2023年10月6日、トヨタがクラウン・スポーツを発表した。あわせて、4ドアセダンのクラウン、SUVのクラウン・エステートの発売時期も公表され、クラウンの全容が明らかとなった。トヨタは、何を狙っているのか。■連載「クルマの最旬学」とは
新しい時代のスポーツモデル
トヨタ・クラウン・スポーツの発表イベントでは、クラウンとクラウン・エステートが展示され、車両の概要や発売時期も明らかとなった。
2022年にクラウン・クロスオーバーが発表された時に、新しいクラウンには4つのスタイルがあるとアナウンスされ、プロトタイプのデザインもお披露目している。だから特別な驚きはなかったけれど、実際に4台が並ぶと、トヨタの狙いが理解できたような気がした。
まずクラウン・スポーツから紹介すると、このクルマは新しい形のスポーツSUVとのことだ。「スポーツ」というと、昭和のクルマ好きとしては車高の低いスポーツカーを連想してしまう。けれども、少し背の高いクルマでファン・トゥ・ドライブを提供するというのが、イマっぽくて興味深い。
トヨタの開発エンジニアからは、必ずしも足まわりが硬いクルマがスポーティに走るわけではない、という説明があった。確かに最近のスポーツモデルは、ポルシェやフェラーリであっても乗り心地は快適で、すばしっこく走ることと、リラックスできる乗り心地を両立している。
パワートレインはハイブリッドとプラグインハイブリッドの2種類で、駆動方式はいずれも4輪駆動。クラウン・スポーツが、どのように走る楽しさを表現しているのか、試乗するのが楽しみだ。ちなみにハイブリッドの発売は2023年の11月、プラグインハイブリッドは12月になるという。
クラウン・スポーツは、走る楽しさだけでなく、デザインでも感性を刺激することを目論んでいるという説明があった。個人的にデザインのハイライトだと感じたのが、後席のドアから後輪にかけてのリアフェンダーと呼ばれるパンと張ったふくらみで、野生動物の後ろ足の筋肉を思わせる力強さと躍動感がある。
もうひとつ、運転席と助手席がアシンメトリー(左右非対称)になっているインテリアもおもしろい。この造形には女性デザイナーのアイデアが活かされているとのこと。クラウンといえば年配の男性が乗るイメージが強いけれど、言われてみればこのクルマは女性が乗っている姿が想像できる。
4ドアセダンだけ異質な存在
発表イベントの会場で最も多くの人の関心を集めているように見えたのが、クラウン・エステート。やはりSUVが人気なのだ。
2022年に先陣を切って発売されたクラウン・クロスオーバーがセダンとSUVの融合だったのに対して、クラウン・エステートはステーションワゴンとSUVを融合させたものだという。
ステーションワゴンを意味するエステートという車名からもわかるように、売りのひとつは積載性能。開発陣によればシートを倒した時の室内の長さは2メートルを超えるという。スキー板やサーフボード、キャンプ道具を積むことはもちろん、車中泊にも対応しているとのことだ。
なるほど、このクルマを選ぶと、ライフスタイルが変わるような期待感がある。そのあたりが人気の秘訣だろうか。
パワートレインはハイブリッドとプラグインハイブリッドで、いずれも4輪駆動。2023年の年内には正式に発表される。
最後に紹介するのが4ドアセダンのクラウン。プロトタイプの時点ではクラウン・セダンと呼ばれていたけれど、クラウンが正式な名称となった。
ん? と思ったのが、このクルマだけがFR(フロントエンジン・リア駆動=後輪駆動)のレイアウトを採ること。また、サイズもほかの3モデルに比べてひとまわり大きい。つまり、4ドアセダンだけ基本骨格が異なるわけで、それは全体のプロポーションを見ても明らかだ。
もうひとつ、クラウンのパワートレインにはハイブリッドのほかにFCEVが用意されていることもトピック。FCEVとは水素を積んでFC(Fuel Cell=燃料電池)で発電しながら走るEV(電気自動車)で、走行中に排出するのは水だけだ。つまりZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)ということになる。
クラウンは2023年11月に正式発表とのことで、他の3つのスタイルとどれだけ違うのか、あるいは共通点が多いのか、好奇心が刺激される。
クラウン・スポーツの発表と同時に、横浜と福岡でクラウン専門店「THE CROWN」がオープンすることも明かされた。今後、愛知、東京、千葉にも展開するという。
店舗は専用にデザインされ、オーナー同士の交流イベントや特別仕様車の開発も企画しているという。
と、ここまで情報が揃ったところで、トヨタの狙いがなんとなく見えてくる。
2022年にクラウン・クロスオーバーが発表された時に、これまで国内専用モデルだったクラウンが、世界40カ国に進出すると発表された。そして4スタイルのクラウンは、従来の年配の男性だけでなく、女性や若いファミリーが乗っても納得できるものになっている。
つまり社会の多様化に合わせて、国境も年齢も性別も超える新しいクラウンに生まれ変わったのだ。同時に、専門店によって、新しいクラウン・ブランドを確立、浸透させようとしている。事実、新しいクラウンの20歳代のオーナーは、モデルチェンジ前に比べて2.5倍に増えているという。
“クラウン・ルネサンス”と呼びたくなるけれど、それは少し大げさ過ぎるだろうか。
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サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。