PERSON

2025.10.06

95歳・最高齢役者、元気の秘訣は肉、肌艶の理由はメンソレータム【精神科医分析④】

伝統の歌舞伎界で今も舞台に立つ現役最高齢の名脇役・市川寿猿さん。片や医学界の常識に囚われず闘い続ける医師・和田秀樹さん。開始早々、寿猿さんが歌舞伎の動きを指導し始めたから、さあたいへん。面白異色対談の始まり始まり〜! 『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。4回目。

和田秀樹と市川寿猿

きちんと3食とる

和田 食事とかは?

寿猿 三度の食事を食べています。食べたくなくても食べるんです。

和田 いいですね。どんなに年を取っても、やっぱりたくさん食べる人は、元気で長生きなんです。

寿猿 ああ、やっぱり。旦那(三代目猿之助)は病気してから、あんまり食べられなくて痩せちゃいましてね。僕はそれを見てましたから「食事だけはしなくちゃいけない」と思って、食べるようになりました。

和田 何を召し上がるんですか?

寿猿 先だって病気をしてから、塩分、糖分は控えるようにいわれているので、それらをサポートしてくれるのは弁当です。朝食はね、僕は自分で用意するんですよ。キュウリのお新香なんかも自分で漬けていましたね。

和田 素晴らしいですね。どんなものが好きだったんですか。

寿猿 肉、野菜、魚、なんでも食べていましたね。

和田 いいですね。やっぱり高齢になると、摂らない害のほうが大きくなるんです。肉が好きな人は、年を取っても筋肉が落ちにくい。だから肉を食べる人は元気なんですよ。この連載に登場された方は、全員そろって「肉が好き」と言っています。

寿猿 そうなんですか。僕も肉は好きですよ(笑)。

和田 肉料理では何がお好きですか?

寿猿 本当は、たまにビフテキなんかも食べたいですよね(笑)。専門の人に聞いたらね、フライパンで焼くときは、あぶくが3つ4つプクップクッと出たらひっくり返すといいと教わりました。生の部分がちょこっと見えるほうがいいんですってね。

和田 そうです。そのほうが味もいいし、肉の大事なところまで死なないんです。

市川寿猿
市川寿猿/Juen Ichikawa
歌舞伎役者。1930年東京都浅草生まれ。主に立役(男役)。屋号は澤瀉(おもだか)屋。女歌舞伎の坂東勝治に入門。二代目市川猿之助や三代目市川猿之助に師事。1975年、二代目市川寿猿を襲名。旧ソ連での歌舞伎公演やスーパー歌舞伎の初演にも参加する。現役最高齢ながら、現在も年間100回近く舞台に立ち続けている。歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」通し狂言『義経千本桜』の第三部Aプロ(2025年10月1〜9日)に出演。

日頃の運動が大事

和田 歌舞伎の役者さんって、足取りが大事ですよね。

寿猿 だからね、僕は普段、杖を突かないんですよ。杖を突くようになったら、役者をやめようと思うの。

和田 まだまだ大丈夫ですね。

寿猿 僕の住んでいる所は、駅までは15分くらいかかります。パンを買いに近所の商店街に行ったりもします。

和田 いいですね。動くのを億劫がるようになると、徐々に足が弱っていきます。

寿猿 そうでしょうね。僕は毎日歩くことが運動になると思っていますからね。

和田 おっしゃる通りです。例えば、日曜日だけゴルフをしたり週1でジムに通う人がいます。もちろんそれもいいんだけど、運動って「運動溜め」ができないんですよ。少しずつでも毎日動いたほうがいいんです。

和田秀樹
和田秀樹/Hideki Wada
精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『幸齢党宣言』など著書多数。

肌艶はメンソレのおかげ?

和田 寿猿さんはお肌の艶もいいですね。とても95歳には見えません。

寿猿 メンソレを塗ってますからね。20代からずっとね。

和田 メンソレ? え、メンソレータムですか。

寿猿 そうそう。メンソレータム。肌になじむんですよ。もうどんなことがあってもね、メンソレを塗ってます。

和田 たしかに油分はあるのでいいんでしょうけど……。

寿猿 よくこするんです。朝起きて顔洗った後、メンソレを塗ってこするでしょ。舞台で化粧をするときも、こうやって、こうやって、こうやって(顔全体をくまなく)こするわけです。

和田 こすると血行もよくなりますからね。それもいいのかもしれません。

寿猿 この間ね、「僕いくつに見える?」って聞いたら「75くらいですか」って。「95だよ」って言ったら「えー!」って驚かれました(笑)。

和田 メンソレでこすってるから(笑)。歌舞伎の役者さんは白塗りのお化粧をするから、肌は荒れると思っていましたが、ちょっと意外でした。

寿猿 舞台でも特別な役のときは下地に鬢(びん)付け油を塗ったりします。でも普通の化粧のときは、僕はメンソレですね。これはね、初代猿翁がやってたんですよ。「この人はお金があるのに、なんでこんな安いのを使うのかな」と思いながら、僕は見てましてね。それからずっとメンソレです。

和田 なんかメンソレからCMの話がきそうですね(笑)。

寿猿 水で顔を洗うのもいいらしいですね。僕はどんなに寒いときでも朝は冷たい水で洗います。石鹸も何も使わずにね。その後メンソレをつけてこする。

和田 (笑)。

寿猿 僕はね、話し過ぎちゃうから、適当にカットしてくださいな。

和田 じつは、鏡で自分の顔を見るというのも、若さを保つ秘訣なんです。

寿猿 そうですか。僕もね、鏡はよく見ますよ。眉も自分で描きますしね。眉毛はちょっとはがれちゃったけど(笑)。

お酒は飲まない

和田 お酒は?

寿猿 今は飲みません。若い頃は飲みましたけどね。

和田 そうなんですね。お住まいは?

寿猿 高齢者用の賃貸マンションです。僕の部屋はワンルーム。朝10時になるとね、ブブーッと鳴って「星になってませんか」と確認の電話が来る(笑)。

和田 安心できますね。好きに外に出てもいいんですか?

寿猿 制約などはありません。僕が言ったことに応えてくれます。夜なんかもね、僕が遅く帰るとドアを開けてくれます。ちょっとおかしいなと思ったら、待っててくれる。声をかけてくれたりね。ありがたいですよ。

和田 いいですね。

寿猿 眠るときはカーテンを少しだけ開けておきます。すると朝日が入って目が覚める。そうやって自然に起きるようにしています。

※5回目に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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