巨人の新エース、山﨑伊織がスターとなる前夜に迫った。 連載「スターたちの夜明け前」とは
巨人の新エース
2年連続のBクラスからの巻き返しを図る巨人。ここ数年は投手陣が課題と言われ続けているが、そのなかで新たなエース格となりつつあるのが山﨑伊織だ。
3年目の2023年は開幕ローテーションこそ逃したものの、7月には4戦4勝で月間MVPを獲得。シーズン最終戦となった10月4日のDeNA戦ではプロ初完封を記録し、自身初の二桁勝利と規定投球回到達を達成した。
2024年も5月7日の中日戦で完封勝利をあげるなど、ここまで4勝0敗、防御率1.46と先発の中心として抜群の安定感を見せている(2024年5月23日終了時点)。
野手としてもポテンシャルが高かった高校時代
そんな山﨑は兵庫県明石市の出身で、高校も地元の強豪校である明石商に進学。その素材の良さは当時から評判となっていたが、チームのエースは同学年の吉高壮(現・日本生命)が務めており、3年春に出場した選抜高校野球でもマウンドに上がることはなかった。
高校時代に山﨑のプレーを最後に見たのは2016年7月25日に行われた兵庫大会の対神戸国際大付戦だ。
この試合でも山﨑は投手ではなく1番、レフトとして出場。相手のエースは後にチームメイトとなる平内龍太(現・巨人)だったが、その平内の140キロを超えるストレートにも振り負けることなく3安打を放っている。
当時のノートには以下のようなメモが残っている。
「体つきはまだまだ細いが(当時のプロフィールは181cm、70kg)、動きに躍動感がある。バットコントロールも良く、スムーズに振り出し、コースに逆らわずに広角に打てるのが長所。
脚力も申し分なく、ベースランニングの走る姿も素晴らしい。投手として評判とのことだが、野手としての将来性も十分」
ちなみに第1打席に放ったショートへの内野安打の一塁到達タイムは4.04秒という記録が残っており、これは左打席からでも十分に俊足と言える数字である。
野手としても山﨑の持っていたポテンシャルが高かったことがよくわかるだろう。ちなみに山﨑は今シーズンも現時点で2本のタイムリーを放っており、プロでも非凡な打撃を見せている。
ドラフト目玉として注目
ようやく投手としての山崎が本格化したのは東海大に進学してからだ。
1年時は故障もあって公式戦での登板はなかったが、2年春には先発の一角として3勝をマーク。そして完全にドラフト候補として認識するようになったのは3年春のことだった。
特に強く印象に残っているのが、2019年5月19日に越谷市民球場で行われた対筑波大戦である。
この試合で山﨑は立ち上がりから140キロ台後半のストレートと鋭く変化するスライダー、カットボールを武器に相手打線を圧倒。
5点差がついたため9回はリリーフにマウンドを譲ったが、8回を投げて被安打5、9奪三振で無失点と圧巻のピッチングを見せたのだ。
当時のノートにも称賛する言葉が並んでいる。
「少しテイクバックで腕が背中に入るが、肩の可動域が広く、下半身の柔らかさもあり、伸びやかなフォームは見ていて気持ちが良い。イメージは伊藤智仁(元・ヤクルト)を彷彿とさせるものがある。
(中略)
ストレートは力を入れると140キロ台後半をマークし、数字に見合う勢いがある(この日の最速は150キロ)。スライダーは120キロ台中盤から130キロ台前半までスピードと変化の大きさにバリエーションがあり、しっかり狙って投げ分けているように見える。
130キロ台中盤のカットボールもストレートと見分けがつかず、打者の手元で鋭く変化する。135キロくらいのフォークも3回から投げ始め、このボールもレベルが高い。
右打者の内角に狙って速いボールを投げられるコントロールも素晴らしい」
この後に行われた全日本大学野球選手権でも3試合に登板し、チームの準決勝進出に大きく貢献。初戦の対立命館大戦では最速153キロをマークし、スタンドを沸かせていた。
この活躍が認められ、3年生ながら大学日本代表にも選出されて、日米大学野球選手権にも出場。続く秋のリーグ戦でも4勝0敗、防御率0.20という圧巻の成績を残してチームを優勝に導いている。
この頃から、2020年のドラフトの目玉は山﨑だという声が大きくなっていた。
トミー・ジョン手術からの復活
しかしそんな山﨑をアクシデントが襲う。
3年秋のリーグ戦後に出場した横浜市長杯で肘を痛め、続く明治神宮大会では登板することができなかったのだ。
最終学年での復帰にも期待がかかったが、結局4年の6月にはトミー・ジョン手術を受けることを決断。山﨑の大学野球はそこで終了となった。
ただそんな状態でも2020年のドラフトでは巨人が2位で指名していることからもわかるように、持っているポテンシャルの高さはこの年のドラフト候補のなかでもトップクラスであったことは間違いない。
プロでも1年目はリハビリに費やしたが、現在の姿を見ると思い切って高い順位で指名した巨人の決断も見事だったと言えるだろう。
現在は高校生や大学生でもトミー・ジョン手術を受けるケースが増えているが、そんな選手にとっても山﨑の活躍は大きな励みとなっているはずだ。
今後も巨人だけでなく、セ・リーグ、プロ野球界全体を牽引するような投手へとさらに飛躍してくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。