怪我で離脱する選手が続出するなど「波乱万丈だった」2025シーズンを乗り切るべく、FC町田ゼルビア・黒田剛監督は、ポリバレントな選手の育成や若手の起用に力を注いだ。それが実を結び、天皇杯でタイトル獲得というクラブの悲願を達成した。ベテランと若手、双方のモチベーションをあげ、切磋琢磨させる黒田剛流マネジメント術を紐解く。2回目。【インタビューをすべて読む】

組織はベテランと若手の融合でアップデートできる
――2025年リーグ終盤からチームの調子が少しずつ上向きになり、2025年11月22日に開催された天皇杯決勝では、2024年覇者・ヴィッセル神戸を破り、優勝しました。
黒田 2025シーズンにチャレンジした戦術が選手に浸透し、我々が理想としていたサッカーが現実味を帯びてきたこと、シーズン当初のコンセプトに立ち返るなどチームを再構築したこと、怪我人が戻ってきたこと。そうした要因が重なって、終盤チームが非常に良い状態になり、悲願だった初タイトルを獲得できました。
主力選手が怪我で離脱していた期間に起用した選手たちが成長したのも大きかったですね。慣れないポジションに取り組んでいた選手がフィットしてきたり、試合経験が少ない選手が場数を踏んで良いパフォーマンスを発揮してくれたり。結果的に選手層が厚くなり、チーム全体としてレベルアップしたのも、天皇杯優勝につながったと思います。
――確かに、林幸多郎選手、望月ヘンリー海輝選手、藤尾翔太選手といった若手選手が台頭してきた印象があります。
黒田 もともと力のある選手たちですが、キャリアがあるベテランや先輩たちと良い関係性が築けていたのが成長の一因でしょう。彼らに限らず、うちのチームは若手とベテランがうまく融合し、互いに切磋琢磨する土壌があります。
若い選手は、先輩からアドバイスを受け、その言動から学び、自信をつけることで、さらに成長する。ベテラン選手は、若手のパワーやエネルギー、自分たちとは違うメンタリティーに触発され、もう一段上にいく。その相乗効果が実感できたシーズンでもありました。
会社組織でも言えることですが、経験のあるベテランだけで成り立っているチームには、必ず限界が訪れる。チームが成長するには、ベテランと若手が融合し、化学反応を起こすことが必要なのです。組織は生きもの。マンネリ化していては停滞する一方ですから、手を変え、品を変え、ベストな方法を模索しながらコントロールすることが不可欠だと思います。
――若手を起用するということは、ポジションを奪われるベテランや中堅が出ることになります。反発したり、腐ったりといったネガティブな空気はありませんでしたか?
黒田 それはまったくなかったですね。むしろ選手たちは、自分が起用されないことに対して愚痴を言うとか不満な顔をすることが恥ずかしいとすら、思っているのではないでしょうか。若手が伸び伸びと、チームの勝利のために躍動してくれることを、皆が望んでいますし、そうでないと困るというくらいで。
私は、一生懸命やっている選手が報われる環境づくり、頑張った人が評価され、仲間からも歓迎される組織づくりをしてきたつもりですし、その考えは、シーズン最初のマネジメントガイダンスの時にレクチャーし、チーム全体で共有しています。年齢やキャリア関係なく、お互いをリスペクトしていれば、相手から何か学ぼうとしますし、実際に学べます。
逆に、誰か一人でもネガティブな態度をとったり、チームとは反対の方向を向いていたりすれば、水が一滴ずつ漏れ出すのと同じで、そこから組織が崩れていきます。そうならないよう、そこは細部に拘り神経を使ってマネジメントしています。
起用にあたっては、根拠を明確にし、ブレないことも心がけています。重視しているのは、仲間から信頼され、結果を出し続けた選手、いつも良い準備をしている選手がポジションを獲得するチームであること。私ひとりの独断ではなく、スタッフの意見や提案も参考にし、また選手たちからの「勝つためにこの選手を使ってほしい」「この選手がチームに必要だ」というサインを見逃さず、起用しているつもりです。

1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業等を経て、1994年に青森山田高校サッカー部コーチ、翌年、監督に就任。以後、全国高校サッカー選手権大会3度の優勝を含む全国大会7度の優勝。2023年からFC町田ゼルビアの監督に就任し、2023シーズンはJ2優勝、2024シーズンはJ1 3位、2025シーズンは天皇杯優勝を果たす。著書『勝つ、ではなく、負けない。 〜結果を出せず、悩んでいるリーダーへ〜』(幻冬舎)も好評。
平等に接するために、一番大切なのは距離感
――監督が、若手とベテランの接し方で気を付けている点はありますか?
黒田 平等であることですね。ベテランだからとか、日本代表だからといったことで忖度したり、特別扱いしたりせず、みんなが同じ土俵で勝負できる環境を整えることを意識しています。
平等に接するために、一番大切なのは距離感。いつも試合に出ている選手や遠征を共にする選手とは接する機会が多くなりますが、近くなり過ぎず、遠くなり過ぎず、いつでも言うべきことは言えるような距離感、選手からも何でも言いやすい距離感を保つようにしています。
このスタンスは、チームのリーダーとして絶対崩してはいけませんし、コーチやスタッフにも求めていること。人から好かれたいという想いや、わだかまりを持ちたくないという気持ちは誰にでもあるでしょうが、相手によってスタンスを変えることは、チームにとって決してプラスになりません。好かれたい、嫌われたくない、そんな思考や感情を持ったら組織マネジメントはできないと思っています。
注意する時はその人ひとりの時に、褒めるときはみんなの前でと、よく言いますよね。でも私は、ゲームの中で起こったミスも、素晴らしいプレーも、全員の前で口にします。全員で共有すれば、他の選手も同じミスをしないように気をつけますし、良いプレーを心がけようとしますから。
その際大事なのは、特定の人物を攻撃したり、諭そうとするのではなく、客観的に事実を伝え、みんなが理解するような伝え方をすること。そして、その指摘によってプレーが改善されれば、きちんと認め、しっかり評価もする。その繰り返しが大切ではないでしょうか。

キャプテンが威厳を失ったらチームは崩壊する
――チームにとってキャプテンの存在も大きい気がします。FC町田ゼルビアは、選手とスタッフによる「キャプテン総選挙」でキャプテンを決めていますが、2024年から昌子源選手が務めており、2026シーズンも昌子選手が再選しました。
黒田 2025年シーズンも、絶妙なタイミングで選手に声がけをするなど、源の言動はチームに良い影響をもたらしてくれました。みんなが、「キャプテンにふさわしいのは彼だ」と、今シーズンも源を選んだのは納得できます。
思うように勝てず悩んでいた時に、源から「元気を出してください」と声をかけてもらったこともありますし、逆に、自分が原因で試合に負けて自信を失いかけている源に、「キャプテンが威厳を失ったらチームは崩壊する。だから、堂々としていろ」とはっぱをかけたこともあります。
彼の言うことに耳を傾け、チームに反映させたいという想いもあるし、彼が、私の言葉をチームに浸透させてくれることもある。お互い感じたことを言い合える良い関係が築けていると思います。
源は選手の中で一番コミュニケーションをとる相手ですが、それだけに、人一倍厳しく接することもあります。「みんながお前を見ている。お前がやらなければ皆もそれを真似するし、お前がやればみんなもそのプレーが基準だと感じてくれる」と。損な役回りかもしれませんが、本人もちゃんと理解し、受け入れてくれている。本当に頼れるキャプテンです。
※チームマネジメントに次いで、第3回は選手たちのモチベーションアップの方法について話を聞く。

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