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2026.04.12

同期チョコプラへの敗北感から生まれたパンサー結成秘話。向井が愛される後輩力とは【桝本壮志対談②】

放送作家の他、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として人気1位を10年以上獲得する桝本壮志の対談連載。今回はパンサー・向井慧。第2回は、同期チョコプラやシソンヌへの敗北感から始まったパンサー結成秘話と、又吉直樹さんから授かったボケを活かすスタンスなど、コンプレックスと戦いながら仕事を広げた向井の生存戦略を深掘り。2回目。

同期チョコプラへの敗北感から生まれたパンサー結成秘話。向井が愛される後輩力とは【桝本壮志対談②】

チョコプラ、シソンヌとの「絶望的な才能差」。パンサー結成へと突き動かした生存戦略

桝本 パンサーは、後輩の向井さんが先輩に声をかけて結成されたチーム。その結成の経緯に、僕は「向井さんを向井さんたらしめる部分」があるのではないかと思っています。先輩のお2人とパンサーを結成された経緯も、改めて聞いていいですか?

向井 もちろんです。僕は愛知県出身で、保育園から一緒の同級生とお笑いをやろうと東京に出てきました。でも、友達だった相手がビジネスパートナーになり、当時は僕が核になってネタ作りをしていたこともあって、「早く売れなきゃ」という焦りから相方に厳しくなっていきました。それで結局、解散をしてしまったんです。

NSCの同期(東京校11期)にはチョコプラ(チョコレートプラネット)やシソンヌがいましたが、彼らのように面白い人たちは、僕らが解散する頃には結果を出しはじめていました。それでパッと同期を見渡したときに、新たに組める相手がいない状態がまずありました。

そしてチョコプラやシソンヌに対しては、「お笑い芸人としての身体能力がぜんぜん違う」と在学中から感じていました。なので芸人を辞める選択肢もどこかにあったのですが、それでも「お笑いが大好きだからこの世界にいたい」となったときに、かなり打算的ですが、自分のない部分を埋めてくれる方、つまりネタを作る力がある人にフォーカスすることにしました。

そうなったときに、2年先輩の菅さんが前のコンビを解散されて、今はほぼ芸人をやっていない状態だと知りました。そして、ほぼ喋ったこともない先輩の菅さんに、2年先輩の元ジューシーズの松橋さん経由で連絡先を聞いて、電話をかけたのが最初です。なので菅さんに声をかけたのは、売れるための打算的な選択だったとも言えると思います。

桝本壮志とパンサー向井

桝本 これは最近のGOETHEのコラムに書いた話そのままなんですけど、上手くいくコンビの多くって、「気心が合う人」を相方に選んだわけじゃないんですよね。自分が目指す場所を意識したうえで、「自分にないものを持っている人」を選んだケースが多いんです。向井さんも、向井慧という人間の行きたい場所は見えていたけど、「俺の力ではいけないから、そこを穴埋めしてくれる武器を持っている人と組もう」と思ったわけですね。

向井 本当にそうでした。そして菅さんに声をかけたとき、奇跡的に尾形さんもほぼ同じタイミングで菅さんに声をかけていたんです。その尾形さんは菅さんの1年先輩で、一緒にユニットコントのライブもやっていた仲でした。なので菅さんは、「俺は尾形さんとやろうと思っている」と前置きしたうえで、「もしお前が嫌じゃなければ3人でやることも提案できるけれど、どうする?」と言ってくれたんです。

正直、最初はトリオになるのは少し嫌でした。尾形さんはあの「サンキュー!」を本当に25年言い続けている人で、昔も今と変わらない味を持っていましたが(笑)、僕は菅さんのセンスあるコントを2人でやるビジョンに描いていたので、「体育会系の尾形さんが入ると形が少し変わっちゃうな」と思ったんですよね。

でも、菅さんは僕が入ろうが入るまいが「尾形さんとは一緒にやる」と言っている。僕はこのチャンスを逃してしまうと、またゼロから自分にないものを持った人を探さなければいけない。それは少し難しいなと思いました。なので「上手くいくか分からないけどお試しで」という気持ちで「じゃあお願いします」と入れてもらったのが最初です。

