89歳の今も現役で活躍するホリスティック医学の第一人者、帯津良一氏と幸齢者の強い味方・和田秀樹医師。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。3回目。

「酒が飲めるかも」と患者さんが転院してくる
帯津 がんの患者さんで「あそこの病院に行けば酒が飲めそうだ」ってうちの病院に移ってくる人がいるんですよ。
和田 いいですね。
帯津 ある作家の方でね、食道がんがかなり進行して、移ってきた方がいました。「先生、お願いします」って言われて、この人飲みたいんだなとピンときた。で、焼酎を1本持っていったんですよ。そしたら嬉しそうに布団の中に隠してね(笑)。
和田 いいですね(笑)。
帯津 何日かしたら「先生、もう飲んじゃったよ」って言うので、今度は「百年の孤独」という焼酎を持って行ったの。
和田 いい焼酎ですね。
帯津 喜んでね。だけど、全部飲み終わらないうちに亡くなったんですね。そしたらなんと、葬儀のときに、お焼香台に、その飲みかけの「百年の孤独」が立っていたそうです。
和田 いい話ですね。
帯津 ね、いいですよね。

残りの人生を楽しもう
和田 この病気になったら終わりじゃなく、この病気でも残りの人生を楽しもうという生き方ですよね。人間ってやっぱり、希望や喜びがあると、生きる気力みたいなのが出てきますからね。
帯津 はい。私も前に和田先生から、糖が高いほうがいいとかコレステロールが高いほうが長生きするって教わったでしょ。ああいう話は本当にうれしいよね。心が明るくなって元気が出てきましたからね。
和田 そんなふうに言ってもらえると、僕も元気が出ます。
帯津 だからホテルに泊まった日の朝は、生ビールとオレンジジュースを飲むことにしたんです。ビタミンCを取る。
和田 いいですね。
帯津 3つ目が、コーヒーに砂糖をいっぱい入れて飲む。糖分です。あと目玉焼きを1個。これはコレステロールです。
和田 栄養はやっぱり大事ですからね。戦前、日本人の平均寿命が50歳に満たなかったのは栄養状態が悪かったからです。今、長生きになったのは、普通に考えて、栄養がよくなったからですよ。なのに医者は、薬や検査のおかげだと言う。
帯津 医者の多くは、患者さんを生身の人間ではなく、検査の数値や一定の部分で捉えがちですからね。機械のように、画一的に修理しようとするんです。私の病院にはそれを嫌い、駆け込んでくる患者さんもいます。
和田 帯津先生はますます忙しくなる(笑)。
帯津 私は休むのが嫌いなんでね。元旦に病棟回診する話をしたけど、12月29日から1月3日まで6日間も休んでいられませんからね(笑)。
和田 先生のニコニコした顔を見ると患者さんも元気をもらえると思います。
帯津 私のほうこそ、働くとお酒がうまい。やっぱり疲労感や達成感があると、うまく感じるんですね。
和田 あー、それはわかります。僕もね、今回の選挙で期間中は3食ずっとお弁当なんです。1日中演説して動き回ってくたくたになるでしょ。やっとね、家に帰って簡単なコンビニのおつまみで飲むんですが、この1杯がうまい。美味しく感じるわけです。すごくよく眠れますしね。
帯津 いいですね。
和田 僕は糖尿病なので夜中に何回も尿意で目が覚めるんです。でもその回数も減りましたね。だからやっぱり、働いてお酒を飲むっていうのは、心身の両面でいいんでしょうね。
帯津 私はね、忙しく仕事をしていても「ああ、あと2時間すると飲めるな」なんて思うと、嬉しくなってね。
和田 (笑)。

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。
帯津良一/Ryoichi Obitsu(右)
医学博士。1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。がん治療を専門とし、西洋医学に中国医学や代替療法を採り入れたホリスティック医学を提唱する。著書に『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』など。
規則正しく好きなことをする
和田 お酒は何を?
帯津 ビールとウイスキーです。
和田 おつまみは?
帯津 本マグロが一番好きです。それからカツオのたたき。フグ、この3つが三本柱。それから湯豆腐ね。余計なものが入らないのがいいんですよ。黄色味を帯びたような濃い目の昆布出汁と豆腐だけのものが好きですね。夏でも熱いものがいいです。
和田 いいですね。
帯津 甘いものも好きでね。きんつばとか、わらび餅とかを食べながらウイスキーを飲む。
和田 診察が終わってからだと、だいたい5時半くらいからですか。
帯津 そうですね。5時半から2時間ぐらいです。それから家に帰ってお風呂に入る。8時45分のNHKのニュースを見て、それで寝ます。
和田 規則正しいですね(笑)。
帯津 はい。理由があってね。起きるのは午前3時30分。以前はもう少し遅かったんだけど、午後5時30分には晩酌を始めたいので、どんどん起きる時間が前倒しになっちゃった。
和田 本当に素晴らしい。ご自宅は病院の近くですか?
帯津 川越の病院から歩いてすぐのところです。朝5時前には家を出るんだけど、病院からは「暗いうちは危ないから歩かないでほしい」と言われて、タクシーに乗っていくんです。すると2分くらいで着いちゃう。
和田 朝5時からお仕事ですか。本当にすごいです。
帯津 診察が8時30分に始まるでしょ。その前にいろんな仕事を片付けます。手紙やFAXの返事を書いたり、全国の患者さんから送られてくる病状を読んで、それに対してホメオパシーの診断を書いたりね。結構、やることがあるんです。猛スピードでそれをやって、6時になると、病院内の道場に行きます。
太極拳で生命エネルギーを増幅する
和田 道場では何を?
帯津 太極拳。一人でね、太極拳を舞うんです。時間にすると7~8分ほどです。
和田 太極拳は長く続けていらっしゃるんですか?
帯津 40年ぐらいやってます。今でもね、フッと気がつくことがあるんですよ。だから面白いですよ。
和田 太極拳は何が大事なんですか?
帯津 太極拳はね、「套路(とうろ)」という流れるような動きが大切なの。ダイナミズムがあるから、終わるとちょっと嬉しくなる。気分がよくなるんです。
和田 なるほど。体のエネルギーというか、生命力が出てくるような感じですか?
帯津 そうですね。太極拳は一生やるものだし、あの世に行ってもやらなきゃいけないものだと思ってますからね。むしろ死んでからが勝負だと思ってるくらいです。だから舞おうなんて思わない。失敗しても気にしないで、淡々と舞うんです。
和田 帯津先生のお元気の秘訣は晩酌だけじゃなく、ここにもあったんですね(笑)。
帯津 はい。太極拳の後は、また部屋に戻り、原稿を書いたり、校正をしたりします。ここでモタモタしてしまうと、診療後に仕事をすることになり、晩酌の時間が遅れてしまいますからね。それは避けたいので、集中して取り組むんです(笑)。曜日によって多少の違いはあるけど、だいたいこんな感じですね。
※4回目に続く