PERSON

2024.12.12

「認知症は防げない。でも、遅らせることはできる」脳の老化を遅らせる方法とは【和田秀樹×草野仁対談⑥】

草野仁の“太陽のようなパワー”はどこから生まれるのか。東大の先輩・草野と後輩・和田秀樹が“人間のエネルギー”に迫る。『80歳の壁』著者が“長生きの真意”に迫る連載。6回目。

認知症にならない生き方

和田 多くの人は認知症になるのを恐れています。でも認知症は脳の老化現象なので、それを防ぐ方法はありません。ただし老化現象だから、遅らせることはできます。

草野 なるほど。

和田 例えば80歳でボケるところを、頭を使ってたから90歳まで遅らせられた、とか。

草野 同年代の方にも聞かせたいお話ですね。

和田 最も大事なのは意欲なんです。「つまんないなあ」と思って生きるより「今日はこうしてみよう」「あれもやってみよう」と思いながら生きていると、自然に頭も使います。毎日を惰性で生きるのではなく、積極的に実験をするようなつもりで生きたらいいと思います。

草野 和田先生も血糖値がかなり高くなって、実験的に歩いたそうですね。そして徐々に改善していった。

和田 はい。

元気な幸齢者の共通項

草野 私も番組で元気な幸齢者に接しますが、共通項があります。例えば声の圧力です。90、100歳になっても50~60代と変わらない。精力的に歩くことも共通しています。満員電車にも平気で乗り、1時間ぐらいかけて目的地に行ったりする。歩くスピードも速いです。やはり人間は動物ですから、歩くことは大事なんですね。

和田 はい。仰る通りです。

草野 昔は「精神的な強化も含めて1万歩」なんて言われてましたが、5000歩ぐらいでもいいみたいですね。

和田 歩数よりも毎日続けることが大事なんです。3000歩でもいいから、毎日歩く。

草野 “健康賢者”のなかには「外には行かない」という方もいました。家の中を速めの歩き方で3分。休憩後に普通の歩き方で3分。これを何度かくり返す。何歩歩くとか、どこを歩くとかではないんですね。

和田 はい。動くこと自体が意欲のある証なんです。「もういいや」じゃなくて「今日もやる」と。草野さんは全身から意欲が溢れています(笑)。

草野 いやいや、単なる出しゃばりです(笑)。

和田 出しゃばるのをやめたらヨボヨボになりますよ(笑)。

草野 仰る通りですね。やはり健康賢者は「これをやりたい」という想いが強いですよね。例えば「ダーツが趣味」と言う102歳の女性がいました。かなり高得点を出すんですよ。その方は他にも14種類の趣味があると言っていました。

和田 意欲があるんですよね。

競馬はボケ予防に最適

和田 草野さんの一番の趣味は競馬ですか?

草野 競馬は学生時代、今から58年前からです。スポーツ紙で「今年のダービーの売上げが20億円に達するだろう」という記事を読んで「なんでそんなに人気があるんだ?」と気になって中山競馬場に向かいました。

和田 行動が素早い(笑)。そこでハマってしまった?

草野 メインレースに出る強い馬たちをパドックで見たんです。1頭1頭、鍛えられた肉体が美しくてね。本場イギリスで「キング・オブ・スポーツ」と言われる理由がわかった気がしました。数年後に、馬券も買うようになりましたが、決してうまくいかない(笑)。

和田 競馬は脳的にもいいんですよ。推測することも含めて。

草野 やっぱりね(笑)。私はジョークも交えて「競馬健康法」と言っています。

和田 競馬健康法ですか?

草野 はい。例えば認知症になると今日の日付を忘れてしまう方がいます。ですが競馬は1週間の日程が決まってるから忘れません。土・日にはレースが行われ、月曜日には記録が載った週刊誌が出ます。水曜日には馬たちがレースに向けて練習をする。調教と言うんですが、そのデータも見たくなる(笑)。そして金曜日には明日はレースだとワクワクする。1週間の日程がびっしり決まってるので、曜日や日付を忘れようがない(笑)。

和田 (笑)。

草野 競馬場のスタンドから観る景色は美しいですよ。一面に緑が広がっていましてね。昔は秋には枯れたのですが、今はいろんな改良を施してるので、ずっとグリーンです。すごく気分がよくなります。

和田 心の健康にもいい。

草野 競馬は12レースありますが、全部に参加する必要はありません。でも仮に参加したとすると、1レースずつパドックに移動して馬を見たくなる。中山競馬場で、その往復の歩数をカウントしたら1日6000歩でした。行き帰りの電車の歩数も含めたら1万歩になります。

和田 なるほど。確かに競馬健康法ですね(笑)。

草野 競馬は私にとって仕事のひとつでもあります。今はJRAの競馬チャンネルで、月に一度、ゲストをお呼びしてインタビューをしているんです。『Gate J.プラス』という番組です。

和田 ギャンブル的なものって、予測をすることで頭を使うんですよ。しかも、意外性もあるので前頭葉も刺激されます。

草野 過去のレースも記憶してないといけませんからね。

和田 そうですね。だから頭の使い方としてはとてもいい。もちろん無茶な賭け方をしなければという前提付きですが。

草野 和田先生、競馬は?

和田 僕は、あらゆるギャンブルが経験的に下手だとわかっていまして。麻雀もパチンコも、ラスベガスではカジノもやったけど、何をやっても瞬時に負ける。だからやらない(笑)。

草野 負けるのは執念が足りないからです(笑)。

和田 そうかもしれませんね。

草野 今日はとても楽しかったです。本当にありがとうございました。和田先生の著書を読むと、懐の深さを感じます。普通の医師は定型的なものの見方をしますが、先生は体験をもとに本質を突いておられます。

和田 こちらこそ勉強になりました。やはりうまく年を取られている方から学ぶことは多いですね。ありがとうございます。

ポーズを決める草野仁氏と和田秀樹氏
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

草野仁/Hitoshi Kusano(右)
キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=筒井義昭

HAIR&MAKE-UP=田中潔

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