PERSON

2024.12.08

「80歳・草野仁さんの若さの秘訣は、“あれもこれもやりたい”と足し算で考えること」【和田秀樹対談②】

草野仁の“太陽のようなパワー”はどこから生まれるのか。東大の先輩・草野と後輩・和田秀樹が“人間のエネルギー”に迫る。『80歳の壁』著者が“長生きの真意”に迫る連載。2回目。

新しいことに挑戦する

和田 草野さんの声って、やはりすごい。よく通りますよね。僕は昔からテレビを見ていますがずっと変わらない。直に聞いて感激しましたよ(笑)。

草野 ハハハ、そうですか。

和田 年を取ると、普通は小さくなったり低くなったりするんです。でも元気な人の声は変わらない。先日、浜村淳さんのラジオに出演しましたが、声は昔の通りでした。

草野 歌手の方もそうです。男性も女性も音域が低くなっていく傾向があります。すごく驚かされたのは五木ひろしさんで、昔から全然変わらないんです。

和田 さすがですね。日頃の訓練の賜物でしょうか

草野 それもありますが“心の張り”も大きいと思います。雑誌でたまたま読んだのですが、五木さんは、1年にひとつ楽器をマスターすることを目標にしていて、その数が16になったそうです。

和田 それはすごい。

草野 それで私、ある時にスタジオで偶然、五木さんとお会いしたので、聞いてみたんです。「16種類の楽器をマスターされたそうですが今は?」と。すると「18種類になりました」と言うので、驚きました。

和田 進化してるんですね。

草野 はい。これは私の想像ですが、五木さんは最高の音楽を表現するために、伴奏者に注目したのでしょう。音楽は歌い手だけでなく、ひとりひとりの音がハーモニーになって生まれますからね。実際に楽器を弾いてみることで演奏者の気持ちや、小さな問題点も理解できる。五木さんに尋ねると「その通りです」と言っていただいて。

和田 素晴らしいですね。

草野 本当にそう思います。ちなみに、いちばん難しかったのは三味線だったと。

和田 頭で考えるだけじゃなく、行動することがすごい。楽器をマスターするのって、一つでも大変なのに、それをいくつも。その熱意はどこから湧き出てくるんですかね。

草野 業界の未来を考えてのことだと思います。五木さんが話してくださったんですけどね。「自分が生きている歌謡曲の世界は百年くらいの歴史がある。先達の作詞家・作曲家がどんな思いで、どんな努力をしてこの世界を高め、守ってきたのか。それを自分がいろいろ勉強し、次の世代に受け継がないといけない」と。それを聞いて、感動しましてね。

和田 いい話ですね。

草野 ご自身の歌だけでなく、歌謡界全体のレベルアップや未来を考えている。そうやって、よりよいものをつくり出そうとされている方がおられる。まさにプロフェッショナルですよね。

和田 五木さんは70代後半だと思いますが、見た目も若々しいです。年齢に関係なく、新しいことにチャレンジするというのは、精神医学的にも、非常に重要なことなんです。

草野 仰る通りだと思います。

前を向いて生きる

和田 チャレンジ精神のある方は想像力があるんです。前に出ようという感覚や前を向こうとする意欲もある。年を取ると、そこがいちばん衰えてくる。

草野 そうですね。

和田 草野さんは仕事柄、いろんな人に会い、話を聞いて、感動する機会も多い。脳が常に刺激されている状態です。それも若さの秘訣だと思います。

草野 幸運にも、素晴らしい刺激をいただきながら、仕事を続けることができました。

和田 この連載のテーマでもあるのですが、単に長生きするのではなく、いかに元気で、自分らしく生きるか、を重要視すべきです。

草野 そうですね。

和田 そのために大事なのは、「あれがダメ」とか「これができなくなった」と引き算で考えるのではなく、「あれもできる」「これもやりたい」と足し算で考えることです。要は前向きに生きるということです。草野さんはいつも前向きに見えます。

草野 ハハハ。いえいえ、私は大したことないです(笑)。それよりも、私が和田先生の本を読んで感激したのは、私たちのような年を取った人間のことを「高齢者」ではなく「幸齢者」と言ってくださったことです。

和田 ああ、恐れ入ります。

草野 高齢者とか後期高齢者という言葉は“区分け”としてはわかるんです。でも「後期高齢者」って聞いた時に、なんだかカッとしましてね。「もうじき死んじゃう人のように言うな」と思ったんです。心のこもってない言葉ですよね。だけど「幸齢者」という呼び方には、人間的な温かみがある。私はね、救われた思いがしたんです。

和田 幸齢者が人生の後半を元気に生きる。これは国としても極めて重要なテーマです。ところが先般の自民党総裁選でも、候補者が9人もいながら、誰も何も言わない。

草野 そうですね。

和田 コロナの時もそうです。確かに自粛を促せば感染のリスクは減ります。でも、幸齢者を家に閉じこめておくことがどれほど危険か。その議論はまったくありませんでした。

草野 仰る通りです。

和田 私たち一般人は、家から出ないわけにはいきませんよ。それどころか、外に出て歩いたり、誰かと話したりすることで元気を保つことができるわけです。政治家は運転手付きのクルマに乗ってふんぞり返ってるから、そんなことさえわからない。

草野 本当にそうですね。

和田 愛もなければ、想像力もない。だから若い世代も含め、国民が不安になるんですよ。

草野 先ほども話したように、平気で「後期高齢者」なんて呼び方をしますから。あれは厚生労働省なんでしょうけど。和田先生が使い始めた「幸齢者」って言葉も、本来は政治や行政が使うべきものだと思います。

和田 例えば、想像力がないことは、歩道を見ても明らかです。欧米には、歩道の至る所にベンチが設置されているんですよ。そこにお年寄りが腰かけ、しばらく休んでからまた歩く。海外に行くと、そんな光景をよく目にします。ところが日本は、これだけお年寄りが多い国なのに、そういう配慮がまるでない。それどころか「大変だろうな」という発想すらありません。

草野 「人生百年」という掛け声だけは威勢がいいんですけどね(笑)。

ポーズを決める草野仁氏と和田秀樹氏
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

草野仁/Hitoshi Kusano(右)
キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=筒井義昭

HAIR&MAKE-UP=田中潔

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