和田秀樹対談連載。加藤登紀子5回目。【そのほかの対談記事はコチラ】

時代はどんどん悪くなる!?
加藤 「古き良き時代」って言葉があるでしょ。いつからあるのかな。ずっと昔からある?
和田 あります、あります。
加藤 ということは、前の時代のほうがいつもいいってことよね。逆に言うと、どんどん悪くなってるってことだ。
和田 (笑)。さすがですね。
加藤 柳田國男の『遠野物語』の序文にもあるでしょ。『今昔物語』の時代から“今は昔”と言ってるけど、私が今から書く物語は3日前に河童に会ったみたいな話だよって。
和田 例えば僕は、大正はなかなかいい時代だと思っていて。昭和の軍国主義になってからは確かに悪くなったけど、戦前には戦前のいい緩さがあったんです。大正時代はむしろ“贅沢は素敵だ”という感じだった。
加藤 わかる。大正デモクラシーは最高ですよね。
和田 ユニークな作家もいっぱい出たし。
加藤 うちの両親、まさに大正デモクラシーですよ。
和田 大正のなにがすごいかって。僕が祖母からよく聞かされたのは「大正天皇っていうのはアホやったんやで」と。教育勅語クルクルって回して…。
加藤 覗いたっていうね。
和田 大正の日本ではそういうことを、うちの祖母みたいな庶民でも言えたわけですよ。
加藤 なるほど。
和田 このおおらかさが大正デモクラシーにつながったんでしょうね。大正の日本は世界的に見ても非常に自由な国なんです。だからというわけじゃないけど、国のリーダーとかはちょっと緩いほうが、いい国になるのかなって思ったりします。
加藤 そうかもしれないね。
いいリーダーの条件

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁を超えた人たち』『幸齢党宣言』など著書多数。
和田 アメリカのレーガン大統領は任期を終えてから5年目にアルツハイマーを告白したんですけど。
加藤 そうでしたね。
和田 そのときはもう話が通じない状態だった。ということは、大統領だったときも軽度の認知症はあったはずです。
加藤 もう始まっていた?
和田 僕の印象から言うとそうですね。僕が普段から見ている認知症患者は、軽い人も重い人もいます。で、軽い人ってなんでもできるんです。
加藤 なるほど。レーガンは2期8年やりましたよね。
和田 はい。レーガンの息子・ジェフの回顧録だと、2期目の選挙のときからおかしかったと。つまり2期目の4年間は軽い認知症でありながら、大統領をできたわけです。むしろ名大統領と言われるほどでした。そう考えると、今のトランプのほうがよっぽど始末に悪いような。
加藤 (笑)。老子がね、どんな王様がいい王様なのか、と教えている話があるの。
和田 ほう。
加藤 人気のある王様は2番目なんだよと。人気のない王様はもちろん最低だ。最高なのは、存在を忘れられるぐらいの王様だと。要するに、なにもしない王様がいいって言ってるの。
和田 なるほど。
加藤 王様がなにかすると、ろくなことがないって。人気のある王様は、人気を取るためにやりすぎるでしょ。
和田 その通りですね。
加藤 人々が営んでいるシステムを自由にさせておくのが一番うまくいくんだと。上からどうこうするんじゃなく、にっこり笑っていい状態を見守ってくれる王様がいいのよね。
和田 人気があると、あれもこれもとやりすぎる。耳の痛いリーダーがいそうですね。
加藤 そうね(笑)。
縦の関係より横の関係を大事にする

シンガー・ソングライター。1943年ハルビン生まれ。1966年「誰も誰も知らない」でレコードデビュー。1971年「知床旅情」が大ヒットし、日本レコード大賞歌唱賞受賞。自身が訳詞・歌唱した「百万本のバラ」が話題となり、1987年にシングル化。最新刊に『「ま・さ・か」の学校』がある。現在も国内外で活躍し、2026年10月にはウズベキスタンでコンサートを開催。
【加藤登紀子コンサート情報】
2026年9/6(日)あしかがフラワーパークプラザ(栃木)、9/23(水・祝)東京オペラシティコンサートホール(東京)。この他、12月にも神奈川、東京、京都、大阪、愛知などで開催。詳細はコチラ、またはトキコプランニングTEL:03-3352-3875まで。
加藤 夫の藤本敏夫はね、千葉の鴨川に「鴨川自然王国」っていうのを作ったのよ。今は2番目の娘が継いで、そこに入ってくれた人と結婚したんだけど。
和田 素敵ですね。
加藤 だから彼女の旦那は国王なのよ。だけど国王なんて呼ばれるとストレスで病気になっちゃうから、国王と呼ぶのを禁止している。とはいえ、働いているのは彼一人なんだけどね。国王一人で農作業してるわけ。
和田 大変ですね。
加藤 そうなの。重圧の中で彼はなんとか頑張っている。この王国はね、臣民はいないけど、シンパはいるの。協力してくれる応援者がたくさんいる。
和田 それは心強いですね。アドラーもこう言ってるんです。「縦の関係よりも横の関係を大事にしなさい」と。
加藤 いい言葉ね。
和田 日本は縦の関係が強くて横の関係が薄いでしょ。少しずつ変わってきてはいるけど。
加藤 確かにね。会社での呼び方も、社長とか部長じゃなく、名前で呼ぶとかね。
和田 もう何十年も前に、僕はアメリカに留学して驚いたんだけど。院長先生のことをみんながトムって呼ぶわけですよ。
加藤 ファーストネームでね。
和田 そう。マイクロソフトでもビル・ゲイツはずっとビルと呼ばれてるでしょ。アップルもスティーブ・ジョブズはスティーブだし。会社の一番下っ端からトップまでみんなファーストネームなんです。これなら、会社をやめた後も呼び方は変わんないでしょ。日本は会社をやめた途端「部長」と呼ばれてた人が名無しになっちゃう。それはやっぱりおかしいですよ。
建前が幅を利かす息苦しさ
加藤 私の娘が中学に入ったときの話なんだけど。生徒手帳の生徒会則を見てたら「学校の帰り道に商店に寄ってはいけない」って一文があったの。こんなのあり得ないと。
和田 そうだよね。
加藤 「休日に友達の家に遊びに行ってはいけない」というのもあった。これも変でしょ。
和田 ですね。
加藤 だから私、保護者会のときに質問したの。「学校の帰りにお豆腐を買ってきてもらうのもダメなんですか」って。「友達の家に行くのだって普通のことでしょ」と真剣にね。
和田 先生ビビるよね(笑)。
加藤 先生は「はははっ」って笑ってね、「いいです、別に守らなくても」と言ったの。「じゃあなんで書いているんですか」って聞いたら、万が一のときのためだって。
和田 なるほど。逃げ道か。
加藤 生徒が学校の帰りに商店に入り浸って万引きでもしたら、「この学校はそういうことを許してるのか」と社会に追及されるでしょ。その時に「学校側はそれを禁止していた」と言わないといけないと。
和田 建前ですよね。
加藤 今の社会もこれと似てるでしょ。例えば、75歳以上の誰かが逆走して事故を起こすと、高齢者の運転は危険だから免許を取り上げようってなる。
和田 そうやって、あれもダメこれもダメが増えて、どんどん息苦しくなるわけですよ。

