放送作家の他、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として人気1位を10年以上獲得する桝本壮志の対談連載。今回はパンサー・向井慧。第3回は、ラジオMCの極意について。「10準備して8余らせる」ルーティンや、相手の魅力を引き出す“笑顔”の戦略など、プロの対話術を解き明かす。

「10準備して8余らせる」。冷静に話すための絶対条件は“準備した事実”
桝本 向井さんの仕事の柱の一つになっている、ラジオMCの話を今回は聞かせてください。世の中のビジネスパーソンには、会議中に緊張して上手く話せないことに悩んでいる方が多くいます。ラジオは耳のエンタメなので、話し方にもすごく気をつけていらっしゃると思いますが、向井さんがラジオで話すときに心がけていることは何ですか?
向井 これは「僕がそういうタイプだから」という話でしかないかもしれませんが、しっかり準備をすることですね。僕は準備をしないとダメなタイプで、それが不十分だと本番で慌てちゃうんですよね。
桝本 準備というのは、具体的にいうとゲストの方の下調べとかですよね?
向井 そうですね。いま『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)を始めてから4年ほどですが、やはり「この日は準備が甘かったな」と思う日は何日か出てしまっていて、その時を振り返ると「やばい、次に何を喋ろうかな」と本番中も焦っていましたし、あからさまに自分のパフォーマンスが落ちているのが分かりました。
一方で、球をいっぱい持った状態で臨むと、冷静になって喋れるのも分かっているので、本番で使うかどうかは一旦置いておいて、「準備した事実を持って本番に向かうこと」はメチャクチャ意識しています。「話すことを10用意してきたとしたら、8使えたら最高」という感覚で、絶対に余らせるくらいの準備はしていますね。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。
桝本 その準備は前日にやるんですよね?
向井 前日だったり、本番前に早めに入って準備したりしていますね。そういう習慣が身についたのは、僕ら(パンサー)がラジオにゲストで出てきたときに、「この人は準備をしていないな」と感じる経験を何度かしてきたのが大きかったです。
僕も台本通りに番組が進むこと自体は嫌じゃないですが、台本から脱線しない質問が続くと、やっぱり「この人は自分たちに興味がないんだな」と感じちゃうんですよね。自分は絶対そうなりたくないな、と思いました。なので、人と喋るときは「あなたに興味がありますよ」という意思表示をどれだけできるかが大事だと思っています。
桝本 その話、すごくわかります。
向井 その興味の示し方は、僕はテクニックの一種でもあると思っています。たとえば同じような質問をする場合でも、台本通りに読むのと、自分の興味や言葉を交えて質問するのとでは、たぶん答えの内容は変わってくるんですよね。要するに「この人は本当に自分に興味を持って喋ってくれているな」と感じてもらえたら勝ちというか。ただ僕は、ゲストの方を招くときは自分の「知りたい」という気持ちから質問したいと思っているので、小手先の技術だけで誤魔化さず、しっかり準備をして話すようにしています。
桝本 それだけ準備をするタイプなのに、本番では自然に話せている感じに見えるのも向井さんの凄さだと思いますね。

1985年愛知県生まれ。NSC東京校(11期)入学と前コンビでの活動を経て、2008年に菅良太郎、尾形貴弘とお笑いトリオ・パンサーを結成。個人としてはラジオでも活躍の場を広げ、2022年からTBSラジオの朝の帯番組『パンサー向井の#ふらっと』のパーソナリティを務める。
「あなたに興味がある」の意思表示。台本を超えた対話を生む質問のコツ
桝本 相手に興味を示すことは大事ですよね。僕はNSCの講師として大阪校と東京校で毎年約1200人の生徒を教えていますが、全員に「君を育てる覚悟があるよ」と伝わるような態度を取ることを心がけています。でも、なかには内向的な生徒もいるし、講師と協力関係を築こうとしない生徒もいるんですよね。
向井 入学したばかりの頃は尖っている生徒も多いですからね。
桝本 そうなんです。超一流のゲストをラジオで迎えている向井さんとは次元の違う話だと思いますが、そうやって「この人と話すのは難しいな、この人と話すのは苦手だな」と思ったときはどう対処していますか?
向井 まず、苦手な相手がいるのは人間なので仕方がないことだと思っています。そのうえで、その人の話に笑うことで、「あなたの話はとても面白いし、今の感じで大丈夫ですよ」という空気を出すことは、たとえ苦手な相手でも意識しています。これは前回に話した又吉さんの「2.5倍ボケてもらえるツッコミになれ」という教えと同じですね。「この人は自分の話に笑ってくれるな」と相手に感じてもらえたら、その人は嬉しくなって面白い話をしてくれるんです。
あと僕は笑顔のイメージも強い人間だと思うので、「自分が笑顔で話を聞くことで相手に乗ってもらう」というのは意識しています。でも、たまに「いや、目の奥笑ってないよね」とか言われることもあるんですよ。そう指摘されるの、俺すっごい苦手で。
桝本 おるよなぁ、そういう人。
向井 いますよね! 僕は「笑顔で話を聞くこと」って、お互いがコミュニケーションを円滑にするために行っている努力だと思うんですよ。そもそも、心の底から100%爆笑できることに出合う場面なんて本当に少ないなかで、みんなが表情や声のトーンを選んで、その場にベストのコミュニケーションを探すことで、面白い会話が生まれていると思うんです。それなのに、「お前が100%本心で笑ってないのを俺は見抜いている」みたいな感じで来られたら、「なら僕も大丈夫です」ってなっちゃいますよね。
桝本 わかるなぁ。ゲストを迎えるトークって、「いらっしゃいませ」と入口を開けて、「この人とは絶対に楽しい会話ができる」と相手の知性を信じることから始まると思っていて。それなのに、相手に協力しない、握手もしない、心も合わせない人とは、入口の時点でお引き取り願うしかないですよね。
向井 桝本さんは昔からこういうオシャレな例え超うまいですよね(笑)。まさにそういうことだと思います。あと、僕はそうやって笑顔で相手の話を聞くことを「嘘のコミュニケーション」と思われたくなくて。楽しくコミュニケーションするために必要なものなのに、それを「作り笑顔だ」とか「本心では笑ってない」とか指摘されると、笑顔で話を聞くことがネガティブなことになっちゃいますよね。
桝本 だって向井さんの吉本グッズ、どれもみんな笑顔ですからね(笑)。笑顔は向井さんの「表紙」なんですよ。「この人といえばこの顔」という表紙を真っ先に破りにくるやつ、何なんでしょうねぇ。
※4回目に続く

