PERSON

2025.06.16

飽きっぽさが長生きの秘訣!? 88歳・横尾忠則の前頭葉を精神科医・和田秀樹が分析①

横尾忠則さんと和田秀樹さん。美術と医学、別世界で壁を壊し続けるふたりに共通する“自由自在”な生き方とは。「見えない世界」が見えてくる面白対談! 『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

和田秀樹氏と横尾忠則氏

絵を描いている人は長生き

和田 いやあ、すごいなあ。どの絵も素晴らしいですね。

横尾 グッチ銀座 ギャラリーで個展を開くので今はそれを描いてます。それ以外の絵は、今度、世田谷美術館でやる大きな展覧会のものです。

和田 横尾さんは僕が小さい頃からすごい芸術家でしたからね。サイケというかポップというか原色を使った奇抜なグラフィックの印象が強いんですが、今はこういう画風なんですね。

横尾 小さい頃って和田先生、今、おいくつですか。

和田 64です。中学生ぐらいの時に『平凡パンチ』とかを見て、すごい芸術家だなあと。

横尾 中学からそんな週刊誌。先生はおませだったんですね(笑)。僕の時代は文化らしい文化がほとんどなかったから。

和田 それでもずっと美術の世界を突っ走り、今も生き生きと描き続けてるのだからすごい。

横尾 いやいや、生き生きなんて、全然(笑)。

和田 医者の僕が言うのもなんですが。結局ね、医者の言うとおりにやっても元気に長生きできるわけじゃないんですよ。

横尾 そんなこと言っていいんですか。お医者さんが(笑)。

和田 医者の言うことなんか聞くより、元気で長生きしている本人の話を聞くほうがよっぽどためになる。だから僕はこうして話を聞くんです。

横尾 88歳って、長生きの部類に入るんですかね。

和田 平均寿命を超えてますからね。しかし88には見えませんね。髪も黒いし肌も艶々で。

横尾 髪の毛はね、まだ抜けてないんですよ。あまり白くもなってない。だけど医学が長生きさせてくれてるんじゃなく、創造的な仕事をすることによって延命させられてる。そんなふうにも思いますね。

和田 ピカソもそうですが、絵を描いている人は長生きなんです。横尾さんは作風をガラリと変えたりしている。そこにも長生きの秘訣があるのかもしれませんね。何度も違う人生を生きてるみたいな。

横尾 先生がさっき言ってたグラフィックは、もう45年前に終わってましてね。そこから画家に転向したんです。

和田 変化は大事ですよ。脳の前頭葉という部分に刺激を与えるんです。前頭葉は年齢とともに弱ってくるんですが、放っておくと、どんどん意欲がなくなり、老けこんでしまうんです。

横尾 ああ、だから僕は大丈夫なのかな。非常に飽きっぽい性格ですからね。ひとつのことに熱中すると、すぐに飽きちゃうんですよ。次のものにまた心変わりするわけです。すると次から次に何かが変わる。そうやって自然にね、変化できていくのかなと思ってます。

和田 それは横尾さんの若さにもつながっていると思います。

考えるとダメになるから考えない

横尾 僕としては変化をしようとか、変化を意図して作風を変えようとしているんじゃないんです。もう飽きちゃうから、次々と変えていくだけのことでね。

和田 絵を描いている時はどうなんですか?

横尾 絵を描く時は極力、観念とか、その表現を言語化するとか、そういったことから解放されないと。アスリートの瞬間芸的な状態にならないと絵が描けないんですよ。

和田 アスリートの瞬間芸?

横尾 例えば、水泳の飛込競技では、上へ上がってから下に落ちていく。この間は、競技者は何も考えてないと思うんですよ。その時間を、僕は自分のアートの時間に置き換えたいと思っていまして。アスリートは「ここでどう動く」とか「今晩は家に帰って晩ご飯は何を食べよう」なんて思いながら動かないでしょ。だから絵を描く時も極力ね、アスリートの瞬間芸のように身体性だけで描くんです。

和田 考えたら身体が動かない。

横尾 考えるということによって手が動かない、筆が動いてくれない。だから極力、頭の中を空っぽにする。まったく考えないというのは無理なので、考えますけども。ほとんどもう無意識の状態で、無意識の他動的な力を借りちゃうみたいなね。それが僕のやり方なんですよ。

和田 独特の方法ですね。

横尾 現代美術っていうのは徹底的にコンセプチュアル・アートなんです。考えて、考え抜いて、考えが言語化されるところまで考えていくんですよ。それでやっとその作品を作るわけです。僕はまったくその反対。頭を空っぽにした状態で、アスリートの瞬間的な行動のように描きますからね。

和田 今の医療も横尾さんとは真逆ですよ(笑)。無理やり人工的にしようとする。

横尾 自然治癒ってあるじゃないですか。だけど医者はすぐに手術って言うからねえ。僕も足の指を骨折してね、病院へ行くのは嫌だから、そのまま富士山に登ったりしてたんです。そしたらいまだに痛い。もう20年ぐらい経ってますけど(笑)。で、お医者さんに「この痛みいつ取れますか」と聞いたら「30年かかります」と。「じゃ、僕が死んで、足の痛みだけ生きてるんですか」と言ったら「まあ、そういうことですね」と。病気も、面白いですね(笑)。

※2回目に続く

談笑する横尾忠則氏と和田秀樹氏
横尾忠則/Tadanori Yokoo(左)
現代美術家。1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ世界各国の美術館で個展を開催。2015年には高松宮殿下記念世界文化賞受賞。日本藝術院会員。文化功労者。2025年6月22日まで、世田谷美術館にて個展「横尾忠則 連画の河」、8月24日まで、グッチ銀座 ギャラリーで「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」を開催中。

和田秀樹/Hideki Wada(右)
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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