PERSON

2025.06.21

「朝、血糖値が300を超えたときだけ薬を飲む」「気が多く、飽き性で、人任せ」元気に長生きする秘訣【横尾忠則×和田秀樹⑥】

横尾忠則さんと和田秀樹さん。美術と医学、別世界で壁を壊し続けるふたりに共通する“自由自在”な生き方とは。「見えない世界」が見えてくる面白対談! 『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。6回目。

和田秀樹と横尾忠則の対談

創造的な活動をする人は元気で長生きする

和田 やっぱり横尾さんの生き方は、とても素敵です。

横尾 生き方が素敵かどうかはわからない(笑)。とにかく気が多いのと、すぐ飽きちゃうっていう性格。それから人任せが多いですね。

和田 人に任せられるのはいいですね。

横尾 アシスタントとか編集の人に任せちゃうんです。エッセイを書いていても、難しい言葉が浮かばないから「この部分、難しい言葉で入れて」と(笑)。

和田 素晴らしい(笑)。

横尾 そしたら編集者が適当に入れてくれる。それを見て「ちょっと違うんじゃないの」と言って、また他の言葉を考えてもらうんですよ。学校ではそれはいけないと教わった気がするけれども。それでいいんですよ。

和田 そう思います。それと、お話ししていて思いましたが、横尾さんは声もいいですね。

横尾 あ、そうですか。

和田 ええ。声の張りのある人は長生きするんです。声は鍛えているんですか?

横尾 ぜんぜんやってない。不健康なことしかやってません。

和田 勝手な想像ですけど、絵を描いて、脳がしっかりしてるから声も出る。元気で長生きするには、体を鍛えるより頭を鍛えたほうがいい。僕はそう思っています。鍛えると言っても、脳トレのドリルとかではなく、クリエイティブな活動がいいんです。それは対談の2回目で、横尾さんご自身もおっしゃってたことですけど。

和田秀樹と横尾忠則の対談

死後の世界も楽しみ

和田 お食事は? お好きな食べ物とかありますか。

横尾 なんでも食べますよ。

和田 いいですね。年を取ると栄養が不足する害のほうが大きくなる。だからなんでも食べる雑食の人のほうがいいんです。

横尾 じゃあ、僕は「霞を食って生きてる」ってことにしておきましょうか(笑)。

和田 (笑)。とにかくね、食べられている間は生きるんです。変な治療さえしなければ。食欲はありますか?

横尾 ほどほどです。なきゃないで、そのまま放っておきます。美味しいものがあれば、どんどん食べます。それが胃を壊すとか体によくないとか言うけど、そんなもの知ったこっちゃない。「死」っていう言葉に対して、僕は、そんなに神経質になってないから。

和田 それはいいことです。

横尾 死んだら死んだで、別の次元で、別の楽しみ方があると思ってるから。

和田 いいですね。やっぱり、すごい、いろんなことから自由な気がするんですね。だからこうやって長生きもされているし、元気だし。

横尾 早く死ぬのもいいなと思うんですけどねえ。

和田 まあ、いろんな考え方があって「死んだら絶対にいけない」と思うと、また、すごく苦しくなりますからね。

横尾 僕、死後の世界はね、想像つかないけどすごい楽しみなんです。

和田 それはいいですね。日本人は、宗教がない分だけ生に対する執着も強いですからね。老いとか死を遠ざけるばかりで、受け入れようとしない。

横尾 拝金主義の人も多いですね。

和田 そうです。だけど、いくらお金を持っていても、ある時期から使えなくなるんです。すごく嫌な言い方になりますが、体が動かなくなりますから。

横尾 うん。死んでお金を持って行くわけにも行かないしね。やっぱり「裸で生まれて裸で死ねばいいんじゃないか」って思いますね。

和田 そういう執着とか悪い形の欲とかは、年を取るとだんだん減ってくるものなのに、昨今では「それじゃダメだ」という風潮もあります。

横尾 週刊誌なんかで煽るところもありますからね。僕は、それは間違ってはいないと思うけれど、それが信仰心のようになっていくと、ちょっと危険だなと思います。執着心を持ってしまいますからね。

和田 日本人は「健康信仰」とか「長生き信仰」みたいなものに縛られ過ぎている気がしますね。「長生きするために塩分を控えなさい」と言われて、味のしないお粥を食べるとか。

横尾 それはストレスになるなあ。短命につながりますよ。

和田 そうなんです。短命につながるのに、今の医学はそれを半ば強要する。50代ぐらいまでの人にはいいとされる健康法を、長生きしてる人にまで押しつけるんです。

和田秀樹と横尾忠則の対談

病気になったら医者とコラボする気持ちで

横尾 先生、糖尿を抱えてらっしゃるそうですね。薬は飲まれるんですか。

和田 はい。自分で目安を決めていて。朝、血糖値を測って、300を超えたときだけ薬を飲むんです。

横尾 このぐらいだったらいいだろうと。

和田 そうです。自分の「だるいか、だるくないか」という感覚を大事にしていて、調子が悪いときに飲む。普通の医者が「やってはいけない」と言うことを平気でやっているんです。

横尾 もしかしたら、その情報っていうのは海外からの情報で、海外の人には合うけど、日本人には合わないということもありますね。

和田 あり得ますね。さっき横尾さんが言った「ストレスが短命につながる」かもしれないのに、そこを考えないわけです。でも僕は、一人ひとりが「わりと楽やな」とか「気分いいな」などと思いながら寿命まで生きてほしいと思ってる。そのためには「こうしたらいいかも」とか「ああしたらいいかも」という情報は与えるけど、決めるのはやっぱり患者さん。主役は医者じゃなく、患者さんなんです。

横尾 そうですね。患者さんと先生とのコラボがないとダメですね。

和田 はい。今の医者は命令するばかりで、コラボという発想がない。そこはやはり良くないと思いますね。

横尾 今日の先生の話を聴いていると「えっ、これ、お医者さんの発言?」ってみんな思いますよ。宗教家とは言わないけれども、お医者さんっぽくもない(笑)。やっぱり先生、精神科だから、肉体ではない、メンタルなものと結びついているっていうこともあるんでしょうね。

和田 多少はあると思います。あ、そろそろお時間ですね。お話が楽しくてついつい。ありがとうございました。

横尾 こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。

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横尾忠則/Tadanori Yokoo(左)
現代美術家。1936年兵庫県生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ世界各国の美術館で個展を開催。2015年には高松宮殿下記念世界文化賞受賞。日本藝術院会員。文化功労者。2025年6月22日まで世田谷美術館にて個展「横尾忠則 連画の河」、8月24日まで、グッチ銀座 ギャラリーで「横尾忠則 未完の自画像 - 私への旅」を開催中。

和田秀樹/Hideki Wada(右)
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『女80歳の壁』など著書多数。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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