2023年1月より日本での販売がスタートする、BYD ATTO 3に試乗。電動車両(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車)の生産台数でテスラを抜いて世界一になった中国メーカー、BYDの実力やいかに!? 連載「クルマの最旬学」とは……
まもなく価格発表。日本に上陸したBYDの乗り心地とは
結論から書くと、2時間ほどの試乗を終えての感想は、「良くも悪くもフツー」というものだった。看過できないような欠点もないかわりに、これは素晴らしいと感心するような美点もない。クルマにクセがあるわけでもなく、運転にコツがいるわけでもない。
たとえば出張先のレンタカーでこのクルマをあてがわれたら、ちゃちゃっと移動して業務をこなし、ささっと駅に戻って返却、何の不満も抱かずに帰りの新幹線に乗り込むだろう。
以下、もう少し詳しくBYD ATTO 3を紹介したい。
BYD ATTO 3をカテゴライズすれば、世界的に人気のあるコンパクトSUVで、しかもBEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走る純粋な電気自動車)ということになる。ちなみにBYDは、すでにエンジン車の生産を終了している。
アルファ ロメオやアウディのデザイン責任者を務めたヴォルフガング・エッガーが手がけたデザインはなかなかにスタイリッシュ。ルーフ(屋根)のラインがボディ後端に向けてなだらかな弧を描いていることで、クーペっぽい優雅さを感じさせる。アウディのQ3 Sportbackに似た雰囲気だ、と感じるのは、エッガー氏が関わっているという先入観からだろうか。
全長は4455mmで、トヨタ・ヤリス クロスとトヨタRAV4の中間ぐらいのサイズ感。日本で使うにはジャストサイズだ。
エクステリアのデザインは、最近のトレンドに沿ったものだけれど、ドアを開けて運転席に乗り込むと、「おっ」と声が出る。スポーツジムをモチーフにしたという内装デザインは個性的で、いままでに見たことがないスタイルなのだ。
けれども、見た目こそ斬新であるけれど、スイッチ類のレイアウトやインターフェイスはごく常識的で、操作に戸惑うようなことはない。シートやダッシュボードの樹脂類など、インテリア素材の質感にも文句はない。また、試乗を終える頃には、インテリアも見慣れていたことを付記したい。
スターターボタンを押してシステムを起動、BYD ATTO 3はBEVらしく、静かに滑らかに加速した。加速力は充分以上。アクセル操作に対する反応は自然で、初めてBEVに乗る方でも違和感なく走らせることができるはずだ。
もう一度「おっ」と声が出たのは、最初の交差点を曲がった時で、なぜならウィンカーの操作レバーがステアリングホイールの右側に移されていたからだ。ご存知の方も多いように、ほとんどの輸入車は右ハンドルであってもウィンカー操作レバーは左側のままだから、BYDの日本市場に対する本気度が伝わってくる。
速度を上げると、クルマの“つくり”がしっかりしていることを体感する。まず、乗り心地がいい。路面の凹凸を乗り越える時に、人間が膝を曲げたり伸ばしたりしてショックを受け止めるように、BYD ATTO 3のサスペンションもきちんと伸びたり縮んだりして路面からの衝撃を緩和する。
舗装の悪いところを突破すると、ボディもしっかりしていることがわかる。たとえば、ボディのどこかからガタピシという異音が聞こえることがない。
一般にBEVは、エンジン音や排気音がゼロになるぶん、タイヤの音や風がボディにあたって発生する風切り音と呼ばれるノイズが目立つ傾向にある。けれどもBYD ATTO 3はそうしたノイズも上手に消している。このあたりからも、“つくり”の良さがわかる。
BEVの常識として、ブレーキング時には減速エネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄える回生ブレーキがBYD ATTO 3にも備わる。試乗前は、こうした繊細なセッティングにアラがあるのではないかと予想していたけれど、予想は覆された。ブレーキも実にスムーズかつしっかりと効く。
デザイン部門と同じように、クルマづくりの手練を集めていると推察する。
残念ながら試乗車はオーストラリア仕様をベースにしたテスト車両だったので、先行車両と一定の間隔をキープして追従する機能などは、試すことができなかった。一方で、スマホを接続して聞いたオーディオの音は、このクラスのコンパクトカーとしてはかなりのもので、静かな室内で音楽を楽しむことができた。
BYD自慢のブレードバッテリーは本当に高性能なのか、航続距離が485km(WLTC値)というのは信用してもいいのか、もっと長いスパンで見た場合にバッテリーの耐久性はどうなのか、2時間の試乗ではわからないことも多い。けれども、日常使いの範囲では、ごくまっとうなBEVのコンパクトSUVである。
といった結論を書こうとして、ハッと気づいた。この仕事を30年近くやっているけれど、BYD ATTO 3は初めて運転した中国製のクルマだった。けれども、運転中も執筆中もそれを意識することなく、日本車やヨーロッパ車と同じ感覚で試乗を行い、記事を書いている。
つまり、BYD ATTO 3は、そういうレベルに達しているということだ。まもなく、価格が発表される。
問い合わせ
BYDジャパン TEL:0120-934-557
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Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。