ただパンサーは、それぞれが自分のコンビを解散した後で「売れること」を目指して集まった3人でした。得意なことも本当にバラバラなので、それで結果的にバランスが良くなった部分もあったと思います。バラエティ番組で前に出るのは尾形さん、ネタを作るのは菅さん、MC的に場を回すのは僕と、場面場面で中心になる人が変わるからこそ、今も上手くいっているんだと感じますね。

パンサー向井
向井慧/Satoshi Mukai
1985年愛知県生まれ。NSC東京校(11期)入学と前コンビでの活動を経て、2008年に菅良太郎、尾形貴弘とお笑いトリオ・パンサーを結成。テレビ・ラジオ等で幅広く活躍。個人としてはラジオでも活躍の場を広げ、2022年からTBSラジオの朝の帯番組『パンサー向井の#ふらっと』のパーソナリティを務める。

「面白い人の隣にいたい」。年長者に愛されるプロフェッショナル・向井慧の処世術

桝本 向井慧という人間は、年長者に対しての付き合い方が非常に上手で、「世の中みんなの後輩の教科書」にしたいぐらいの人間なんです。だから菅さん、尾形さんという年長者と組んでも、うまくチームをまとめることもできている。

そして彼は、又吉さん(ピース)やサルゴリラ児玉さんと共同生活をしていた時期もあり、そこでも先輩に愛されていました。つまり年長者との付き合いのプロフェッショナルなんです。そこでビジネスパーソンにも参考になる話としてお聞きしたいのですが、どんな考え方をもって先輩と付き合っているのでしょうか。

向井 年長者との付き合い方については、まず僕の生まれ育ちが関係していると思います。僕には姉がいて、子供のころは姉の同年代の友達5〜6人と一緒に過ごす時間が長かったんです。すると、そのうちに「この人たちが喜びそうなこと」が自然と浮かび上がってくるようになったんですよね。

具体的な例をいうと、「ここで『お腹が減った~』みたいなワガママをあえて言ったら、あの人達は僕にお菓子を与えてくれるし、僕がお菓子をねだることでこの場も楽しい空気になるはずだ」みたいな。そういうことが肌感で何となく分かって、ちょっと打算的な振る舞いをしていたんです。その能力は今に活きていますね。

そして芸人になってからは「この先輩が好きだから、この人に好かれたい」という気持ちが、とにかく大きいです。その「好かれたい」という気持ちの裏には、芸人としての強いリスペクトがあります。なので、「この憧れの先輩の近くにいるために、自分は何をすべきなのか」というのを物凄く考えるようになりました。

桝本 つまり今も、お姉さんたちの集団のなかで過ごしたときと同じように、「今こういうことを言うと座持ちが良くなるかな」みたいなアイデアが自然と浮かんできちゃうんですね。そして、全てを戦略的に振る舞っているわけではなく、そこには年長者に対する「好き」という気持ちと、尊敬の念も必ず紐づいていると。

桝本壮志
桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。

向井 面白い人へのリスペクトは絶対的にありますね。こんなことを芸人が言っても仕方がないんですが、同期のチョコプラやシソンヌを見たときに、自分の芸人としての能力の至らなさには、養成所(NSC)の時点でもう気づいていたんです。

そんな僕が芸人としての自尊心を保つ方法は、「面白い人と一緒にいること」でした。ただ、面白い人にゴマをすったり、媚を売ったりして気に入ってもらえても、僕の自尊心は保てません。なので、「その人たちに必要とされること、『こいつに側にいてほしい』と思ってもらうこと」が、自分を芸人たらしめるために必要だったんです。

桝本 面白いね。向井さんが先輩と付き合ううえで気をつけていることはありますか?

