PERSON

2025.09.20

「アルコールによる肝障害数値は、正常値の5倍。でも、私は健康なの」89歳医師の元気の秘訣【和田秀樹対談⑥】

89歳の今も現役で活躍するホリスティック医学の第一人者、帯津良一氏と幸齢者の強い味方・和田秀樹医師。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。最終回。

「アルコールによる肝障害数値は、正常値の5倍。でも、私は健康なの」89歳医師【和田秀樹対談⑥】

長生きよりも残りの人生をどう生きるか

和田 僕は高齢者医療が専門で、長いこと患者さんと向き合っているうちに、だんだんと「長生きすること」より「残りの人生をどう充実させて生きるか」のほうが大事だと思うようになってきまして。

帯津 同感ですね。

和田 しかも帯津先生がおっしゃるように「死を怖がりすぎないで受け入れる」ほうが、たぶん幸せになれるとも思っているんです。それと「その人らしく病気の中でも生きていく」っていうね、それを周りでちゃんと整えてやるっていうのが医療だろうと思うんですよね。

帯津 その通りだと思います。

和田 なのに普通の医師は、患者さんの幸せより「検査データを正常にする」とか「病気を治す」ということにばかり意識が向いています。もちろんそれも大事なんですよ。だけど「それがこの人にとって本当にいいことなのか」とは、あんまり考えてあげていない気がして。

帯津 本当ですね。ちなみに私は、アルコールによる肝障害の指標となる数値は、正常値の5倍です(笑)。つまり私の体は、数値上は健康ではありません。ところが私は健康なのです。毎日好きなものを食べ、朝5時から仕事をして、太極拳を舞い、自由に話し、晩酌を楽しんでいる。女性にもときめく。これを健康と言わず、なんと言うんでしょうか(笑)。だから私は、健康診断の結果は気にしません。あれは余計なお世話だと思っているんですよ。

和田 (笑)。帯津先生は、元々は外科医だったんですよね?

帯津 そうです。東京都が駒込病院をがんセンターにして、私は食道がんのスタッフの1人として呼ばれました。私は大学に残るような人間じゃないし、そもそもなんでも診れる開業医になりたいと思っていたんですけどね。でも東京都のがんセンターで7年間働きました。これは私にとってはいい勉強になりました。ただし、そこで西洋医学の限界を感じましてね。

和田 なるほど。

和田秀樹
和田秀樹/Hideki Wada
精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。

西洋医学の限界

帯津 西洋医学はやっぱり命を診ようとしない。体はよく診るけどね。それで命を診る医学を目指そうと、東京都の衛生局にお願いして、北京のがんセンターに行かせてもらったんです。

和田 そこで中国医学を習ったんですね。

帯津 はい。帰国して、駒込病院で中国医学をやろうと思ったんですが、無理そうなので、郷里の川越に病院をつくり「中西医結合(ちゅうせいいけつごう)」をやろうと。そしたら北京でお世話になった漢方医が「漢方は俺に任せろ」と頻繁にきてくれて、病院の基礎をつくってくれたんですよ。

和田 なるほど。

帯津 そこへ今度はアメリカからホリスティック医学が入ってきましてね。ホリスティック医学を追究して、もう30年以上になります。でもさっきからお話ししてるように、人間を丸ごと診て、いろいろ人間同士で付き合っていく医療っていうのは、やっぱりいいと思うんですよね。

和田 そう思いますよ。とくに高齢者が増えてきた今の時代には、人間を診ようという姿勢が大事になると思っています。

帯津良一
帯津良一/Ryoichi Obitsu
医学博士。1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。2004年に東京・池袋に統合医学の拠点、帯津三敬塾クリニックを開設。がん治療を専門とし、西洋医学に中国医学や代替療法を採り入れたホリスティック医学を提唱する。著書に『89歳、現役医師が実践! ときめいて大往生』など。

