89歳の今も現役で活躍するホリスティック医学の第一人者、帯津良一氏と幸齢者の強い味方・和田秀樹医師。ふたりの“型破り”かつ“ぽかぽか”な対談から、人間と人生を尊重する明るい生き方が見えてきます。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。1回目。

年中無休でときめく!
和田 お久しぶりです。
帯津 半年ぶりくらいですか。
和田 ですね。帯津先生はいつお会いしてもニコニコされていて、今日もお顔は艶々です。
帯津 実はさっき診察を終えたあと、缶ビールをね。和田先生なら怒られないだろうと(笑)。
和田 (笑)。お酒は今も毎日?
帯津 はい。365日。60年以上続けています。私は今日が最後の日だと思って生きているんでね。毎日が最後の晩酌だと思って飲んでいます。
和田 元気の秘訣ですね。お仕事は今もふたつの病院で?
帯津 はい。この池袋のクリニックで週2回。本拠地の川越の病院で週3回。
和田 平日5日、全部?
帯津 はい。土日は自由。そこで講演に行ったりしてます。
和田 年を取っても働いたほうが確実に若返りますが、すごい!
帯津 働くのは大好きでね。何もない日が嫌いなんです。
和田 それは素晴らしい。
帯津 正月休みは一番嫌い。だから元旦には私が病棟回診をします。全部回るんですよ(笑)。
和田 帯津先生の話はもう、ユニークなものばかりで(笑)。
機嫌よく生きてると免疫力が上がる
和田 帯津先生がすごいと思うのは、軸足が医療ではなく、生き方とか、人間そのものを見ているところです。
帯津 以前、和田先生に「朝に生ビールを飲む」と話したら褒められたでしょ。嬉しかったですね。生身の人間として見てくれている。
和田 僕は精神科だから、特にそうなのかもしれませんが、気分をすごく大事にしていて。
帯津 おっしゃるとおりですね。
和田 機嫌よく生きてるほうが免疫力も上がります。でも日本って、そういうことにうるさいじゃないですか。
帯津 そう。朝からお酒を飲むのは「けしからん」と(笑)。
和田 だけどヨーロッパなんかでは、昼からビールやワインを飲んでいる。人生を楽しんでいるんですよ。僕はそれが大事だと思います。
帯津 私は生ビール好きでホテルに泊まると必ず朝食の時飲むんです。だけど近頃は「朝は出しません」と言われて、がっかりすることが増えました。あれが楽しみで泊まってるようなものなのに(笑)。
和田 それで一日を気分よくスタートできるなら、とてもいいような気がしますけどね。
帯津 本当にそう思いますね。
和田 今の医学や科学では「身体にいいもの」とか「悪いもの」という考え方をしがちです。でも実際は「身体に悪いはずだけど美味しい」ものも多い。それはね、身体が喜ぶものなんです。それを「身体に悪いものだ」と決めつけて本当にいいのかなと、僕は思いますけどね。
帯津 貝原益軒(えきけん)の『養生訓』に「好きなものは薬にあつべし」とある。「好きなものは薬だ」と。私はこれを最初から信じてるので好きなものしか食べない。
和田 いいですね。日本人は「贅沢は敵だ」とか「我慢が大事だ」みたいなことを言って、しかめ面をして生きてます。
帯津 だけど、本当は好きなことをして自分が美味しいと思うものを食べて、ときめいて生きるのが一番なんですよ。
人生の幸せは後半にあり。ナイス・エイジングのすすめ
和田 帯津先生は「こうやって生きたらいいよ」という手本のような方です。
帯津 嬉しいですね。これも貝原益軒ですけど「人生の幸せは後半にあり」っていうのを、きちっと守ってきたらね。84〜85歳の頃から、なんだか気持ちが幸せになってきましてね。
和田 素晴らしいですね。
帯津 いつでも死後の世界に呼ばれたら行こうと思い始めたんですよ。そしたらフットワークもよくなって、日々の生活が少し充実してきた感じがしますね。
和田 生き方が軽やかで素敵です。例えば、同じく東大の医学部を卒業しても、教授になるために競争とか蹴落としに明け暮れる人がいます。
帯津 多いですよね。私はそういうのは興味がなかったけど。
和田 僕もです。仮にそれで東大教授になれても65とか70歳になると引退するわけです。だったら出世にこだわって歪な人間関係の下でストレスを抱えて生きるより、帯津先生みたいに毎日をときめいて生きたい。そのほうが年を取ってからもハッピーだと思うんです。
帯津 世間ではよく「アンチ・エイジング」なんて言うでしょ。だけど年齢には抗えない。老化と死っていうのは神の摂理みたいなものですからね。
和田 必ずやってくる。
帯津 はい。だから私は「ナイス・エイジング」を目指そうと言っています。老化と死のあることを認めてしまうんです。受け入れたうえで、老化に楽しく抵抗しながら、自分なりの養生を果たしていく。そして最後は「生と死の統合」を目指す。死後の世界に期待するわけですよ。
和田 生と死の統合?
帯津 はい。人生の幸せな後半生では、ナイス・エイジングを毎日心がける。
和田 ときめきですね。
帯津 はい。ときめきをキャッチして生命を躍動させる。エンジンをブブーンとふかせば、この年齢でも健やかで活気に満ちた毎日を過ごすことができます。
和田 いや、本当に素晴らしい。
帯津 そして、あわよくばその勢いのまま、あの世に乗りこんでいく(笑)。人生の終わりにエネルギーを減らすのではなく、逆に増幅していく。そんなふうに私は考えているんですよ。
※2回目に続く

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。
帯津良一/Ryoichi Obitsu(右)
医学博士。1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。がん治療を専門とし、西洋医学に中国医学や代替療法を採り入れたホリスティック医学を提唱する。著書に『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』など。