89歳の今も現役で活躍するホリスティック医学の第一人者、帯津良一氏と幸齢者の強い味方・和田秀樹医師。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。5回目。

患者さんの元気を出す方法
和田 患者さんたちは、食事はわりと、好きなものが食べれるんですか?
帯津 そうですね。それはもうずっとやってきています。
和田 僕自身、糖尿病なのでよくわかるんですけどね。糖尿病っておしっこも近くなるし、喉も渇くし、イヤな症状がいっぱいあって気分が重くなるんです。そのうえ食べるものまで我慢させられたら、これはもう免疫力が落ちるなと思って。それで僕は糖尿病なのに、好き放題食べてるわけです(笑)。
帯津 のびのびとやる時間が多いほうがいいですよね。
和田 本当にそう思います。お酒は飲めるんですか。病院の中でも。
帯津 私は飲みますよ(笑)。患者さんにも、以前は「この人、お酒が好きだろうな」と思うと、私は日本酒の1合瓶か2合瓶をポケットに入れてたんです。回診の後に、ひょいと渡すとニコーッと嬉しそうな顔してね。
和田 そりゃそうですよね。
帯津 だから私、言うんです。「あんたね、飲み終わった瓶をその辺りに置いて看護師に見つかったらダメだよ」って。すると「わかってます」なんて言って、うまくやってくれますよ。
和田 (笑)。
帯津 ところがね、最近は変わりました。
和田 ああ、やっぱりね。
帯津 看護師さんの前で私が酒を出してもね、看護師さんは何も言わなくなった。だいぶ進歩しましたよ(笑)。
和田 いやー、そっちですか。愉快ですね(笑)。患者さんが元気になっていく姿を見るうちに、看護師さんもだんだん変わってきたんでしょうね。帯津先生の姿に感化された。
帯津 そうかもしれませんね。そもそも無茶な飲み方なんてしませんからね。
和田 ちょっと飲むだけならね。そんなふうに、病院側に寛容さがあってもいいと、僕は思うんですよ。
帯津 本当ですね。
和田 病院の中で歌を歌ったりダンスしたり、レクリエーションをするようなところはあるんです。でも日常的な喜びがないんです。例えば、普通においしいものを食べるとか、少しだけお酒を飲むとか、普段の生活で当たり前にやってる幸せを経験できない。それが治りを悪くしてる気もするんですよ。
帯津 本当にね。そういうことをなるべく自由にする部分が増えてくるといいですけどね。
和田 とくに高齢者の場合、すごくイヤな言い方だけど、老い先が短いわけですから。残された人生の時間で、いろんなことを我慢しているのは、僕にはかわいそうに見えちゃうんです。もちろんね、「いろんなことを我慢してでも長生きしたい」という人は、それでもいいと思うんだけど。
帯津 「ここまで生きたんだから、もう好きにさせてくれ」っていう人もいますからね。
和田 はい。そういう人には、もう少し自由があっていいと思うんです。

医学博士。1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。がん治療を専門とし、西洋医学に中国医学や代替療法を採り入れたホリスティック医学を提唱する。著書に『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』など。
笑顔でいられる理由
和田 帯津先生は、いつも笑顔です。イライラしたり、怒ったりされないんですか(笑)。
帯津 しないしない(笑)。私はね、怒ることはないんですよ。
和田 若い頃からですか?
帯津 昔からね。駒込病院に勤めてる頃ね、看護師さんの間で私は「仏の帯っちゃん」って呼ばれてたんです。
和田 仏の帯っちゃん(笑)。
帯津 怒んないからね。ところが5年ぐらいしたらね、「仏じゃなくて、ほっとけだ」と。
和田 ほっとけ?
帯津 そう。放っておけ。それで「ほっとけの帯っちゃん」になっちゃった。私は自分に関係ないと思うことは、放っておく人間でね。「我関せず」のところがあるんです。たいていのことはお任せしといて大丈夫だと思っていますからね。
和田 なるほど。放っておいてもなんとかなると?
帯津 はい。「これは絶対に自分がタッチしないといけない」ってことはあるんですよ。でもそういうことはうんと少ない。ほかのことはだいたいタッチする必要はない。そう思うと、怒ることもなくなってくるんですね。
和田 いいですね。「○○しないと」とか「○○でなければ」なんて思ってるとイライラしますからね。
帯津 そう。例えば、挨拶したのに無視されたとか、親切にしたのにお礼がないとか、みんな言うでしょ?
和田 ですね。
帯津 でもね、私はまったく気にならない。自分の人生や世の中に影響はないからです。「これだけは譲れない」ということがあったら抗議してもいいと思うんですけどね、そういうことはそんなにあるものではない。
和田 なるほど。帯津先生の「ほっとけ」は筋金入りなんですね(笑)。
帯津 「ほっとけ」の度合いは年を取るにつれて高まっているようにも感じます。
和田 人間が熟成してきた?
帯津 何事にも熟成していく過程がありますからね。人生にはほどよいタイミングがある。それに気づいたからだと思います。
和田 なるほど。思い通りにいかないことがあっても「そりゃあそうだろうよ」と鷹揚に構えていられるんですね。
帯津 はい。何事にもタイミングがあると思っていると、思い通りにいかないことがあってもイライラしません。「今は熟成中なんだ」と気持ちを切り替えることができるんです。

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。
こだわらないことが大事
和田 こだわりが少ないんでしょうね。晩酌の時間は、決まっているみたいですが(笑)。
帯津 基本的に、仕事も含めて好きなことだけをして生きています。朝食も、いつもは、たいていココアと昆布茶です。
和田 両方、液体(笑)。
帯津 いいですよ、さっぱりしていて。それでもココアはミネラルとビタミンが豊富だし、食物繊維も入っているので便通にもいいんです。昆布茶はカルシウムが入っているのでね、骨の脆弱化を防いでくれます。
和田 いいですね。
帯津 ただ火曜日はね、総師長が作ってくれる日なのでね。みたらし団子とかあんこの入ったまんじゅうみたいなのが出るんです。師長は私が甘い物を大好きなのを知ってるもんですから。それをおいしくいただきます。本当にありがたいですよね。
※6回目に続く