放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「自分の考えや意見を他人にうまく伝えることができません。先日、桝本さんがコラム内でふれていた、話題が豊富な人になるための『NG式トーク法』というのが気になりました。よければ詳しく教えてください」という相談をいただきました。
自分の考えや意見はあるのに、うまく伝えることができない人はとても多いですよね。
また最近は、ChatGPTで漫才のベースも作れる時代になったので、話芸を教えている立場からすると「自分の言葉を持っていない人が増えているな」という感覚もあります。
そこで今回は、以前少しだけふれた『伝わる言葉を身につけるNGトーク法』について詳しくシェアしていきましょう。
吉本NSC流「NG式トーク法」とは
このメソッドを授業に取り入れたのは約8年前。きっかけは一人の生徒でした。
その生徒は、怠惰な性格から出席日数が足りず、NSC側に説明とお詫びをしなければ在籍が危ない状況でした。
そのとき僕は「ごめんなさい、すいませんを使わずに謝ってごらん?」と言って送り出してみたんです。
すると後日、晴れやかな顔で「めちゃくちゃ伝わりました!」と感謝をしてくれたので、これは授業で使えるかもなと膝を打ったのです。
NG式トーク法とは「ごめんなさい」「すいません」のように“定番フレーズをあえて使用禁止”にして会話してみるゲーム感覚のメソッドです。
▼告白するときに「好き」「愛してる」を使わない
▼スピーチで「四字熟語」「格言」を使わない
▼部下に「なぜできない?」「前にも言ったよね?」を使わない
▼しつけで「やっちゃダメ」「勉強しなさい」を使わない
~など、あらゆるシチュエーションでプレイできます。
私たちが職場や日常で使っている言葉は、思いのほか定型文・引用文などのストックフレーズが多いので、NG式トークをはじめてみると自分なりの語彙や表現力が身につく。いわば、前述の生徒のようにテンプレ化した謝罪ではなくなるので、相手に伝わる・刺さる言葉を獲得できるんですね。
ちなみに、僕の授業ではこれを発展させて、野球好きな芸人は野球トーク禁止、下ネタ好きは下ネタ禁止、元ヤンキーは武勇伝禁止など、あえて十八番ネタをNGにしてトークさせています。
まずはNGフレーズからはじめてみて、そのフレーズを手放すことができるようになるとステップアップ。
今度は、職場や飲み会などで多用してしまっている「お得意の話題」を封印してみましょう。
「日常」というトレーニングルームで話題を生産する力がついてくると、おのずとビジネスシーンでも相手に伝わる言葉の持ち主になっていくはずです。
「伝わる熱」につながるNG式ライフ法
相談者さんのように「他人にうまく伝えることができない」と悩んでらっしゃる方は「伝える熱はあるか?」という点にも目を向けてみましょう。
芸人さんのトークが面白いのは「熱があるから」です。
明石家さんまさんのような熱弁タイプは言うまでもありませんが、一見トークに熱を感じないカズレーザーさん、又吉直樹さんのようなタイプも、実はトークの構成や言い回しにこだわり、どう運べば伝わるだろう? より短文で刺さるワードは何だろう?と思考している。つまり「事前の熱量」があるので平静な物言いが「芸」に昇華しているのです。
なお、話芸を高めるにはある程度の勉強が必要ですが、熱量は誰でもすぐに高められます。
遠足や修学旅行から帰ってきた子供が堰を切ったように喋るのはリアルな熱=実体験があるからですよね?
これと同じように、ビジネスパーソンは忙しい日々の中で「実体験を生産して熱量を上げていく」ことが必要な時代です。
時代とは、私たちの時間と実体験を奪うように設計されているスマホ、アプリ、サブスクといった便利ツールから、時には距離を置いて自分時間を生産する時代だということ。
ちなみに僕は、約2年前にSNSを絶って実体験を増やす生活にシフト。さらに終電前のタクシーはやめて電車を使う、極力ネットショッピングはやめて店舗に行って選ぶなど「NG式ライフ」によって目と手にふれる体験を増やし、会話の熱を上げていきました。
興味を持った方がいらしたら是非やってみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。