もしかすると、エンジンだけで走るクルマを買うのは最後になるかもしれない……。だったら、シボレー・コルベットを選ぶ! ■連載「クルマの最旬学」とは
いかにもエンジンらしい音と手ざわり
クルマ好きの間で、「これが最後の純エンジン車になるかも……」という会話が交わされている。純エンジン車とは、エンジンの駆動だけで走るクルマ。今後、モーターが駆動に関わるハイブリッド車や、電気自動車が主流になることを考えると、お気に入りの純エンジン車を手に入れて大事に乗り続けたいと願うクルマ好きがいても不思議ではない。
で、最後の純エンジン車になにを選ぶのか、というのが今回のお題だ。
絹のように滑らかなフィーリングからシルキー・シックスと呼ばれるBMWの直列6気筒エンジン、パンチを打ち合うボクサーのように見えることからボクサー・エンジンとも呼ばれるスバルの水平対向エンジンなど、候補はどれも魅力的だ。
なかには、高騰しているポルシェの空冷エンジン搭載モデルのように投資として魅力的なものもある。けれども、残念ながら筆者は価格が上がるクルマを見極める慧眼を持ち合わせていない。ここは、エンジンの楽しさを味わえるという観点から1台を選んだ。それは、6.2ℓのV型8気筒エンジンを搭載するシボレー・コルベットだ。
このエンジンのなにがいいって、まず音がいい。アクセルペダルを踏み込むと低くて重たい音が盛り上がり、「ドゥバババババ」とガソリンが爆発していることが伝わってくる。
いかにもエンジンらしい音を発する理由は、OHVという構造を採用しているからだ。クルマの教科書を開くと、エンジンはSV(サイド・バルブ)→OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)→OHC(オーバー・ヘッド・カムシャフト)→DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)の順に進化したとある。
OHVというのは古典的でシンプルな仕組みで、効率よくシュンシュンとエンジンを回すにはDOHCのほうが有利。したがって最新モデルの多くがDOHCを採用する。
いっぽうで、アメリカのように真っ直ぐな道を一定速で遠くへ行くような使い方であれば、OHVでも不都合はない。むしろ部品点数が少ないことから整備性や耐久性が高くなるし、シンプルな構造のおかげで重心が低くなるからスポーツカーにも向く。
この時代にあえて純エンジン車を所有するのであれば、モーターのようにスムーズに回るエンジンを選ぶ意味は薄い。重たい部品が回転していることや、ガソリンが爆発していることを生々しく伝えてくれる、コルベットのV8エンジンを推したい。
鷹揚と尖鋭、ふたつの顔を持つクルマ
シボレー・コルベットを選ぶのは、クルマとしての仕上がりも魅力的だという理由もある。古典的なのはエンジンの構造だけで、全体として見ればハイテク満載、走りっぷりはヨーロッパ産の最新スーパースポーツと比べてもなんら遜色はない。
ポイントのひとつは、1953年デビューのコルベットが、70年の歴史で初めてミドシップレイアウトを採用したことだ。エンジンをドライバーの背後に配置するこのレイアウトのおかげで、コーナリング時にはドライバーを中心に回っているような一体感を感じられる。もうひとつ、コルベットの歴史で初めて右ハンドルが用意されることもトピック。日本はもちろん、イギリスのスポーツカー好きも拍手喝采を贈っている。
乗り心地のよさは特筆モノで、これなら毎日の足として使っても不満はない。リアルタイムで足まわりのセッティングを変更する、先進技術が功を奏している。
アクセルペダルを穏やかに踏めばV8のサウンドもジェントルで、スーパースポーツと呼ばれるクルマの中でも、リラックスして運転できるという意味では最右翼ではないだろうか。鷹揚な気持ちでハンドルを握れるあたりが、アメリカ車の魅力だ。
いっぽうで、ドライブモードを「スポーツ」や「トラック」にセットすると、一気にエンジン音が高まり、戦闘態勢に突入する。このモードだと、デュアルクラッチ式のトランスミッションが電光石火の素早さでシフトダウンをキメる。サーキットに持ち込んでも楽しめるはずだ。
ビギナーがゆったり走らせてもよし、武闘派がサーキットを攻めてもよしと、間口が広いこともこのクルマの魅力だ。
冒頭で、価格が上がるクルマを見極める慧眼は持ち合わせていないと記したけれど、これだけの内容が1420万円からという価格設定がバーゲンであることは、筆者にもわかる。
エンジンらしいエンジン、スーパースポーツとしての出来のよさ、そして価格設定と、やはり最後の純エンジン車の最有力候補として、シボレー・コルベットを薦めたい。
シボレー・コルベット
全長×全幅×全高:4630×1940×1220mm
ホイールベース:2725mm
エンジン:6.2ℓV型8気筒OHV
最高出力:502ps/6450rpm
最大トルク:637Nm/5150rpm
トランスミッション:8段DCT
駆動方式:MR(ミドシップ・後輪駆動)
車重:1670kg
¥14,200,000〜(税込)
問い合わせ
GMジャパン・カスタマー・センター TEL:0120-711-276
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。