドに振っているつもりなのに、まだアウトサイド・トゥー・インサイド気味だな」など、自分の感覚と実際の違いを目で確認できるのは大きい。

こういったズレを修正してみて、また撮影して映像を確認する。これを繰り返していけば、自分の理想としているスウィングに少しずつ近づいていくだろうと期待もできる。

今の、ジュニア時代からゴルフを始めたゴルファーたちは、ほとんどそうやってスウィング作りをしてきたと思う。だから、最近の若手プロなどは誰を見てもオーソドックスなオンプレーン・スウィングで、言い方は悪いが個性や特徴がないとも言える。

若いうちから始めたゴルファーは、成長期にスウィングを作るから柔軟に修正できる。より再現性の高いスウィングを追い求めると、結果的に皆が同じようなスウィングになるのも当然なのかもしれない。

扱いが難しい大人になってからの癖

しかし、大人になってからゴルフを始めたゴルファーは、映像で確認するような練習もせず、自己流で練習してある程度まで打てるようになって、そのままプレーを楽しんでいる人がほとんどだろう。そうすると、自己流スウィングでは必ずと言っていいほど壁にぶちあたることになる。

どうしても100が切れないとか、何とか100は切れるが80台はほど遠いといった壁だ。ここを乗り越えるには、やはり練習が必要だし、感覚と実際のギャップを埋めるべく映像を活用することも効果的なはずだ。

ただ、ここで問題なのは、自己流練習でついてしまったスウィングの癖を修正するのかどうかだ。ジュニアの年齢ならいくらでも修正ができるが、大人になってから始めた人についたスウィングの癖は、なかなか取れないものだからだ。

もちろん、その癖があきらかに悪癖となっていてスウィングに大きな影響を与えているならば、腹をくくってスウィングの改造に取り組んだほうがいい。しかし、少しスウィングがループするとか、トップで少し右脇があき気味だとか、それほど大きな悪影響にはならないが、セオリーからはちょっと外れているぐらいの癖はどうするべきだろうか。

修正しても感覚的にあまり違和感なくスウィングできる程度であれば、改善に取り組んでもいいだろう。しかし、どうしても違和感が残る、かなり練習してもぎこちなさがあるなどと感じる場合は、無理してその癖を直すこともないと思う。

癖というものは、意外にも再現性が高いからだ。ゴルファーはそれぞれ背の高さや足の長さなど、体格に違いがあり、人それぞれの感覚的な癖があって当然なのだ。そういう必然性の高い癖は、直すよりもうまく付き合ったほうがいい。

大きな悪癖は何とか直すが、細部の癖とはうまく付き合う。大人になってゴルフを始めた人は、多少なら個性的なところがスウィングの一部に出ても十分上達できると思う。実際、クラブチャンピオン競技に出てくるような上級者でも、大概なんらかの個性的な癖を持っているものだ。

それでも、大きな悪癖でさえなければ、シングルプレーヤーにもなれるし、クラチャンを目指すことだって可能なのだ。あとは、そのスウィングで再現性を高め、芯に当たる確率を上げることに専念すればいいと思う。

一般ゴルファーにもハイテク機械は役に立つ

最近は、打ちっぱなしの練習場でも弾道測定器とカメラが使える打席を設けたりするところが出てきた。プロがトラックマンなどの測定器で、キャリーの飛距離・ボールの高さ・スピン量などを確認しながらスウィングや道具に改善をほどこしていることが、一般化してきたのだろう。

こういった設備を利用して、自分のスウィングをチェックしたり、弾道を確認したりすることは、一般ゴルファーにもそれなりの効果が期待できるだろう。プロのようにストイックになる必要はないが、例えば自分のアイアンのキャリーの飛距離を数値で把握しておくことは、グリーンを攻めるときにデータとして役立つに違いない。

ただ、弾道測定器もいろいろで、かなり正確な数値を測定する機械もあれば、数値に一定の誤差が生じる機械もあるので注意が必要だ。測定器が出した数値をまるまる信用してしまうと、実戦のコースでは誤差があって失敗することもあるのだ。

打ちっぱなしの練習場なら、実際に打ったボールの状況と弾道測定器の計算した数値に、どの程度の差異があるか確認できるだろうから、それも把握したうえで傾向値として活用するといい。

シミュレーション・ゴルフ練習場というのも増えている。ビルの中の空調が行き届いた部屋で練習できるから、猛暑の夏などは熱中症の心配をしなくていいのは利点だ。

ティーチングプロがつくスクール形式の施設が多いが、練習だけで使える施設も増加傾向にある。いずれの場合も、シミュレーション映像が映し出されるスクリーンに向かってショットする。弾道の残像も視覚的に見ることができ、本番さながらに世界のコースをラウンドできたりもする。

シミュレーションはカメラセンサーとパソコンのアプリで動作しているようだが、これもやはり誤差が生じる。打ちっぱなしではないから、実際との誤差は経験測から自分で判断するしかないが、それでも大まかな傾向は確認できる。

こういったハイテク機械を利用できる時代になったのは、よいスウィングを早く身に付けるためには大いに効果的だと思う。打ちっぱなしで、ただ漫然と球数だけを打ちまくっているよりは、数値や映像を確認しながら練習したほうが上達に貢献すると思うが、いかがだろうか。

参考資料:
摂津茂和『不滅のゴルフ名言集2 頭と心でスコアをのばす』ベースボール・マガジン社、2009年

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:ゴルフは名言でうまくなる
岡上貞夫

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2024年8月号

美食旅の新スタンダード、泊まれるレストラン オーベルジュ

2024年8月号表紙

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2024年8月号

美食旅の新スタンダード、泊まれるレストラン オーベルジュ

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ8月号』が2024年6月25日に発売。今号は、フランス発祥の“泊まれるレストラン”、オーベルジュを大特集。今市隆二は、2024年2月にグランドオープンしたばかりの「仙石原古今」を訪れた。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる