放送作家の他、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として人気1位を10年以上獲得する桝本壮志の対談連載。今回はパンサー・向井慧。最終回は、40歳を迎えた向井さんの結婚観について。「愛してほしい」ではなく「助けてほしい」という切実な叫びや、60歳までラジオを続ける覚悟を語る。最終回。

「俺の人生、何でこうなった!」爽やかなイメージの裏で、40歳独身を嘆く理由
桝本 ここまで3回の対談でお話してきて、向井さんは自分の好きな相手には奥深い愛情と時間を注げる人なんだなと改めて感じました。その愛情の話でいうと、向井さんは40歳になられたじゃないですか。私と同じく独身ですけど、愛を捧げるパートナーと結婚するつもりはないんですか?
向井 自分も含めて、シェアハウス組は人生のその部分がおかしいですよね!
桝本 本当だ! 僕も小沢(一敬)も徳井(義実)も独身だし、又吉(直樹)さんも独身だし(※桝本はスピードワゴン小沢、チュートリアル徳井とシェアハウス暮らしの経験あり。向井はピース又吉、サルゴリラ児玉と一緒に暮らしていた。このうち児玉以外の5人は現在も独身)。
向井 今も独身でいることについては、「俺の人生、何でこんなことになったんだ!」って思いますもん。
桝本 まだ科学的に証明されていないけど、「男性3人が一つ屋根の下で暮らすと婚期が遅れる」という法則があるんだよ、きっと(笑)。
向井 マジで、そういう何かがないと説明つかないですよね。人生設計的には「40歳になる頃には結婚している」と思っていましたし、なんだったら周りで僕が一番早いと思ってました。一体なんでこうなったんでしょうね……(笑)。
桝本 徳井も12年くらい前に「俺は世間とずれるのが一番嫌だ。だから結婚もしたいし、家族と年相応のイベントもこなしていきたい」と言ってましたけど、そこからとんでもないズレ方をしていますからね。
向井 でも、徳井さんは独自の世界観がある方なので、独身でいるのも自然な感じがしますよね。これは又吉さんにも言えることで、自分の世界観が強くて、独特の感性を持っている人は、「アーティスティックな気質のせいで人と住むのが難しいのかな」と感じられるんですよ。
でも俺なんて、メチャクチャ人と住めそうじゃないですか! しかも芸人としてのスタンスを考えても、絶対に結婚してた方が良さそうなんですよ。それは30代の頃からずっと感じていましたし、朝のラジオ番組MCとしても、既婚者のほうが聞いてくださる人たちも安心すると思うんです。それが独身だと気味悪いじゃないですか。「こいつ、こんな雰囲気なのに独身って、裏にとんでもないものを抱えてんじゃないか」って。
桝本 見てくれはハウスメーカーのCMに出ていてもおかしくないのに、家族じみたものが存在しないのにビックリしますよね。
向井 自分でもビックリしています!

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。
エネルギーは仕事へ全振り。「愛してほしい」ではなく「助けてほしい」切実な生活実態
桝本 でも、結婚する気がないわけではないんだよね?
向井 いや、メッチャしたいですよ!
桝本 さっきの愛情の話で言うと、向井さんは自分が好きな先輩には沢山の愛と時間を捧げられる人じゃないですか。それが今まで女性に向かうことはなかったんですか?
向井 ありましたよ! 俺だってさすがに40年生きてきているので、その都度その都度の恋愛はしていました。でも振り返ってみると、「俺は少し変な人なんだろうな」と思い始めました。僕、もう生活が終わっているんですよ。
先に話した「本当に好きな先輩に全力を注ぎたい」という話にも通ずるのかもしれませんが、僕は自分が持っているエネルギーの総量が極端に少ないんです。そんななかで、自分が持っている人間生活のエネルギーを仕事に全振りしている状態なんです。
桝本 つまり、普通の人が5口のコンセントを挿せる電源タップだとしたら、向井さんは元から3つしかない、と。そしてコンセントは全て仕事関係で埋まっていて、日々の生活の維持や女性が入り込む余地がない、と。
向井 そういう感じですね。掃除とか料理とか、家事全般が本当にひどすぎると思います。皆さんが想像する以上にそういうことができないんです。
桝本 そういうタイプに見えないから意外ですね。
向井 又吉さんたちと一緒に住んでいる時期も、各々の個室が一応ありましたが、僕の部屋を見た又吉さんが「スランプの陶芸家でも来た?」って言ってましたからね(笑)。
桝本 ハハハ(笑)。それくらい色んなものが散らばっていた、と。
向井 しかも、又吉さんがそう言った時だけじゃなく、それが僕の部屋のデフォルトなんです。楽屋とかでも「3日間ここに住んでいたんですか?」ってマネージャーに言われるくらい、物を広げちゃったりするタイプなんです。
桝本 よく言われる「天才の部屋」っぽい感じですね。クリエイティブな人に独特の、アンテナが広がりすぎて収集がつかない感じというか。
向井 それで俺が天才だったら良いんですけど、天才じゃないからタチ悪いんですよ! 僕が又吉さんや徳井さんみたいな芸人なら、そういう感じでも受け入れられると思うんですけど、「この生活ならもっとクリエイティブになれよ自分!」って思いますもん。実情としては本当に単純に、器用っぽく見えるけどメッチャ不器用な人間なんだと思います。
桝本 この対談では、「自分が持っていないものを持っている人と組む」という意図でパンサーの結成に至ったという話もありましたよね。私生活においても、そういう片付けや家事など「自分ができないことをやってくれる女性」を求める気持ちはないんですか?
向井 そう言うと、メッチャ今の時代的じゃないですよね。でも、「俺を助けてほしい!」という心の叫びはあります(笑)。
桝本 いいですねぇ。向井さんが欲しているのは「愛してほしい」ではなく「助けてほしい」(笑)。
向井 でも、本当にそういう生活をしてるんです。ここ何年かでも女性とお付き合いをしたり、同棲をしたりということはあり、自分的にはいろいろ頑張ってきたつもりなんですが、愛想をつかされるポイントは全部そこでした。もう怖いんですよ! 又吉さんとも最近ずっとそんな話をしています。

