放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「人事部でキャリア開発をしています。新刊を読んで、桝本さんの企業研修に興味がわきました。芸人学校の先生が、どんな内容の研修を行っているのでしょうか?」という質問をいただきました。
まずは、拙著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』を読んでいただきありがとうございます。
たしかに、芸人を育成している吉本NSC講師が、東証プライム上場企業で研修講師をやっている例は、僕も聞いたことがありません。
そして、参加した社員のみなさんも、毎回「こんな研修は受けたことがなかった」と口にしながら会場を後にされています。
今回は、そんな吉本NSC講師流の「管理職研修のフレームワーク」を皆さんにもシェアしていきたいと思います。
吉本芸人×社員による「コントを活かした研修」
実は、企業研修の講師をやるキッカケはこのコラムでした。いつもコラムを楽しみにしてくださっている横浜の上場企業さんから、吉本興業にオファーが届いたのです。
わざわざ芸人学校の講師を指名したということは、「おもしろい研修」「かつてない新鮮さ」への期待があるはず。
そこで僕は、ちょっと無謀だと思いながらも、次のような「ビフォー・アフターで見せる研修案」を投げてみました。
- ①職場で起こる「人間関係・育成の悩み」を、吉本新喜劇さながら現役芸人によるコント仕立てで見せる。
- ②そのコントは2階建て。まず「悪い職場の例」を見せて、何がいけないのか? どうすればいいのか? を一同でトークする。
- ③多様な議論が出たあとに、桝本流の改善メソッドを開示する。
- ④メソッドを取り入れた「良い職場の例」をコントで見せ、ポイントの解像度を上げる。
- ⑤最後に、実際に社員さんも登壇。芸人を相手にメソッドを活かしたコントに参加していただく。
最大のネックは、⑤の「社員さん×芸人の実演」。すぐに実践可能なメソッドや会話劇なのですが、大勢の同僚たちの前でコントに参加するというのは、ハードルが高いように思えました。
しかし、人事部の担当者さんは、「ウチの社員ならやってくれると思います。これでいきましょう!」と言ってくださったのです。
キャリア開発、研修運営というのは、まずは「自社の成員の力を信じること」から始まる。
吉本に研修オファーをしてくる会社の方は、考えかたも柔軟で、おもしろい人たちだなと思いました。
芸人も人事部も驚く社員の潜在能力
僕の研修は3時間。1時間ずつ「日常会話」「会議のやりかた」「部下のコーチング」のブロックに分け、それぞれに芸人との即興劇が用意されています。
例えば、日常会話編ではこういったコント。
- 【シチュエーション】 出勤時のエレベーター前で鉢合わせた上司と部下のスモールトーク。「悪い例」の上司は、ハキハキ喋らない、目を見て話さない、気を使えない部下にイライラしていく展開。
- 【桝本のメソッド】 リーダーは、「部下にとってほしい振る舞いを、まず自分が示す」
- ハキハキ喋ってほしい→ 私が「快活になる」
- 目を見て話してほしい→ 私から「合わせる」
- 気配りをしてほしい→ 私から「気を配る」
参加した社員さんは、芸人を相手に「自分の理想の部下」を即興で演じるというハードルが設けられているのですが、いざやっていただくと、これが抜群におもしろい。
メソッドをしっかり押さえながら、アドリブ、小ボケ、身内の暴露など、個性あふれるプラスアルファを織り交ぜてくるので、会場は終始笑いの連続。
人事部のみなさんもお腹を抱えて笑っていましたし、閉幕後、目を輝かせながら「ウチの社員がこんなにおもしろくて、ここまでやってくれるとは思っていませんでした」「意外な社員の意外な一面や、新たな個性がつかめました」と破顔されていました。
これまで、その企業で計3回研修を行ってきましたが、いつも参加者のアンケートは高評価。
もちろん、その成功をたぐり寄せたのは、自社の成員たちの潜在能力を信じ、お笑い×キャリア開発という新たな手法を模索した人事部のみなさんであったのですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!

