二軍落ちからの再覚醒——。ロッテのルーキー・西川史礁(にしかわ・みしょう)が、プロ1年目から鮮烈なインパクトを残している。開幕直後は苦しみながらも、夏場以降に復調し、最終的にはリーグ6位の打率を記録。さらに、侍ジャパンの強化試合メンバーにも追加招集された。その“非エリート”な成長ストーリーをたどる。

二軍落ちからの再覚醒。ロッテ・西川史礁が見せた“ルーキー離れ”の快進撃
5年ぶり12回目の日本一で幕を閉じた2024年のプロ野球。両リーグで新たなスターが登場し、特にパ・リーグの新人王争いは混沌としている印象を受ける。そのなかで、有力候補の一人として注目を集めているのが、ロッテの西川史礁(にしかわ・みしょう)だ。
青山学院大学から2024年ドラフト1位で入団。した西川は、開幕当初はなかなかヒットが出ず、4月と5月には二軍調整を経験。しかし、6月13日に一軍へ復帰すると、ヒットを量産。最終的には規定打席に到達し、117安打・打率.2805(リーグ6位)という見事な成績を残して見せたのだ。
非エリート出身。龍谷大平安時代は“無名の背番号16”
そんな西川は、関西屈指の名門・龍谷大平安の出身だが、決して早くから注目されていた選手ではない。初めてプレーを見たのは2年春に出場した選抜高校野球の対津田学園戦だった。
この試合で西川は背番号16をつけ、8番ショートで出場。相手先発の前佑囲斗(現・オリックス)から第4打席にツーベースを放っているが、正直その時のプレーは印象に残っていない。プロフィールの数字を見ると176cm・68kg、当時の映像を見返してみてもまだまだ体が細く、かなり非力な印象を受けた。
大学進学後ももなかなか結果が出ず、2年秋までのリーグ戦でわずか2安打。結果を残すことができない日々が続いた。
青学大3年で才能開花。打撃覚醒のきっかけ
そんな西川の存在を強烈に意識したのは3年春のリーグ戦、2023年の4月6日に行われた駒澤大戦でのプレー。4番に抜擢されながら最初の2試合では合計1安打と苦しんでいたが、この日は6回の第4打席でレフトへのスリーランホームランを放つと、続く8回の第5打席でも2打席連続となるソロホームランをレフトスタンドに叩き込んで見せたのだ。
当時のノートを見返すと、以下のようなメモが残っている。
「大きな構えでゆったりとした動きでタイミングをとり、ボールを見送る姿勢が良く、いかにも長打が出そうな雰囲気がある。全身を大きく使ってフルスイングしているが、バットが外から遠回りすることなく、スムーズな振り出しで鋭く引っ張れるのが長所。
フォロースルーも大きく、ホームランはいずれも打った瞬間にそれと分かる当たり。パワーもあるが、バットにボールを乗せるのが上手く、長距離打者らしい角度がある。レフトの守備と走塁はそこまで目立たないが、元々内野手だっただけあってハンドリングと持ち替えは悪くない」
ちなみに同学年のチームメイトでは佐々木泰(現・広島)が早くから活躍しており、この日佐々木もホームランを含む3安打と活躍しているが、打球の角度や飛距離については西川のほうが強く印象に残ったことを今でもよく覚えている。
西川はこのシーズンで打率.364、3本塁打、10打点と見事な成績を残してチームのリーグ優勝に大きく貢献し、MVPとベストナインを受賞。
続く全日本大学野球選手権でも4試合でホームランとツーベースを含む7安打、打率.467という圧倒的な成績を残してチームを日本一に導くと、その後に行われた日米大学野球では大学日本代表の4番を務め、ここでも打率.316と結果を残して見せた。
前年秋までリーグ戦わずか2安打だったことを考えると、一気にスターダムへ駆け上がったと言えるだろう。
挫折と怪我を糧に、プロの舞台へ
3年秋のリーグ戦では厳しいマークもあって大きく成績を落としたが、続く明治神宮大会ではホームランを放つなど活躍。
さらに翌年3月に行われた侍ジャパントップチームの強化試合にも大学生ながら宗山塁(明治大→楽天)、金丸夢斗(関西大→中日)、中村優斗(愛知工業大→ヤクルト)とともに選出されると、欧州代表を相手に2試合で7打数3安打1打点と見事に結果を残して見せた。
しかしその後の西川は決して順風満帆だったわけではない。
4年春のリーグ戦ではMVPに輝いたものの、続く全日本大学野球選手権では4試合でシングルヒット2本に終わっている。さらに秋のリーグ戦では右手に死球を受けて骨折。出場はわずか4試合、大学生活最後の大会となった明治神宮大会では代打で2打席に出場していずれも三振に終わっている。
侍ジャパン追加招集。ルーキー唯一の野手としての挑戦
ただ2025年の西川のプレーぶりを見ていると、そのような不振や怪我による挫折があったこともプラスとなっているのではないだろうか。
開幕当初になかなかヒットが出ないとそのまま二軍でシーズンを終える選手が多いなかで、夏場以降に巻き返してリーグ6位の打率を残せるというのはやはり並みのルーキーではない。
2025年10月26日には11月に行われる侍ジャパンの韓国との強化試合のメンバーに追加召集されており、ルーキーの野手として召集されたのは西川ただ一人である。
前回のWBCで活躍したヌートバー(カージナルス)が怪我で出場が危ぶまれていることからも、西川に大きな注目が集まる。強化試合でも持ち味の打撃を生かしてアピールしてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

