投資歴70年目。資産20億円を築き、88歳の今も現役のデイトレーダーとして勝ち続ける藤本茂さん。「ボケてる暇なんてあらへんで」と笑う“日本のバフェット”の元気の素に迫ります。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。藤本茂さんとの対談最終回。
人生には3回チャンスがある
和田 旅行などには行かないんですか?
藤本 行く間がない。両方はできないですよ。昔、いっぱい旅行したからね。今は近場の温泉旅館に行くくらいやね。
和田 食事はお金をかける?
藤本 かけますよ(笑)。おいしいもの食べたいからね。魚と果物が好物です。時々、電車に乗ってうなぎを食べに行ったりね。取り寄せもします。いつもは女房が買い物して、それをおいしく食べる。お酒はビールを1本、ワインも時々飲むくらいかな。
和田 そんなに贅沢ではありませんね(笑)。
藤本 見ればわかると思うけど贅沢ではないな(笑)。服も長年着てるものばかりや。この帽子も15年くらい使ってるから、ボロボロやろ(笑)。ほつれた所は女房が縫ってくれてる。数千円の品物やけど、愛着があっていい。家も今のマンションで十分や。数億円の豪邸も買えるんやけどね(笑)。
和田 ほとんどパソコンの前ですから広い家はいらないですね。動かない生活ですが、食事の制限とかは?
藤本 しません。塩分もお医者さんはどうのこうの言うけど、気にしない。
和田 塩分を控えすぎるのも、脳には良くないですからね。
藤本 血圧も高いより低いほうが悪いからね。
和田 下がると頭が冴えなくなりますからね。休みの日も、株の勉強をするんですか?
藤本 予習・復習に5時間くらいかかります(笑)。
和田 それは休みじゃないですね(笑)。常にいろんな情報を得ながら相手の心理も読まないといけないので、時間はいくらあっても足りないでしょうね。
藤本 それでも負ける時もありゃ、勝つ時もある。なんで負けたかということは、反省せなあかんね。
和田 そうですね。
藤本 株は結果がわかるからね。「なんで高く買ってしまったんだ」とか反省せなあかんやろ。その割には儲からんわ(笑)。せやからぼちぼちやるのがええ。
和田 普通の人生を歩んできながら、ギャンブル性の高い別の人生も歩まれている(笑)。
藤本 私はね、人生に3回チャンスがあると思うてるんです。それをうまいこと乗り切れた。
和田 柔軟な考えだったことも大きいと思いますね。人間、これしかないと思ってると、うまくいかなくなったときに焦るし不安になる。人によっては心の病気になったりしますから。
人生は読めないから面白い
藤本 和田先生は何歳から本を書いてるの?
和田 27歳です。
藤本 早かったね。
和田 最初は受験勉強の本です。留学から帰ってきて、たまたま高齢者医療をやって、今みたいなことを言い出したのは37、38歳。でも長い間売れなくて。
藤本 やっと売れた(笑)。『80歳の壁』読ましてもろたけど、ええ本です。
和田 ありがとうございます。
藤本 「シンプル・イズ・ベスト」が私の考えなんだけど、先生も似てるでしょ。本読んだらわかる。
和田 「レット・イット・ビー」であるがまま、なすがままに生きたらいいと思います。いくら悔やんでも昨日は戻ってこない、明日のことは誰にもわからない、それが人生だと思ってます。
藤本 本書いて売れるのも面白いけど、自分がいろいろ考えて予想して、当たったら面白いよ。
和田 藤本さんは、パッと動かれるところもすごいです。
藤本 せやけど、我慢も必要なのよ。私は「1・2・3・6」の方式でやってます。
和田 それはどういう?
藤本 「この株はよさそう」と思ったら、まず1000株買ってみる。様子を見て「やっぱりよさそう」と思ったら、さらに2000株、3000株と買う。で、「これはいける」と思ったら6000株買うというやり方です。売る場合も同じです。展開が読みづらい時や、取引したことのない銘柄に関しては、こうします。
和田 なるほど。根気はいるけど、リスクは低いですね。
藤本 確実な利益にもつながりやすいんです。
和田 1回で答えは決まらないですからね。医療も同じです。1回目の薬で効くかどうかなんて、本当はわかんないですよ。
藤本 別の先生もほしいね。
和田 そうです。本当のこと言うと、1人目ダメだったら2人目、2人目ダメだったら3人目と変えていったら、当たるかもしれないと思ってます。
医療のこと、社会のこと
藤本 数値ばかり見て、患者をろくに診もしないお医者さんばかりや。で、薬ばかり出す。
和田 医者は悪い所しか見てないんですよ。本来なら「この人は今何ができる」とか「どういうところがいい」などと、取柄や元気さを伸ばしていくべきなんです。とくに高齢者にはそういう医療が必要です。
藤本 せやけど実際には難しいな。医者は薬飲ませて商売してるわけやから。薬出さないのは「商売すな」って言ってんのと同じになる。
和田 そうでもありませんよ。株と一緒なんです。短期的に見れば、薬出さないと商売にならないと思うんですが、ちゃんと患者さんのことを考えて具合を良くしていったら、結果的に患者さんは増えてきますから。
藤本 そんな医者が少なくなってきたね。信頼できるお医者さんはなかなかいない。脅かして薬出す。自分の営業につなげる。部屋が空いてたら退院させてくれへんしな。そうせんと、医者も商売成り立たないわけよ。
和田 それはありますよね。資本主義の世の中だから、どんな人も儲けに走るわけですが。でも僕らみたいな医者は、金もうけだけに走ったらあかん。
藤本 近道、取るねん。時間や手間をかける余裕がない。
和田 だから医療も企業も、本物とは巡り合えない。
藤本 ホンマやね。あるAIの会社、私から見たら「2000円でええわ」という株なんだけど。それを誰かがうまいこと買い煽って5000円くらいの値が付いてる。ええはずがないのよ、中身がないんやから。
和田 大事なのは中身ですからね。人々のためになるものを作ってくれてるかどうか。たとえば高齢者の多い日本なら「歳を取っても乗れる自動運転の車」とかね。
藤本 世界的に見たら、ちょっと出遅れてるね。
和田 日本も株主たちが「これをやったらどうか」と企業を刺激して前向きに動かしていったらいいと思うんですけど。実際には後ろ向きの規制ばかり。
藤本 残業の時間を規制してみたりね。これは絶対に間違いですよ。
和田 本当は残業が悪いんじゃなく「働くのが楽しくない」ということが悪いんですけどね。藤本さんなんか、朝の2時から18時間も働いてる(笑)。
藤本 楽しいからね。何時間でもやってられる(笑)。毎日わくわくしますよ。