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2023.09.02

口笛を極め、ウグイスと会話! 五木ひろし、プロフェッショナルの掟

歌手・五木ひろしが通算175枚目のシングル「時は流れて…」を2023年9月にリリース。2024年で歌手生活60周年を迎えるレジェンド五木ひろしの半生に迫る。連載12回目。過去記事はコチラ

「コンサート中に、水を飲まない!」

「プロはプロに徹するべき」

五木は肝に銘じている。

「あえて言うまでもないことですが、ステージには喉も身体も常にベストコンディションで臨みます。お客さんは僕を観に来てくれています。僕の歌を聴きに来てくれています。だから開演から終演まで、可能な限り僕はステージにいる。袖に消える時間は最小限にしています」

開演時間は厳守。

「ときどきエンタテインメントの興業が、開演時間には始まらないことがありますよね。僕のコンサートは、お客さん側になにかの事情がない限りはオンタイム開演です。本編の最後の曲が終ってからアンコールまでの時間も最小限に抑えます」

MCは極力少なくする。

「ステージによりますが、MCは1回か、せいぜい2回です。あとは歌い続ける。MCをはさまずに、曲間を開けずに、40分ぶっ通しで歌うこともよくあります。歌い手が苦しい状況になればなるほど、お客さんは楽しめる。歌い手が楽をしていると、お客さんは楽しめません。水も飲まず、汗だくで歌い続けるから、お客さんは感動します。アメリカのレジェンドでトム・ジョーンズというシンガーがいます。彼は開演前に大量に水を飲む。開演すると水をひかえて、でも40分くらいから飲んだ水が玉のような汗になって、顔から身体から噴き出す。とても魅力的です」

五木もステージでは水を飲まない。

「開演前にしっかり飲めば十分。人間の身体の70~80%は水分ですから、飲む必要はありません。最近は曲間に水を飲むシンガーをよく見ますが、僕の世代や上の世代は水を飲んでいないと思いますよ。水分補給の必要を感じたときも、飲む姿は見せないはずです。衣装替えで袖に引いたときにさっとひと口飲む程度じゃないでしょうか。僕はそれが、プロのエンタテインメントだと思っています」

18の楽器をマスター。口笛でウグイスとも会話する

五木はどんなことでも、始めたからにはプロを意識する。

「1970年代のボウリングブームのときは、マイボール、マイシューズを持って、少しでも時間があれば投げていました。当時は日本中どの街を訪れてもボーリング場がありましたから。ベストスコアは246です。ゴルフを始めたころは、1年間365日毎日クラブを握りました。地方へ行っても、朝7時から早朝ラウンド。その成果で、3年でシングルプレイヤーになっています」

音楽はもっと突き詰める。

「楽器は弦楽器、管楽器、打楽器……、18種類をマスターしました。プロのレベル、つまりお客さんの前で堂々と披露できるところまでいくには、1つの楽器に2年から3年はかかります。3年といっても、たとえば週に1度レッスンを受ける3年間ではありません。毎日、音を出してみっちり練習する3年間です。幸い僕は歌手ですから、いつもプロの演奏家に囲まれています。優秀な“先生たち”に恵まれているので、理解できないことや難易度の高い技術はすぐに教えてもらえます。比較的早くマスターできた楽器も、手ごわかった楽器もありました。管楽器は、たとえばアルトサックスをマスターできたら、ソプラノサックスやテナーサックスは比較的短い期間で演奏できます。リードのくわえ方や呼吸は応用がきくからです。フルートをマスターすれば、横笛系に応用がききます」

手ごわかったのは三味線だという。

「10代からギターは弾いていたけれど、同じ弦楽器といっても、三味線は勝手が違いました。ネック(竿の部分)の指板(ネックの表部)にフレット(音階を示すバー)がないと一気に難しくなります。指のポジションを感覚的に身につけるまでに時間がかかりましたね。腱鞘炎になるほど練習に練習を重ねました」

口笛までもマスターしたという五木だが、さすがに披露する機会は少なそうだ。

「口笛がうまくなると、自分の思いどおりの音階にコントロールできます。僕はね、ウグイスと会話ができるんですよ。春になると、うちの庭にウグイスがやってきます。彼らと会話する。ホーホケキョと僕が口笛を吹くと、ホーホケキョとウグイスが答える。それを30分くらい楽しんでいます。会話を続けていると、ウグイスにも個体差があり、声の違いがあることがわかる。高音域の鳥がいれば、低音域の鳥もいる。高い声、低い声、それぞれと僕は会話を楽しみます。彼らは僕をウグイスだと思っているはずです」

ウグイスとの会話が成立するというのは驚きだが、とにかく自分が一番でなければ、五木は納得できない。

「プロはプロとして、圧倒的でなければいけません。歌謡番組に出演したときに、歌が上手かったはずの共演者のピッチにずれを感じると、つらい気持ちになります。コンデイションがよくないのか。年齢のせいなのか。心配になります。僕も今は75歳。もしかしたら、どこかで変化が訪れるかもしれません。そうならないように、ものすごく意識しています。たとえば自分が出演した歌謡番組のオンエアを観てチェックを怠ることはありません」

レジェンドはレジェンドならではの、高いレベルでの苦悩があるのだ。

「歌手も生身の人間ですから、体調がよくない日もあります。過密なスケジュールで疲労しているときもあります。そういう状況でもそのときの100%の自分でステージに上がるのがプロです。それを何十年も続けることで、プロとしての自覚、自信、すごみが身についていく。だから、プロとアマチュアは、ひと目見ただけで違いがわかるのです」

(※第13回に続く)

TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=片桐史郎

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