本気の働くクルマであるトヨタ・ランドクルーザー“70”の乗り心地や快適性は、レジャー用途にも対応しているのか? 試乗してみた。■連載「クルマの最旬学」とは
10年前のランクル“70”は、キャンプに行くのがキツかった
1984年にデビューしたトヨタ・ランドクルーザー“70”が、2023年11月より日本での再々販売を開始した。こう書くと、なんのこっちゃ、というわかりにくい内容であるけれど、こういう流れだ。
1984年に発表されたランドクルーザーの“70”シリーズは、高い耐久性と悪路走破性能によって世界中の“現場”で支持され、いまも基本構造を変えずに生産が続けられている。ただし日本では役目を終え、2004年に一度、国内での販売が終了となっている。
時は流れて2014年、ランクル“70”はデビュー30周年を記念して、2015年までの期間限定で再販された。そして登場から40年を数える2024年、ランクル“70”がいま一度、日本でも新車が店頭に並ぶようになった。ただし、新車で買えるようになったとはいえ人気のあまり品薄状態が続き、トヨタの公式ホームページには「工場出荷時期目処のご案内」という欄に、「詳しくは販売店にお問い合わせください」とある。
人気の秘密は、ひとつに流行を超越したデザインがあるだろう。リーバイスの501やギブソンのレス・ポールのように、だれにも文句を言わせないスタイルを確立しているから、いつまでも古くならない。また、クルマの値段が上昇しているいま、これだけのサイズで480万円という価格も魅力的だ。
ただし、ひとつ懸念がある。約10年前に試乗した30周年記念のランクル“70” は、本物の働くクルマで、ゴワゴワする乗り心地や車内の騒音レベルは、家族でキャンプに行くような使い方には不向きだった。
今度のランクル“70”は、普通に格好いいSUVとして使えるのだろうか。
クセ強だが、エンジンも乗り心地も洗練された
昭和のクルマ好きが見たインテリアの第一印象は、「懐かしい」というもの。内装に使われる樹脂は艶がなく、ざらざらした手触りを伝える。空調のインターフェイスもレバー式で、温度も風量も手動で調整する必要がある。ただしアナログな空調の操作パネルのすぐ下には、タイプCのUSB端子がふたつ備わっている。昭和風情の立ち飲み屋に入ったらオーダーはタッチパネルだった、みたいなミスマッチ感が味わい深い。
インテリアは昭和だけれど、エンジンは令和だった。排気量2.8ℓの直列4気筒ディーゼルターボエンジンは、排ガスをクリーンにするテクノロジーを満載した最新タイプ。滑らかに回転を上げ、音も静か。6段のオートマチックトランスミッションもいい仕事をしているから、加速はスムーズだ。
「これなら平和にキャンプに行けるかも!」と思った次の瞬間、路面の凸凹を乗り越えてグワンと体が揺さぶられた。
一般の乗用車はフレーム構造といって、ボディは卵の殻のような構造で、そこにエンジンなどが取り付けられる。路面からのショックを卵の殻全体に分散させることができるから、乗り心地を快適なものにするのに向く構造だ。
いっぽうランクル“70”は、ハシゴの形をした屈強な基本骨格にボディを被せたラダーフレーム構造。悪路を乗り越えてもへこたれない耐久性と引き換えに、路面からの衝撃を緩和するのが苦手なのだ。
ほかにもランクル“70”は、岩場や高い轍の凸凹路で伸び縮みするサスペンションの形式や、悪路を走ったときにドライバーの手のひらに衝撃を伝えにくいステアリング形式など、あくまで主戦場を林道や山奥の工事現場として設計、開発されている。
したがって、舗装された道を走っていると、どうしてもオフロード車っぽさが顔を出すのだ。
ただ、グワンと体を揺すぶられたと書いたけれど、10年前の30周年記念車はグワングワンと揺さぶられたから、かなり改善されているのもまた事実。海外の現場では耐荷重の制限を無視して信じられないほどの重量物を積むケースがあるそうだけれど、日本ではそこを心配する必要はない。したがって日本専用に、少し手加減した足まわりになっていることが、乗り心地が平和になった理由だ。
エンジンは静かになったし、乗り心地と高速道路での直進安定性も改善されている。まだクセは強めに残っているけれど、これなら初めてこの手のクルマに乗る方でも、ギリで「味がある」と思えるレベルに仕上がっているのではないか。むしろ、ひとクセあるこのクルマを乗りこなすことで、愛着が湧くようになるのかもしれない。
ひとつ注意をお伝えするとすれば、クルマにお任せで雪道を走ることができる最新のプレミアムSUVのフルタイム4駆と違って、ランクル“70”はパートタイム4駆。自身で4駆システムのセッティングを変更しなければならないから、そこは要注意だ。
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サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。