向井 これは生意気に聞こえるかもしれませんが、僕は自分が本当に面白いと思ってリスペクトしている方に、すべての時間を割きたいと思っているので、全方位の先輩に同じことするのは無理なんです。なので、相手を絞っている部分はあります。

桝本 それは超大切だね。

向井 なので、いろんな方に誘っていただいたとき、もちろん生意気で嫌な言い方はしませんが、お断りすることはあります。

桝本 全方位型で先輩に愛情を注いでたら自分も売れないし、行きたい場所に行けないですもんね。そう考えると、又吉直樹は本当に幸せな人ですね。この向井慧が、できる限りの時間を注ぎたいと思った人なわけですから。

向井 僕は又吉さんに出会わなかったら、まったく違う芸人人生を歩んでいたと思います。なので、又吉さんとの関係では、与えてもらったもののほうが本当に大きすぎますね。

桝本 久々にこうやって2人で話すと、向井さんは芸人としての背骨が又吉さんに似ていますね。そして又吉直樹という人間も、向井さんと一緒にいることで、文筆家として日々を過ごすエッセイのクオリティを上げてきたし、黒澤明の『生きる』とはまた違う『生きとるわ』という素晴らしい小説を書けたのは、向井さんがいたからこそなんだろうなと僕は感じます。

向井 そんなふうに言っていただけると、ただただ嬉しいですね。

桝本壮志とパンサー向井

又吉直樹からの金言「ボケが2.5倍面白くなるツッコミになれ」

桝本 向井さんのお仕事の広げ方についても聞きたいです。パンサーではネタ書きは菅さんですし、アクティブな尾形さんは本当に自由奔放に仕事を広げていますよね。そんな2人とトリオを組んで、シソンヌ、チョコプラに「芸人としてモノが違う」と感じていた向井さんは、仕事を広げるうえでも色々な壁を乗り越えてきたと思うんです。

向井 本当に色々なコンプレックスと共に歩んできたな、と自分でも感じています。そんな僕の支えになったのは、やっぱり又吉さんの言葉でした。まずパンサーの前のコンビを解散した段階で、芸人を辞める・辞めないの話をしていた時に引き止めてくれたのが又吉さんで。「お前は大丈夫だから、もうちょいやってみい」と言ってくれました。

そして前のコンビでボケをやってた僕が、パンサーでツッコミになった時期は、まさにツッコミのワード全盛期でした。南海キャンディーズの山里さんや、フットボールアワーの後藤さんといった方々がガンガン仕事を増やしている時期で、「ボケに近いようなツッコミ」をする凄い芸人さんがたくさんいました。そこで自分はどうすべきか悩んでいたときも、又吉さんの言葉が指針になりました。

又吉さんは僕に、「もちろん後藤さんとか山ちゃんは、めっちゃおもろい。ボケが1個ボケたとしたら、2人は1.5くらいの面白いツッコミをできる人や。でもお前は、面白いツッコミはせんでええ。お前が笑ってくれるのが嬉しくて、ボケの人がいつもの2.5倍ぐらいボケてくれるツッコミになったらええんや。現場にある面白さの合計が2.5だとすると、総量はそれで変わらへんから。お前はそれができる人間や」と言ってくれたんです。

桝本 これは面白い話ですね。

向井 聞いていて「なるほどなぁ」と思いました。そして僕は、ガンガン前に出て笑いを取ろうと頑張るよりも、自分のパスで同じひな壇の誰かが一個の笑いを生み出すことを大事にして、そうやって生まれた笑いも「自分のポイント」と考えるスタイルに少しずつ変わっていきました。「周りの人たちの一番面白いポイントを引き立たせるプロフェッショナルになるしかない」と思ったというか、そうならざるを得なかったんですよね。そうやって考え方を変えると、MCや裏回しの仕事が自然と増えていきました。

桝本 なるほどなぁ。「自分の言葉次第で周囲の人のパフォーマンスが上がる」という話はビジネスの世界でも大いにあることですし、又吉さんの今の言葉は金言ですね。

あと向井さんはお仕事の幅を広げていくときに、自分から「こんなことやりませんか?」とプロデューサーなどに提案していくタイプですか? それとも受けたオファーを取捨選択していくタイプですか?

向井 30代の中頃までは、いただいたお話はできる限り受けて、自分なりに一生懸命やってみる意識でした。その時期を経て、今は『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)という自分がガッツリ背負う番組をやらせていただくフェーズに入ってきたので、仕事の仕方は若干変わりました。

というのも、自分が「背負ってみよう」と覚悟したら、それが想像以上に大変だったんです。結果として、「この仕事を受けてもマックスのエネルギーは出せないかも」と感じる場合も増えてきたので、今はバランスを探っているところです。

※3回目に続く

TEXT=古澤誠一郎

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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