1985年愛知県生まれ。NSC東京校(11期)入学と前コンビでの活動を経て、2008年に菅良太郎、尾形貴弘とお笑いトリオ・パンサーを結成。テレビ・ラジオ等で幅広く活躍。個人としてはラジオでも活躍の場を広げ、2022年からTBSラジオの朝の帯番組『パンサー向井の#ふらっと』のパーソナリティを務める。
「俺が結婚するまでステイ」又吉直樹と誓い合った(?)奇妙な独身同盟
桝本 又吉さんもこの対談連載で「あなたが小説を書き始めたら遠洋漁業に行っていると思うようにします」と彼女さんに言われた……という話をしていたからね。あなたも一緒じゃないですか!
向井 それで俺がすごい本を書いていたり、芸術的な作品を生み出していたら良いんですけど、違うんですよねぇ。
桝本 さっきもラジオの話が出ましたけど、結婚して子供がいたら、ふとしたタイミングに「最近うちの子が」とか「奥さんが慌てん坊で」みたいなスモールトークを繰り出せるのに、それが全くないというね。
向井 その点でいうと、僕はオードリーの若林(正恭)さんや、ラジオ界でいうと安住(紳一郎)さんをモデルケースにしていたんです。お二人とも独身臭がしっかりあった方じゃないですか。今はもう結婚されてお子さんもいらっしゃいますけど、40代を超えてもラジオで独身男性の話をされていた方だったので、「そこまではなんとか先人がいるラインだ」と思って何とかやっています。あと僕は深夜ラジオも一応やっているので、「深夜ラジオは独身のほうが面白いんじゃないか」と思っている部分も正直どこかにあるんですよ。
桝本 それは分かるなぁ。
向井 幸せになったら終わりで、「満たされていないからこそできる面白い話がある」と思っている部分もあるんですよね。
桝本 メチャクチャ分かります。僕も大阪NSC時代に、路上で弾き語っている金持ちの奴らを見て、「お前らのラブソング、誰の心にも響けへんからな!」と言っていた人間ですから。
向井 芸能の世界にいる人は、割とみんなうっすら思うことですよね。でも若林さんだけじゃなく、有吉(弘行)さんやバカリズムさん、山里(亮太)さんといった方々は、結婚生活や子供の話もしながら、今までと同じ面白さを維持していますよね。だから「独身だからこそ面白いってのは違うかな……」と考えたり、今は心が揺れ動いています。
桝本 あなたは本当に先輩思いだから、「又吉さんが結婚するまで俺はしない」とか思ってないよね?
向井 実際、30代前半で結婚を考えていて又吉さんに相談したときに、「お前は俺の6年後輩だし、お前に先に結婚されたら俺の異常性が際立つから、お前は一旦ステイ。俺が結婚するまで結婚するな」と言われたことはありますね(笑)。もちろん冗談半分ですけど。僕も機会があれば又吉さんより先に結婚したいと思ってますよ!

誰にも抜けない「数字」を作る。朝の帯ラジオを60歳まで続ける覚悟
桝本 最後に仕事のほうでも、これから先に目指していることを教えてもらえますか。
向井 一つはラジオ番組「パンサー向井の#ふらっと」を続けることですね。この時間帯を僕の前に担当していたのは伊集院光さんで、その前は大沢悠里さんが70代になっても番組を続けられていました。そこで僕が36歳から番組をやらせてもらっているのは、本当に価値のあることだと自覚しています。なので、まず60歳まで勤め上げるのが大きな目標です。
桝本 すごくいいですね。僕も34歳でNSC最年少の講師になってから16年ですが、「これを長く頑張ることで自分だけの記録や価値を作れる」という感覚があります。
向井 そうですよね。同じことを長く続けている人って、明日から始める人よりも先を進んでいるし、頑張れば頑張るほど誰にも抜けないものを作れるんですよね。4年間続けるなかでは「もう辞めたい」と思った時期も正直ありましたが、「いま自分は他の芸人さんにはなかなか持てない切符を手にしている」と感じるので、自分だけにしか作れない記録を更新し続けられるように頑張りたいです。

