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2025.06.23

「無駄な医療費10兆円を削減すれば、国民の手取りは増やせる」精神科医・和田秀樹

高齢者医療に35年以上従事してきた精神科医の和田秀樹氏が、2025年6月9日、政治団体を立ち上げた。政党名は、「幸齢党(こうれいとう)」。「高齢者が幸せでなければ、日本は立ち行かなくなる」と危機感を募らせる和田氏に、今後の日本、そして、ゲーテ世代が進むべき道を2回に渡って連載する。前編。

和田秀樹インタビュー
和田秀樹/Hideki Wada
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニックを開院。35年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わる。シリーズ累計85万部を突破した『80歳の壁』や『女80歳の壁』など著書多数。最新刊に、『幸齢党宣言』がある。

政治に対する怒りから新党を発足

「70歳を過ぎたら健康診断は受けるべきではない」
「高齢者は血圧や血糖値がやや高めの方が長生きする」
「高齢者だからといって免許を返納する必要はない」
「高齢者にこそポルノ解禁が必要」

従来の常識を覆すような説を提唱する著書『80歳の壁』シリーズがベストセラーになった和田秀樹氏が、日本社会に新たな一石を投じた。2025年6月9日、高齢者を幸せにするための政党「幸齢党」の設立。現在代表を務める他の団体規約により、自身は立候補を断念したものの、この夏の参院選に候補者を送り込むと発表したのだ。

設立当日に行われた記者会見で、和田氏は、「著書を通じて、高齢者がどうやったら元気になるか、どんな医療が理想なのかを発信してきたが、影響力はまだまだ小さい。社会や医療・介護の現状を変えるには、政治の世界で闘うべきなのではないかと考えた」と、設立の理由を説明。いわば、「政治に対する怒りを原動力に新党を立ち上げた」のだと。

医療費50兆円のうち2割は無駄な支出

政党立ち上げ前に上梓した最新刊『幸齢党宣言』には、マニフェストとも言うべき10の提案が綴られている。「人間を全身から診られる総合診療医を育成します」「国家予算で薬を減らす研究をします」「年齢差別禁止法を制定し、施行します」など、どの提言にも和田節が感じられるが、「政治で目指したいものは、シンプルに言えば2つ。50兆円ある医療費の無駄を省き、それを財源に国民の手取りを増やすことと、高齢者を元気にすること」と、和田氏。

循環器内科ではこの薬、消化器内科ではこれというように、臓器別診療の普及によって、何種類もの薬を飲んでいる高齢者は珍しくない。しかし、そのせいで健康が害されるケースも多々見られるという。つまり、無駄な薬を処方することが、高齢者の幸せを遠ざけ、医療費増大につながっているのだというのが、和田氏の主張だ。

「科学的な根拠に基づく“無駄な薬”と“無駄な検査”の削減、そして、無駄の温床となる臓器別診療をやめて総合診療に移行することで、少なくても50兆円の2割、10兆円は削減できます。そのうち1兆円を、現在200万人と言われている介護従事者の手取りを年に50万円増やすことにあてたとしても、残りの9兆円で国民の手取りを増やすことは十分可能です。

また、高齢者のうち8割を占めるのは、要支援や要介護認定を受けていない自立高齢者。その方々に元気を維持してもらい、いつまでも働き、お金も使ってもらう。そうやって、少子化で足りないと言われている労働力を補い、消費を回してもらうことが、日本再生の近道。高齢者がいつまでも元気で、生き生きと過ごすことは、現役世代にも恩恵をもたらすのです」

空気を読めないからこそ大胆な改革が可能

幸齢党の発起人として、和田氏の右腕を務めるのは、医師の山中光茂氏。2009年~2015年の二期にわたって三重県松阪市長を務め、公立病院の赤字を2年あまりで黒字に転換するなど手腕を振るい、現在は訪問医療に力を注いでいる人物だ。

「他にも医療費・社会保障費の改革を公約に掲げている政党はありますが、それらの党と幸齢党の一番の違いは、しがらみがないこと。既得権益団体との癒着がないので、空気を読んで忖度する必要がなく、大胆な改革が実行できます。というよりも、大胆な改革は、和田秀樹のような空気を読めない人でなければできません。

行政に携わった経験がある私からすれば、しがらみさえなければ、我々の提言する医療費削減はすぐにでも実現可能だと思います」

記者会見では、医療ジャーナリストや現役医師など5名の候補者が紹介されたが、山中氏いわく、「ここには、しがらみに配慮した政治を行う人はひとりもいない」とのこと。

とはいえ、政党とみなされるのに必要な候補者10名以上(参院選の場合)には、まだ満たないのが現状だ。しかも、比例代表の場合、候補者ひとりにつき600万円もの供託金が発生するが、その大半は和田氏の私財をつぎ込むという。

後編では、65歳を迎え、リスクを背負いながらも政治の世界に殴り込みをかけた和田氏から、ゲーテ世代へのメッセージを紹介する。

※後編に続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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