放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「どちらの案がいいのか? 仕事でも私生活でも、なかなか決めることができず、あとになってクヨクヨしてしまいます。決断のスピードを上げるにはどうすればいいんでしょうか?」という相談をいただきました。
- 仕事を引き受けるか? 断るか?
- 今日やるか? 明日にするか?
- こちらから謝るか? 突っぱねるか?
なかなか決断できないことは山ほどありますよね。
先に答えを申し上げると、決断のスピードは“性格ではなく「スキル」”です。
重要事項を即決している「仕事がデキる人」も、案外プライベートでは優柔不断で、妻やパートナーに「早く決めてよ」と言われていたりするからです。
では、どうすればスキルは身につくのか? 一緒に「決断のスピードを上げる思考のツボ」を押さえていきましょう。
人は「選ばなかった道を理想化」する生き物
芸人さんは、直情的で無軌道なイメージがありますが、本を書いたり、歌を出したり、ビジネスを始めたり、何でも即決してしまうスピードスターでもあります。
なぜ、彼らの決断は早いのでしょうか?
そもそも私たちは“決断よりも比較が得意”なので、なかなか決断のスピードは上がりません。
旅行先のホテル、家電の購入、同僚の恋人など、比べるのが大好きで延々と続けてしまいます。
そして“選ばなかったほうの道を理想化してしまう”ことも研究で分かっています。
あの飲み会に行っておけばよかった、アイツと別れないほうがよかった、進学より起業したほうが得したかも……など、ピックしなかった選択肢Bを“キラキラ磨きあげて心のショーケースに飾ってしまう。これが次の決断の「足かせ」になっていく”んですね。
いっぽう、よく芸人さんが使うワードに「おいしい」という言葉があります。
これは、寄ってたかってイジられたり、落とし穴に堕ちたり、「通常なら悲惨な状況」だけど、そこに配置されると笑いが生まれやすくなる「うまみ」もあるということ。
そう彼らは、過去の決断や理想化した道がどうであれ“流れに身を任せてのってみる”という態度があり、その選択によって生まれた状況が困難であっても“それなりの「うまみ」がある”ということを知っている。だからスピード感があるんですね。
心のショーケースにある選択肢Bは「理想だったかもしれない」けど、現在地だってキラキラした部分はあるし、うまみもあるし、自分で面白くすることもできる。
いまの自分があるのは、過去の選択がベストだったからで、これからもベストな決断になっていく。
ときに私たちは、そういった芸人イズムを持つことも有用だと僕は考えています。
仕事は「決断」より「切断」の意識
仕事は決断の連続なのでスピードが鈍ることは当然あります。
そんなとき僕は“「決断」より「切断」をイメージ”して仕事をする。つまり、不必要なものをサクサク切っていくんです。
スマホの複数のアプリを開いていると、動作が遅くなることってありますよね?
あれと同じで「今はさほど重要ではないこと」を起動したままだと決断のスピードは遅くなるんです。
例えば、決断したあとの苦労、押し寄せてくる仕事量、周りの批評などのリスクなどがそれ。
もちろん、SNSの閲覧、週末の予定、読みかけの本などは真っ先に切断します。
けっして断絶ではないので、決断を終えると再接続できますし、切断と再接続のメリハリがあるほうが、倍がけで楽しめる。このコツを覚えてくると決断のスピードはさらに増していくんです。
そして、物事を決めるとき、僕が必ず切断するのが「人間関係のよもやま」です。
私たちは、「上司に言われた通りにやったのに失敗した」「あの人のためにやったのに無駄骨だった」など“自分の行動に「誰か」を混入させがち”です。
しかし、上司のアドバイスをやろうとしたのは自分、あの人のために動こうとしたのも自分。
いつ何どきも、決断権は自分自身にしかないので、「人間関係」を決断に入れないように気をつけています。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。