和田秀樹対談連載。加藤登紀子4回目。【そのほかの対談記事はコチラ】

シンガー・ソングライター。1943年ハルビン生まれ。1966年「誰も誰も知らない」でレコードデビュー。1971年「知床旅情」が大ヒットし、日本レコード大賞歌唱賞受賞。自身が訳詞・歌唱した「百万本のバラ」が話題となり、1987年にシングル化。最新刊に『「ま・さ・か」の学校』がある。現在も国内外で活躍し、2026年10月にはウズベキスタンでコンサートを開催。
【加藤登紀子コンサート情報】
2026年9/6(日)あしかがフラワーパークプラザ(栃木)、9/23(水・祝)東京オペラシティコンサートホール(東京)。この他、12月にも神奈川、東京、京都、大阪、愛知などで開催。詳細はコチラ、またはトキコプランニングTEL:03-3352-3875まで。
老眼は根性で治る!?
加藤 ロウソクの話に戻るんだけど。炎を見てると、目が休まるし、落ち着くのよ。
和田 なるほど。
加藤 ルーティンを決めておくと、モヤモヤしたり忙しかったりしても同じ状態になれるでしょ。それがいいと思う。
和田 おっしゃる通りです。朝のルーティンもあるんですか。
加藤 朝は起きなきゃいけない時間の30分前に目覚まし時計をかけて、起き上がる前にお布団の中で短い体操をします。股関節の体操と背筋の体操、腹筋の体操です。それをロングブレスをしながらやるんです。
和田 いいですね。
加藤 それも50歳ぐらいから始めたんだけど、最近は特にしっかりやっています。
和田 いいですね。一番いいと思うのは、いろんな場所を刺激していることです。人間って例えば足腰だけを鍛えても、肌は若返らないでしょ。目や耳もそうです。だからいろんな場所を意識して動かしたり刺激したりするのが大事なんです。
加藤 ですよね。そう言えば、私、老眼が治ったの。
和田 え、それはすごい。
加藤 たぶん針と糸が効いていると思う。5年前に洋裁を始めたころは、糸を通すのがイヤでね。金属の糸通し器を使ったり、老眼鏡を作ったりして。あと、私は本をよく読むし、iPadで原稿も書くんです。乱視もあるから、小さい文字をずっと見てると、ぼわーっと2重に見えてくる。
和田 困りますよね。
加藤 文字が見えなくなったらもっと困るでしょ。だから見えるようになるまで頑張って見るようにしたわけ。ぼわーっとなっても見続ける。そしたら見えるようになったんです。いつの間にか老眼が治っちゃった。
和田 根性で老眼を治す(笑)。でも加藤さんのやったことは正しいですよ。ほとんどの高齢者は「年だからダメだ」と諦めて意欲がなくなっていくんです。だけど本当は、年だからダメになるのではなく、諦めたり意欲がなくなったりするから余計にダメになっていくんです。
いいと思ったことは片っ端から試してみる

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁を超えた人たち』『幸齢党宣言』など著書多数。
和田 耳はいかがですか。
加藤 耳はどうかしら。どっちかっていうと、右より左のほうが聞こえやすいかもしれないんだけど。私ね、テストのやり方がうまいんです。
和田 え、テストのやり方?
加藤 そう。「聞こえたらボタンを押して」って言われるでしょ。だけど検査する人の手が見えちゃったりするんだよね。それで「あ、押してる」と思って私もボタンを押すと、「素晴らしいです」って褒められる。だからちゃんと測れてないの(笑)。音楽をやってる人に耳の弱い人は多いみたいですね。
和田 みたいですね。歯はどうですか?
加藤 今行ってる歯医者さんが言ったんですよ。人間の歯は本来60歳までしか耐用していない。でも60年以上みんなが生きるようになったから、歯医者は大変ですよって。いい歯医者さんに出会ったと思いましてね。
和田 ですね。
加藤 その歯医者さんが「ウォーターピック」という水圧と水流で磨く洗浄器を勧めてくれて、それがすごくいいの。それと口の中のマッサージを徹底的にやってくれるんです。上顎から下顎まで全部。頭蓋骨まで動くんですけど、とてもいいですよ。
いちいち考えてみる
和田 今日話して改めてわかったのですが、加藤さんはやっぱり自分でいろいろ試すからいいんですね。それと、いちいち考えてる。
加藤 そうそう。いちいちね。『さ・か・さの学校』って本でも書いたけど、常識って言われたら一回ひっくり返してみる。別に従わないと言ってるわけじゃないの。逆さにするとおもしろいって私は思うのよ。
和田 常識は人間の思考怠惰につながりますよね。医者はその典型です。血圧が高い、血糖値が高い、何々値が高いから全部平らにしろと言う。50年も60年も前の医学常識を未だに正しいと信じているわけです。そうやって常識の通りに生きてたら軋轢もないし楽なんだろうけど、それだと思考停止になる気がする。医者だけでなく、どんな世界でも同じだと思うけど。
コンプライアンスが思考を停止させる
加藤 今は、思考停止を望んでるんだよ、社会が。
和田 そこが悲しいじゃないですか。
加藤 本当にね。「なんかこんな法律ができちゃったけどさ、おまえ守ってる?」「守るわけないじゃん」ってみんなで笑い飛ばすくらいの余裕があればいいんだけど。「赤信号みんなで渡れば怖くない」ってジョークがあったでしょ。その一方で「本当は怖いからみんな止まろうね」っていう秩序もあった。
和田 だからジョークも言えたんですよね。
加藤 そうね。でも今は普通にジョークみたいなことも言いづらい社会になってきてるの。
和田 コンプライアンスが幅を利かして、ちょっとした冗談も許さないって感じで。
加藤 最近はね、自己規制する癖みたいなものが教育の中にまで織り込まれてる。それは心配よね。
規制の中でどんどん息苦しくなる
和田 中国人の友達に「中国って言論の自由がなくて大変だね」って言ったら「いや、そうでもないよ」って。彼らが言うには「習近平氏の悪口さえ言ってなきゃ大丈夫だから」とか「SNSで書かなきゃOKだから」と。「彼がやめたらまた好きに言えるから」、みたいな発想なんです。
加藤 中国で料理の修業をして来た人がいるの。その人が言っていたのは、日本に帰って来たらあまりにも窮屈なんでびっくりしたって。
和田 そうでしょ。ここ数年でさらに息苦しさを感じるようになりました。
加藤 私はどっちかっていうとアナーキストなんですけど。アナーキストは「無政府主義」なんて翻訳をつけたのがそもそもの間違いだと思っていて。
和田 なるほど。
加藤 アナーキズムってね、「無政府主義」とかって訳されてるけど、私は「穴アキイズム」って言ったらどうかしら、と思ってるの。穴が少し空いていて、いつもどこかから風が吹いてきてスースーしてるし、水も流れていて、1ヵ所に留まっていない状態。そんな考えもあるのか、じゃあこんな考えもいいよねって。
和田 いいと思いますよ。
加藤 60年代というか、戦後は社会がガタガタだったでしょ。
和田 そうですね、まさに。
加藤 屋根にも穴、壁にも穴、学校の塀も穴が空いてたんですよ。だけど今はなにもかもが頑丈になって、きちんと管理されて、鋳型にはめられた感じなのよね。
和田 はみ出すことが許されなくなって、どんどん面白みに欠けていくんですよ。

