サッカー日本代表FW・前田大然の初自叙伝「がむしゃら なぜ俺は、こんなに走るのか――。」より一部抜粋して紹介した記事をまとめてお届け! ※2026年5月掲載記事を再編。

1.日本代表・前田大然「自分よりも足が速いと感じた選手はいない」①

昔から常に一番速かった。
2位との差はわからない。自分が2位以下なら、1位との距離が見えるはずだけれど、いつも前を向いて1位を走っているから後ろとの差は見えない。ゴールしてから、ようやく差に気がついていた。
プロサッカー選手になってからも、自分よりも足が速いと感じた選手はいない。速いと感じても、負けたとは思わない。
(伊東)純也くんや(浅野)拓磨くんも、たしかに速いと思う。
でも、負けているとは思わない。譲れないというか、実際に負けたことがないのでわからない。
1対1で走ってタイムを計らないかぎりは、負けを認めないだろう。そこに関しては、本当に負けず嫌いだと自分でも思う。
反対に、技術的な部分では自分よりも上の選手が数えきれないほどいるし、出会ってきた。
2.サッカー日本代表・前田大然、高校の1個上のDF渡辺剛は「昔は怖い先輩という印象だった」②

(高校の)1学年上に、ものすごいオーラを放っている先輩がいた。
その人の名前は、渡辺剛。
当時はどちらかといえば華奢な体型で、それほど身長が高いわけでもない。でも抜群の跳躍力を誇り、ヘディングがめちゃくちゃ強い。どんなに大きな相手にも競り勝ってしまうセンターバックだった。
2年生の剛くんは3年生に混ざってトップチームでプレーしていた。2年生の中ではリーダー的な存在でもあった。
あらためて説明する必要もないと思うけれど、いまの日本代表で活躍している渡辺剛と同一人物だ。後述する“事件”の影響もあって、高校時代に一緒のグラウンドでプレーをした時間は短い。
剛くんは高校卒業後に大学進学の道を選んだので、再会したのはお互いプロになってから。僕が横浜F・マリノス、剛くんがFC東京の一員として対戦した。
忘れられない試合がある。
3.前田大然、これから2トップを組めるとしたら――自分史上最高の相方とは③

第6節のレノファ山口FC戦で初先発に抜擢され、シーズン2点目を決めた。
右サイドを全力疾走して抜け出し、そのままゴール前へ侵入して左足を振り抜いてゴールネットを揺らした。試合は1対1の引き分けに終わったが、この日の得点と活躍で周囲から信頼を得られたと感じたのは気のせいではないだろう。
実際に、それ以降はほとんどの試合に起用してもらえた。
そして僕と2トップを組んだのが(林)陵平くんだ。
加入当初は正直言うと知らなかった(苦笑)。あまりサッカー選手に詳しくないので、あとからインターネットで調べてみると、柏レイソル時代にはFIFAクラブW杯にも出場している実績の持ち主だった。
相手DFを背負っている状況でも中央でしっかりとボールを収めてくれて、いつも存在感と安心感がある。自分は陵平くんの位置を意識しながら前方向へ走っているだけでよかった。
アベックゴールを何度も決めたりして、手前味噌になるけれどものすごく相性の良いコンビだったと思う。2トップという形に限定すると、陵平くんは自分史上で最高の相方と言っていい。
4.林陵平、時速36.9kmを誇る前田大然を「センターFWでもっと見たい」④

自分と同じ2017年に水戸ホーリーホックに加入した選手の中に、すごく面構えの良い男がいた。
直接の面識がなかったので周りに聞くと、彼はまだ19歳だという。それなのに顔つきがしっかりとしていて、若いのにまったく物怖じしない雰囲気を醸し出していた。
ただならぬオーラを纏った坊主頭。
それが初対面の(前田)大然に抱いた率直な印象だ。
実は、松本山雅FCで大然と一緒にプレーしていた喜山康平から話だけは聞いていた。
「前田大然はめちゃくちゃスピードのある選手だよ」と。
チームが始動してトレーニングが始まると、同じFWなので近くで練習する機会が増えていく。最初に驚いたのはシュート練習で両足からパンチ力あるシュートを放っていたこと。精度も高かった。
やがて実戦形式になり、秘めているポテンシャルがさらに伝わってきた。
スピードやスタミナ、パワーといったアスリート能力が異次元にすごい。
5.前田大然「実は、オフサイドというルールがあまり理解できていない」⑤

(2022年W杯)初戦のドイツ戦の約2週間前にカタール入りし、現地での調整をスタートさせる。本番6日前に隣国のUAEで行われたカナダとの国際親善試合にはベンチ入りしたけれど、出番は訪れなかった。
移動とオフを挟み、トレーニングを再開した。フォーメーション練習が始まると、僕のポジションは4‒2‒3‒1システムの一番前だった。
それまで代表戦で先発したのは2試合だけ。だから自分でもちょっと驚いたし、森保さんから詳しい指示や説明はなかった。
でも期待されている仕事は理解できていた。シンプルに言うならば、自分のストロングポイントを生かしたプレーをするだけ。逆に、それ以外のプレーを求められても困ってしまう。
前線からのプレスは得意としている武器のひとつだ。最近になって身につけたものではない。プロになる前からやってきたことなので迷いなんてない。
相手がドイツだろうと、そんなのは関係ない。嫌がって困るくらいに追いかけ回してやると決めた。
6.“三笘の1ミリ”を最も近い場所から見た男⑥

スペイン戦での決勝ゴールの場面は、実はだいぶ悔いが残っている。
右サイドでボールを持った(堂安)律からのパスがゴール前に入ってくる。同点に追いついた数分後で日本の攻勢が続いていた時間帯だったので、その勢いで逆転ゴールを奪う気満々だった。
それなのに、動き出しが少しだけ遅れて間に合わなかった。あのタイミングでパスが出てくることを信じきれずに、ワンテンポだけ待ってしまった。信じる力がもっと強ければ、自分がボールに届いて得点できたはずだ。
『間に合わなかったー』
心の中でそう叫んだ。
僕にとっては、必死に伸ばした左足がボールに届かなかった時点でこのプレーは終わっている。
スペインのゴールキックから試合が再開する未来しか見えていない。
それなのに次の瞬間、なぜか(田中)碧がボールと一緒にゴールの中にいた。
『???』
何が起きたのか、わからなかった。
7.永嗣さんの涙。前田大然、スペイン戦前日の選手ミーティングの話⑦

スペイン戦前日、選手だけでミーティングを実施した。
宿舎内のミーティングルームに全員が集まると、静かに話し始めたのは(川島)永嗣さんだ。
カタールW杯で4大会連続のメンバー入りとなった永嗣さん。ただ、この大会ではサブに回ってチームを支える状況が続いていた。
代表は所属クラブで結果を残している選手の集まりなので、試合に出るのが日常になっている。だからベンチに座っているだけで満足している選手なんて、世界中どこを探してもいないはずだ。
でも、今はチームとして戦っている。だから自分のことは二の次にして、永嗣さんはチームがひとつにまとまる重要性を訴えかけたのだろう。自分が出場した過去3大会の話を交えながら、全員に向けて語りかけた。
僕はたまたま永嗣さんの隣に座っていた。だから表情は視界に入っていなかったのだけど、声が微かに震えているように感じた。

