放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「職場での心持ちや景色が、桝本さんの新刊でがらりと変わった32歳の会社員です。私が相談したいのは、心の余裕を保つ方法です。周囲に振り回されないために、いつも心がけていることはありますか?」という相談をいただきました。
まずは拙著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』を手に取って下さりありがとうございます。
かつての僕も「心の余裕がなかった人」です。余裕がなく心がささくれると、「余裕で他者に当たる人」になることも知っています。
また、芸人廃業、転職、ブラックな下積み、離婚など、余裕のない日々が長かったので、余裕は「生む」よりも「保つ」ことのほうが難しいことも骨身にしみております。
そこで今回は、今では売れっ子芸人になった教え子たちに伝えてきた、「心の余裕を保つためのコツと思考法」を、皆さんにもシェアしていきたいと思います。
頭に「みんな36回」を置いて生きています
まず、「あの人は心の余裕がある」「あの人は余裕がない」とラベルを貼る人がいますが、それは「落ち着き」の問題であって、心の余裕とは別もの。
平熱のときもあれば高熱のときもあるように、誰もが「余裕がないとき・余裕があるとき」を過ごしています。
いま視界に見えているすべての人は“みんな余裕がある人であり、ない人でもある”という大前提が分かってくると、あなたの手から「余裕がないときの自分=ダメな人間」というネガティブな感情が離れていきます。
そして、定期的に「余裕がなくなる日」はやって来るという摂理を知ると、いつかやって来る「その日」に備える“心の余裕を保つための心がけ”が手のひらに乗ってきます。
僕の場合、それは「みんな36回はやって来る」というマインドセットでした。
ある海外の調査によると、「成人は平均で36回、人生を揺るがす出来事がやって来る」そうです。
これは、どうあがいても「36回は心の余裕がなくなる不測の事態が起こる」という宿命だとも言えます。
それまでの僕は、予期せぬ事態が起こるたびに、心をかき乱し、おろおろし、メンタルが崩壊していましたが、このデータを知って、「どうせやって来るんだから、どっしり構えてやろう」という感覚になることができました。
先述した、廃業、ブラックな職場、離婚などを経験しましたが、まだ10以上も「揺るがす出来事」は待っているようです。
もちろん怖さはありますが、世界中の大人に訪れる通過儀礼のようなものなので、「そういうもの」として捉えていく。そういった気構えが、心の余裕にもつながっていることを最近感じています。
一流の余裕「いつも通り」の正体
私たちの心の余裕が保てなくなるとき。その多くは、突然の発注、異動、取引先のトラブルなど、「いつも通りじゃない出来事」によって訪れます。
しかし、僕がエンタメ界で見てきた「一流」と呼ばれる人たちには、この「いつも通りじゃない」を、日常的に楽しむ態度があり、その行動によって“いつも通りの「型」”が形成されていくメカニズムがあるのです。
例えば、M-1決勝に進んだ教え子の多くは、同じ漫才のネタでも、毎回のようにツカミや途中のボケを変えて、相方を困らせていたりします。
ある日、某コンビに「なんでいつも変えているの?」と聞くと、こんな返答がありました。
「いつも通りだと、いつも通りのものしか手に入らないでしょ?」
そう、あえて「いつも通り」を壊し、そこに生まれる「揺らぎ」に対応していくことで応用力を磨き、よりレベルの高い「いつも通り」を身につけていくのです。
これを知ってから、僕は吉本NSCの授業で、あらかじめ用意した講義ではなく、生徒たちの「きょう知りたいこと」に即興で答えていく講義スタイルに変えました。
もちろん空振りもありますが、この「いつも通りじゃない」にトライしていく心がけが、対応力や育成力を生み、やがて安定感のある「いつも通り」、すなわち心の余裕へとつながっていった成功体験があります。
みなさんも、目の前の「いつも通り」を崩し、不測の揺らぎを楽しんでみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!
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