PERSON

2024.06.16

「陸上は趣味、好きだからやっている」走り幅跳び・橋岡優輝

37年ぶりの快挙となる6位入賞だったが、表彰台に11cm届かなかった東京五輪。陸上男子走り幅跳びのエース・橋岡優輝(25歳・富士通)が、雌伏の時を経て、一皮むけようとしている。2022年11月から米フロリダ州に拠点を移し、徹底的な助走スピード強化に取り組んできた。練習アプローチを根本から変えた狙いや思い、競技に対する変わらぬ姿勢。パリ五輪への戦いを間近に控えるジャンパーの現在地とは。連載「アスリート・サバイブル」

2024年5月に行われたセイコーゴールデンGP走幅跳で4位に入賞した橋岡優輝
2024年5月に行われたセイコーゴールデンGP走幅跳で4位に入賞した橋岡優輝。

環境を変えて渡米して挑む

東京五輪後、橋岡優輝は壮大なチャレンジに懸けた。

世界的ジャンパーはアメリカ・フロリダ州にある短距離の有名チーム、タンブルウィード・トラッククラブ(TC)を拠点に練習をしている。

「引き出しを増やそうという感じですね。いろんな感覚を自分のなかに取り入れていって、そのなかで良いものを集大成として完成させていけたら」

東京五輪後、確かな踏み切り技術を持つ橋岡が着手したのは、徹底的な助走スピードの強化だった。

2019年の世界選手権ドーハ大会後に海外拠点への思いは強くなり、縁が重なった2022年11月に新天地へ向かった。

武者修行によって、積み上げてきたものが一気に壊れる可能性もある。それでも、橋岡に恐怖という感情はなかった。

「その環境に身を置いた以上はやるしか道が残ってない。だから、やりやすいというか、そこまでの決断を最初にすることのほうが難しいじゃないですか。

自分の動きが変わっちゃうかもしれない。今までやってきたものがもしかしたら全部、次の動きには噛み合わないかもしれない。変えることへの恐れが、結構、他の選手だと多いと思うんですけど、僕はそこに抵抗がなかった」

タンブルウィードTCは、100mで世界選手権2大会連続ファイナリストのサニブラウン・ハキーム(東レ)ら短距離の一流選手が集う。

合流当初、コーチに言われた言葉は今も忘れない。「スプリンターになれ」――。その日から今現在も、走力アップに励む日々が続いている。

パリで11cmの壁を乗り越える

プライドをへし折られながらも、黙々と走り続ける日々。それでも、モチベーションを失う時は「ないですね」と即答する。

「いっぱい練習して、こんだけ練習してるもんな、強くなるだろうな、と思いながらやっています」

そして、続ける。

「陸上はずっと趣味なんですよ。趣味にできるくらい楽しいし、好きなもの。仕事という捉え方をすると、やっぱりどこか苦しくなる人もいる。

僕は仕事ではあるけど、どっちかというと好きだからやっているという要素が大きい。生活の一部というか、それくらい定着したもの」

純粋な気持ちが、世界的ジャンパーを衝き動かしている。

東京五輪では表彰台に11cm届かなかった。頂点を目指すパリ五輪では、8m50という日本人未踏のビッグジャンプを思い描く。

「走り幅跳びは自分を表現するもの。その表現は一番の舞台、オリンピックや世界陸上でするものだと思っている。

それに向けて準備する常日頃の練習も、今はトップのチームにいて、いろんな動きを見て、陸上楽しいな、とより思っている」

すでに参加標準記録を突破。2024年6月末には五輪選考会となる日本選手権、そして、花の都へ。大飛躍の最終局面に入った。

橋岡優輝/Yuki Hashioka
1999年1月23日埼玉県生まれ。東京・八王子学園八王子高から日大を経て、富士通所属。2018年U20世界選手権優勝。世界選手権は2019年8位入賞、2022年も決勝に進んで10位。自己ベストは日本歴代2位の8m36。父・利行さんは棒高跳びで、母・直美さんは100m障害、三段跳びで元日本記録保持者の陸上一家。サッカー東京五輪代表のDF橋岡大樹(ルートン)はいとこ。身長1m83cm。

■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=大和弘明

PHOTOGRAPH=森田直樹/アフロスポーツ

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