PERSON

2024.12.09

「円周率は100桁。競馬NO.1記録は1990年の中山17万7779人」草野仁のスゴい記憶力の秘密【和田秀樹解説③】

草野仁の“太陽のようなパワー”はどこから生まれるのか。東大の先輩・草野と後輩・和田秀樹が“人間のエネルギー”に迫る。『80歳の壁』著者が“長生きの真意”に迫る連載。3回目。

炭水化物をコントロール

草野 テレビ東京系の健康番組を担当して十数年になりますが、医師が同様に「日本人は炭水化物を摂り過ぎ」と指摘します。米にしても、麦やそば、うどんにしても、炭水化物のパーセンテージが多過ぎだと。例えばご飯を2膳食べる人は1膳に、パンを2枚の人は1枚にする。それだけでも簡単に体重のコントロールはできる。特に男性はそうだ、というような話を聞きましてね。

和田 なるほど。

草野 初めのうちは聞きながら「何言ってんだ。日本人は昔から米を食べないと力が出ないものなんだ」と思ってたんです。だけど頻繁に同じような話が出てくるもんだから「じゃあ、ちょっとやってみるか」と。

和田 実際に試してみた?

草野 はい。3ヵ月ほどで3キロぐらい体重が減ったんです。食べる量だけでなく食べ方も変えてみました。

和田 世間では「野菜を最初に食べるのがいい」なんて言われてますね。

草野 はい。最初から米をかきこむと血糖値がバーッと上がるし、いろんな問題が出てくると言うので、最初に野菜をたくさん食べるようになりました。もちろんタンパク質も取らなきゃいけないので卵なども食べます。そうやって医師が「よい」と言うことを少しずつ実践するようになり、続けています。

和田 その結果、お元気でいる。

草野 はい。体調は安定しています。私のやり方で大丈夫でしょうか(笑)。

和田 実際にお元気なのだから合ってるんですよ(笑)。年を取って、健康面で特に気をつけなきゃいけないのは「栄養不足」なんです。食事量は一般的に、加齢と共に細くなってきます。でもそれにまかせると、当然、痩せてしまいます。

草野 痩せるのはよくない?

和田 一概に「痩せるのがいい」とか「悪い」とは言えません。“痩せ方”には2種類あるんです。ひとつは食べる量がどんどん減っていって痩せるパターン。これは悪い痩せ方です。もうひとつは運動して痩せるパターン。これは悪くはありません。

草野 なるほど。

和田 やっぱり元気なお年寄りは、よく食べますよね。

草野 本当にそうです。

和田 もちろん無理して食べたり、無理して太ったりする必要はありません。食べたいなら食べる。食べられるなら食べる。反対に、食べたいのを我慢して痩せる必要もない。実は「ちょい太ってる」くらいの高齢者のほうが、元気で長生きなんです。明らかなデータがあるのに、多くの人はそれを知りません。

草野 そうなんですね。

和田 はい。草野さんは食べる量がどんどん減ってくるとか、食べるのを我慢して痩せるという感じではないので、いいと思いますね。

私は肉より魚です

和田 お肉もよく食べますか?

草野 はい。ただ私は小さい頃に長崎県の島原に住んでいたので、魚をいっぱい食べて育ちました。

和田 お魚のおいしさを知ってるわけですね。

草野 はい。有明海に面した雲仙の麓の町なんですが、知り合いの漁師さんが、獲れた魚を分けてくれるんです。魚屋さんに卸しに行く途中に私の家に寄り「草野さん、なんでもどうぞ」と。すると父は「これとこれ。あ、これももらおう」なんて言っていただく。それをすぐに薄味の煮付けにしたりするんです。

和田 恵まれた環境ですね。

草野 今になって思うと「肉は高くて買えない」という懐事情もあったんでしょうけどね。だけど物のない時代に育った割に体は丈夫です。魚の栄養のおかげかな、と思っています。

和田 でしょうね。実は、日本人の体格は、戦後生まれの人から急によくなりました。米軍が脱脂粉乳を配り、学校給食も始まったからです。その結果、昭和30年前後に生まれた男性から身長が170㎝ぐらいになりました。やはり食べ物の影響は大きいと言わざるを得ません。

草野 寿命も延びましたよね。

和田 はい。かつて結核で死ぬ人が多かったのは、栄養不足のせいなんですよ。タンパク質が圧倒的に不足していた。定説では「結核による死者が減ったのはストレプトマイシンという抗生物質ができたおかげだ」となっていますが、これだと結核の患者そのものが減った理由の説明がつかない。

草野 なるほど。

和田 だから「結核の人には卵を食べさせろ」と言ってたことも、理に叶っているんです。草野さんが魚でタンパク質をたっぷり摂れたのは幸運でしたね。

草野 そうですね。

和田 魚はDHAも含むので頭も良くなります。草野さんは今もお魚が多いですか?

草野 はい。魚60:肉40という比率だと思います。

和田 いいですね。

記憶力の秘密

和田 草野さんは記憶力がよいことでも知られます。円周率は今も100桁まで覚えてらっしゃるとか。

草野 はい。円周率だけでなくいろいろとつまらないことを覚えてます。例えば日本の競馬場で一番多くの観客が入ったのは中山競馬場に1990年、17万7779人とかね(笑)。

和田 すごい(笑)。

草野 全然、役に立たないんですけどね。変なことを、ちょっとだけ覚えている力は、なんとか保てているようです。

和田 「保つ」と簡単に言いますが、年齢を考えたらすごいことなんですよ。

草野 記憶力を保つ方法のようなものはあるんですか。

和田 最近の脳科学では、記憶が苦手になるのは、2つの原因があると言われます。ひとつは、若い頃と比べて復習をしなくなることです。例えば本を読んで「いい話なので覚えておきたい」という場合、本当は2~3回読むと記憶が定着するのに、それをしなくなる。

草野 なるほど。

和田 もうひとつは、感動する力や好奇心が低下するからです。記憶というのは、感情を伴うことで残りやすくなります。子供の頃の古い出来事でも、楽しかった思い出や、嫌だった経験は覚えていますよね。心が強く揺さぶられた経験は、強く記憶に刻まれるのです。

草野 確かにそうですね。

和田 草野さんはいろんなことに関心を持ち、感動しながら話を聞いたりされます。それが記憶力の良さにも繋がっているのだと思います。

草野 年を取っても、好奇心や意欲を持ち続ける、あるいは、何かに感動しながら生きたりすれば、記憶も保たれやすいということですかね?

和田 はい。そうやって主体的に生きることは、記憶力だけでなく、元気に長生きする秘訣でもあるんですよ。

ポーズを決める草野仁氏と和田秀樹氏
和田秀樹/Hideki Wada(左)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

草野仁/Hitoshi Kusano(右)
キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=筒井義昭

HAIR&MAKE-UP=田中潔

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