自動車業界の寵児となったテスラから、2023年を締めくくるのにふさわしいニュースが届いた。常識を覆す電動ピックアップトラックが、いよいよ姿を現す。■連載「クルマの最旬学」とは
テスラ・サイバートラックの納車スタート!
2023年の暮れも押し迫った時期に、驚きのニュースが飛び込んできた。テスラ初のピックアップトラック、サイバートラックの納車がアメリカ本国で始まったというのだ。
なぜ驚きかといえば、発表から4年にもわたって、サイバートラックは宙ぶらりんの状態にあったからだ。専門家のなかには「絶対に作れない」と断言する者もいたし、イーロン・マスク本人も決算説明会で「自分で自分の墓穴を掘るようなもの」だと語ったという。
ところが、日本時間2023年12月1日、ついにサイバートラックの納車が始まった。今回は、このクルマの概要をお伝えしたい。
ご存知の方も多いように、アメリカで最も売れるクルマは安くて丈夫で実用的なピックアップトラックで、フォードFシリーズは40年以上にわたってベストセラーの座をキープしている。ちなみに2位と3位をダッジ・ラムとシボレー・シルバラードというピックアップトラックが争うという構図で、4位以降にようやくトヨタRAV4やホンダCR-Vといった乗用車がランクインしてくる。
ポルシェ以上の加速力とアフリカ象を引っ張れる牽引能力!?
テスラは、サイバートラックでこのピックアップトラック市場に参入することになる。ただしそこはテスラ、中身はただのピックアップトラックではない。
最も加速性能の高い仕様は、高性能車のパフォーマンスの指標となる0-100km/h加速をわずか2.7秒でこなすというのだ。ポルシェ911カレラGTSが3.4秒だというから、サイバートラックの加速力のレベルがわかる。
しかもサイバートラックの車重は優に3トンを超える3104kg。ということはロールス・ロイスのカリナンに成人男性が5人フル乗車している状態とほぼ同じで、それがゼロ発進から2.7秒後に100km/hに達していると想像すると、スゴいを通り越して笑ってしまう。
「いやいや、ポルシェのタイカンだって2.8秒」という声も聞こえてくる。そう、BEVの場合は電気をふんだんに使って強力なモーターで駆動すれば、これくらいの加速性能も不可能ではない。サイバートラックがおそろしいのは、加速力だけでなく、1134kgの積載能力と、4990kgの牽引能力も兼ね備えていることだ。
テスラの資料には、4990kgの牽引能力とはすなわち、アフリカ象を引っ張れるくらいの力だとある。スーパーカーのスピードと、トラックのパワーが1台に完結しているのだ。
サイバートラックは、後輪操舵を備えている。試したわけではないので断言はできないけれど、この仕組みが効果的に作動すると、ワインディングロードでは滑らかなコーナリングが可能となり、市街地では小回りが利くようになる。
テスラが謳うように、このピックアップトラックが山道でスポーツカーのように走るのか、ぜひ試してみたい。
写真からもわかるように、メタリックなボディ素材も独特だ。テスラのボディは高張力鋼で構成され、その一部にはマルテンサイト系ステンレス鋼という、空母の甲板で使われる素材も使われる。サイバートラックの非常に硬いステンレス鋼は傷やへこみを減らし、塗装が施されないこともあって修理は容易となる。
ちなみにボディの耐久性試験にはマシンガンも使われ(!)、1発の銃弾も貫通しなかったという。また、強化されたガラスは112km/hの野球ボールの衝撃にも耐えたとのことだ。
気になる価格は、RWD(後輪駆動モデル)が6万990ドル、AWD(全輪駆動モデル)が7万9990ドル、そして最高性能バージョンのサイバービーストが9万9990ドルと発表された。ちなみにRWDの登場は2025年が予定されている。
日本導入の時期や日本仕様のスペック、価格などがわかり次第、改めて報告したい。
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。