1996年にʼ90年ヴィンテージを初めてリリースし、カリフォルニア/ナパ・ヴァレーのカルトワインとして華々しいデビューを飾ったハーラン・エステート。その3年後、創業者のビル・ハーラン氏はまったく異なるコンセプトのワインを世に送りだした。それが「ボンド」である。

テロワールを表現した究極のカベルネ・ソーヴィニヨン
ボルドーのシャトーのように、オークヴィルの自社畑からカベルネ・ソーヴィニヨン・ベースのブレンドワインを生みだすハーランに対し、ナパ・ヴァレーの各地に散在する秀逸な単一畑からカベルネ・ソーヴィニヨン100パーセントのワインを造り、畑ごとの異なるテロワールを表現しようという、いわば、ブルゴーニュのグラン・クリュ(特級畑)を標榜するワインが「ボンド」なのだ。
1999年にふたつの単一畑ワイン、「メルバリー」と「ヴァシーナ」を醸造した後、2001年に「セント・エデン」、2003年に「プルリバス」、2006年に「クェラ」がポートフォリオに加わった。
「これまでおよそ120のブドウ畑を見て回り、5つのワインをリリースしてきました。単に良質なワインができるだけでは十分とはいえず、語るべき背景があり、他に代えがたい個性を有することが畑選びの条件です」と、「ボンド」支配人のマックス・カースト氏は語る。
「ボンド」という名前はビル・ハーラン氏の母の旧姓に由来し、”結束”や”絆”を意味するという。また金融用語として債券を指すことから、ワインのラベルは1890年代の債券を女神像とともにアレンジしている。

個性の違いは、5つのボトルを並べて味わえばじつに明瞭だ。カースト氏推奨の試飲順に沿って解説すると、まず最初に「クェラ」。火山灰が圧縮された土壌と、河床(かしょう)の隆起による小石を特徴とし、気品と力強さを兼ね備えた「バレリーナのようなワイン」とカースト氏は称する。
次の「メルバリー」はクェラのすぐ近くだが粘土質のまったく異なる土壌で、「赤い果実のアロマを持ち、タンニンはしなやか」。鉄分を含む赤土が堆積(たいせき)した「セント・エデン」は北向き斜面で、「酸がしっかりと残り、赤土由来のミネラル感がボディを引き締める」。
森の湿気を特徴とする「ヴァシーナ」は、「森林のニュアンスが香りに感じられ、スパイシーな風味」。最後の「プルリバス」は標高350〜400メートルの高地にあり、収穫は一番遅い。「がっしりとした骨格を持つ長期熟成型」と言う。
カリフォルニアワインのコレクターならば、毎年新ヴィンテージが出るたび、5つの単一畑をすべて揃えたくなるのが性というもの。しかしボンド、じつはこれがすべてではない。
「ナパ・ヴァレーにある飛び抜けたブドウ畑を“6つ”探しだそうというのが、当初のコンセプト。その6つめの単一畑は今も探している最中です」
果たして最後の畑が見つかるのはいつのことか。いずれにせよ、コレクターはもう1本分の予算とセラーの空きを、今から用意しておかねばなるまい。

ソムリエとして研鑽を積んだ後、「ブロードベント・セレクション」の教育ディレクターとして働く。2018年、マスターソムリエ試験に合格。2021年、ボンドの支配人に就任。
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