病気は全体で考える

和田 西洋医学はある意味「排除の論理」と言えます。病気もウイルスも異物も、とにかく人間から切り離して排除しちゃうって考え方をするんです。ところが漢方的な発想だと全体を底上げする。それを抱えていても上手に生きていけるようにする。その発想が僕はすごい大事だと思っているんです。

帯津 そのとおりですね。医療っていうのはね、例えばがんのような病気にしても、1つの叙事詩みたいなところがある。

和田 なるほど。大きな物語ってことですね? がんになるにも理由があるし、治っていく過程にも生命力や自然治癒力が発動される。

帯津 そうそう。漢方はね、その叙事詩のエネルギーを高める気がするんです。その症状をパッと消したりはしないけど、それを飲んでいると、ほかの治療もね、なんとなくうまくいくんですよ。

和田 全体の底上げをするわけですね。人間全体の元気を上げていく。

帯津 そうです。西洋医学は臓器を見る医学です。これに対して、中国医学は臓器と臓器のつながりを見ます。一つの臓器は単体で働いているわけじゃないでしょ。臓器と臓器、細胞と細胞のつながりがあって、体全体で秩序と調和をつくり出している。それが生命だと私は思っていましてね。もっと言うと、臓器と臓器の間にはスキマがあるでしょ? このスキマこそが大事なのではないか。このスキマに体全体の秩序と調和を保つネットワークがあると思うようになったんです。

和田 なるほど。

帯津 そのつながりを私は「生命場」と呼んでいます。そして生命場を活気づけてくれるのがときめきなんです。

和田 帯津先生は日々ときめいているので、生命場が活気づいている。だからエネルギーもあるし、お元気なんですね。

和田秀樹と帯津良一

あの世が好きになってきた

帯津 最初の話(対談1回目)に戻るんだけど、私はあの世がだんだん好きになってきましてね。

和田 生と死の統合ですね?

帯津 そう。あの世に期待と展望を持ってこの世を生きていく。あの世も自分の世の中だと思ってね。そうすると、なんとなくダイナミズムがついてきて、優しさが出てくるんですよね。

和田 ダイナミズムって、生命力とか人間的な大きさ、みたいな捉え方でいいですか。

帯津 そうですね。五木寛之さんと対談しましてね。何年ぶりかにお会いしたんですけど、93歳なのに全然ぼけてないしね、こっちを見る目になんともいえない温かさがあるんですよ。それともう1つはね、手振り身振りで話すんですけど、これも、なんともいえないダイナミズムがあってね。私は嬉しくなってね。これはやっぱり生と死を統合した人の特徴だなと。そういう意味でも、これから年を取っていく1日1日は楽しいですよね。

和田 でしょうね。日本はいつのまにか無宗教な国になってしまい、死後の世界を想像できない人がたくさんいます。だからやたらに死ぬのが怖くなっちゃうんだと思うんですよ。それを痛感したのがコロナのときです。

帯津 そうでしたね。

和田 死なないためなら人と会わなくていい、家に閉じこもっていてもいいと。ありとあらゆる欲望を我慢してでも、とにかく死なない生活をしたわけです。でも僕は、それが正解とは思えない。医者なのに「人間っていうのは死なないことが一番大事」とは思えないんです。

帯津 なるほど。

和田 もちろん命は大事です。でも帯津先生じゃないけど、ときめかない生活をしていたら、命そのものが萎んでしまう。それでいいのかなって。

帯津 そのとおりですよ。この世も悪くないからね、急いで死ぬことはないと思うけど。

和田 おっしゃるとおりです。

帯津 あの世に呼ばれたら、普通に喜んで行ってもいいと思うんですよね。和田先生にはいろいろ教えられますね。

和田 僕のほうこそ、いろいろ教えていただいて。話は尽きないんですけど、晩酌の定刻をとうに過ぎているので、そろそろ終わりにしますか(笑)。

帯津 楽しい話を、ありがとうございました。

和田 こちらこそありがとうございます。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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