役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、『秋が来るとき』と『おばあちゃんと僕の約束』の2本を取り上げる。

おばあちゃんの愛が生んだ物語
日本では終わりましたが、スウェーデンやフランスでは5月の最終日曜日が母の日。春分や5月に母の日を置く国が多いのは、花の季節の誕生や実りとつながっているからか。今月はおばあちゃんを描いた2作の映画から学びを得ました。
1本目はフランス映画。フランソワ・オゾン監督の『秋が来るとき』。自然豊かなブルゴーニュの地で、大きな屋敷にひとり暮らしする老婆の物語。休日にパリから娘が、孫を預けにやってくる。目に入れても痛くない孫をダシに、金はせびるわ、生前贈与しろだわ、この娘最低だな! と怒りに震えたが、よくよく考えれば、20代の私もそんな感じだったといたく反省。
その時に娘と孫をもてなすために用意したキノコ料理で娘が食あたりに。楽しみにしていた孫との週末を取りあげられてしまう。さらに近所に住む親友の息子にもハラハラさせられっぱなし。コイツが出てきてからまさに、禍福は糾(あざな)える縄の如し。意表を突く怒濤の展開にもう目が離せません!
2本目は2024年、アジア中で大ヒットしたタイ映画『おばあちゃんと僕の約束』。お粥の露店を長年にわたって続けたおばあさんが、ガンで余命僅かと診断され、ニートの孫が遺産目当てで同居を申しこむ物語。おばあさんには3人の子。何でもかんでも妻の言いなりの長男と、仕事がうまくいかず借金三昧の次男。しっかり者で苦労続きの長女。誰に遺産をあげるべきかは明確なはずなのに、親の気持ちはそんな単純でないというのが世の常。滝藤も4人の子供がいるので考えさせられます。この話は、本作の脚本家が、一番介護したのに男兄弟と比べ、碌(ろく)な財産をもらえなかった母の実体験を書いたとか。
親子だと、子からの余計なひと言はカチンとくるけど、孫からだとイライラしないのはなぜだろう。おばあちゃんの人生哲学に触れることは、財産よりもはるかに豊かな時間と生き方の指針を与えてくれる。滝藤も今年80歳でひとり暮らしをしている母との接し方を、改めねばと深く反省する今日この頃であります。
『秋が来るとき』
フランソワ・オゾンが幼少期の思い出から着想を得た物語。娘に憎まれる80歳の老婆の、孫との人生の再生を描く。

2024/フランス
監督:フランソワ・オゾン
出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコほか
配給:ロングライド、マーチ
2025年5月30日より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『おばあちゃんと僕の約束』
2024年、世界で120億円の興行収入を記録したタイの話題作。苦労続きの人生だったおばあちゃんの最後の望みとは?

2024/タイ
監督:パット・ブーンニティパット
出演:プッティポン・アッサラッタナクン、ウサー・セームカムほか
配給:アンプラグド
2025年6月13日より新宿ピカデリーほか全国順次公開
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。2025年6月6日に映画『見える子ちゃん』、6月13日に『フロントライン』が公開される。現在は、映画撮影の真っ最中。