輸入車には異国の文化にふれるという魅力があるけれど、日本車だってがんばっている。マツダが未来を見据えて開発した、こだわりのSUVを紹介する。連載「クルマの最旬学」とは……
効率より味わいを重んじた1台
クルマ好きの友人知人には、ヨーロッパ車に乗っている人が多い。ところが、彼らのなかには、“ガイシャ疲れ”を感じている人も多い。
“ガイシャ疲れ”って、なに?
輸入車のディーラーは必ずしも交通の便のいいところにあるとは限らず、点検や車検のたびにそこまで愛車を持ち込むのはひと苦労だ。しかも苦労して持ち込んでも、パーツ代は国産車より高価だし、「この部品は日本にはないので本国より取り寄せます」と、面倒な事態になったりする。
こうした心労が積み重なって、“ガイシャ疲れ”を感じてしまうのだ。
彼らも、もしクルマ好きのハートを射抜くような日本車があったら、喜んで乗り換えるのではないだろうか。もしそんなクルマがあれば、駅チカのディーラーで、気軽にメンテを頼める。
そんな“ガイシャ疲れ”を感じている方にぜひお薦めしたいのが、マツダが満を持して発表した新型SUV、マツダCX-60だ。
なぜ、FFよりFRのほうが贅沢なのか
このクルマは、そもそもの成り立ちが贅沢だ。新開発した直列6気筒エンジンを縦に置いたFR(フロントエンジン・リアドライブ=後輪駆動)レイアウト、と書くと、クルマに興味のない方には呪文のように響くかもしれない。けれども、このこだわりは、クルマ好きには刺さるはずだ。
そもそも、エンジンのダウンサイジング化が進み、4気筒エンジンが一般的になる現在、あえて新しい6気筒エンジンを開発するというのが贅沢だ。しかも、コンパクトにできるV型6気筒ではなく、フィーリングに優れるけれど長くなってしまう直列6気筒を採用している。
もうひとつ、FRというレイアウトもクルマ好きの琴線にふれる。
実用性に優れたクルマを作るなら、FF(フロントエンジン・フロントドライブ=前輪駆動)のほうが合理的だ。なぜならエンジンの駆動力をそのまま前輪に伝えるFFは、駆動力を後輪に伝える機構が必要になるFRと比べて、シンプルな構造になるからだ。逆に言えば、FRのほうが部品は増えるし重くなる。
いっぽうで、FRのほうがドライブフィールは上質になる。というのも、FFの場合は前輪が、舵を切る役目と駆動する役目の両方をこなさなければいけない。すると、どうしてもハンドルの手応えが悪くなる。
舵は前輪、駆動は後輪と役割を分担するFRは、コーナーでハンドルを切った時のフィーリングがすっきりするのだ。
FFの前輪は、経理と営業の両方をこなす人みたいで、たしかに人件費は抑えられて効率的だけれど、ちょっと慌ただしいのだ。
ドライブフィールも内装もプレミアム
というわけで、マツダCX-60は開発段階から、効率よりも贅沢さ、上質さを狙って企画されたモデルなのだ。
マツダCX-60のパワートレインは豊富で、ガソリン、ディーゼル、ディーゼル+マイルドハイブリッド、ガソリン+PHEV(プラグインハイブリッド)と、4種類が用意されている。今回は、ディーゼルとマイルドハイブリッドを組み合わせた「マツダCX-60 XD ハイブリッド・プレミアムスポーツ 4WD」に試乗した。
ガソリンとディーゼルにはFRが設定されるけれど、マイルドハイブリッドとPHEVは4WDのみとなる。
低い速度ではモーターが主役、速度が上がるにつれてエンジンの存在感が増すパワートレインは、あらゆる速度で力強い加速を提供してくれる。
そして、エンジンの回転が上がるにつれ、「あぁ、やっぱり直6の回転フィールはいいものだなぁ」としみじみする。いまや直6を提供するのは、メルセデス・ベンツやBMWなど、一部のプレミアムブランドに限られている。
速度が上がれば上がるほど路面に吸い付くように感じる乗り心地は、ヨーロッパの高性能車を思わせる。この冬、豪雪の東北をこのクルマで走破した時には、その安定性に驚かされた。
速度が上がるほどに、路面コンディションがタフになるほどに本領を発揮する、頼りがいのあるクルマなのだ。
乗り心地がいいだけでなくハンドリングが優れているのは、マツダ車共通の美点。ハンドルを切ると、狙った通りのラインをトレースしてくれるから、気分がいい。広島の、クルマ大好きエンジニアたちが丹精込めてチューニングしたことが伝わってくる。
最後になったけれど、インテリアの設えがいいことも、ヨーロッパ車愛好家にこのクルマを薦めたい理由のひとつだ。
内装にはいくつかのスタイルが用意されていて、どれも派手さはないけれど、機能とデザインを両立している。つまり、見た目をよくするとともに、使いやすい人間中心のインテリアになっている。
そしていくつかの世界観のインテリアから、自身のスタイルに合わせたものを選ぶことができる。「走る・曲がる・止まる」の基本性能だけでなく、このクルマと暮らす生活を想起させるという意味でも、高く評価したい。好んでヨーロッパ車に乗るような方の、選択肢のひとつになるのではないだろうか。
問い合わせ
マツダコールセンター TEL:0120-386-919
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。