2018年の就任以来、森保一監督を8年間追い続けてきたフットボールジャーナリストが迫る。ブラジル戦を終えて。【特集 2026FIFAワールドカップ】

ブラジル戦が森保監督にとっての最後の日本代表戦になるのか
森保一監督の記者会見は延々と続いた。直前のカルロ・アンチェロッティ監督の会見は約15分。それに対して森保監督の会見は40分以上にも及んだ。
手を挙げる記者がいなくなったのを見て広報担当者は会見を終わりにした。イスからゆっくり立ち上がると森保監督は詰めかけた記者に向かって深々と頭を下げ、「すみませんでした」と言ってから部屋を出た。
「優勝」という目標は叶わなかった。6月29日(現地時間)に行われたブラジルvs日本で、日本は29分、佐野海舟のミドルシュートで先制する。だが56分、カゼミーロにヘディングシュートを決められ、同点に。さらに後半アディショナルタイム、ガブリエウ・マルティネッリに決められて大会を去ることになった。
スコアを見れば惜敗と言えるかもしれない。確かにブラジルは日本の守備陣を崩すのに苦労した。だが実態は違う。
日本は66分、両ウイングバックの堂安律、中村敬斗の消耗を考え、菅原由勢、鈴木淳之介に交代させたが、攻撃力は明らかに落ちる。守り切って延長戦勝負を睨んだ選手の入れ替えだった。経験豊かな、計算できる攻撃の手はあまり残っていなかった。
ところがブラジルはまだネイマールやダニーロが控えていた。アンチェロッティ監督は「60分までに同点にできなかったらネイマールの投入を考えていた」と明かしたが、その奥の手を使わせるまでには至らなかった。
では日本はこれまでの大会から進歩していなかったのかというとそうではない。森保監督は相手のワンボランチのカゼミーロの左右を狙うという、定石とも言える戦い方でカゼミーロを消耗させ、ゴールを奪うことが出来た。
王者に対して奇をてらって戸惑わせるのではなく、正面から堂々と戦いを挑んだのだ。確かに守備ラインを深く取ってはいたものの、それは相手との力量差を考えれば必然的なものだった。
2022年カタール大会のときはどうだったか。ドイツとスペインに勝ったが、日本が本来やりたかったことはほぼできなかった。勤勉なマンツーマンと労を惜しまない運動量が日本に勝利をもたらしたのだ。それに比べると、今回は自分たちがボールを保持して攻撃を組みたてる場面を作ることができた。
ブラジルと前回ワールドカップで対戦したのは2006年ドイツ大会のグループリーグ第3戦。玉田圭司のゴールで先制したがその後は手も足も出せず、ブラジルは記録作りのためにGKを交代させたり、ベンチの前で横になっていたりと1-4というスコア以上の徹底的な屈辱を味わった。
20年前からは考えられないほどの進歩であり、前回大会と比べても違いは明白だった。それでも「優勝」を口にするのはまだ早かったのか。実は試合前日の会見で、森保監督は外国人記者の質問にこう答えていた。
「我々もワールドカップでチャンピオンを目指すということで今レベルアップをしていますし、実際ワールドカップにも挑んでいます。ここでいっぱい笑う方もいらっしゃるかと思いますが、近い将来で言うと今回本気で目指していますし、こうやって目標を立てることで日本人は必ずそこに到達できると思っていますので、未来に向けて言っている部分もあります」
その未来に繋ぐ部分として、この大会では後藤啓介や塩貝健人などをメンバーとして入れ、経験を積ませた部分もあったに違いない。
それでも森保監督の反省の弁は続いた。
「今回世界一というところ、優勝するということは叶わなかったけど、そこに関しては監督としては申し訳ない思いでいます。素晴らしい選手がいて、チームが一丸となって本当にタフに粘り強く最後まで戦い抜くというところを毎回やってくれている、チャンスはあったと思うなかで、今日の試合でも本当に勝つチャンスはあると思って戦って、実際チャンスはあってそれを掴み取れなかったというところがあったので、監督の力が一番足りなかった」
会見の中で外国人記者が「来年のアジアカップで優勝すれば、今日の試合後の失望を少しは拭い去ることができるでしょうか」と聞く場面があった。監督は慎重に「日本代表として、日本のサッカーとして、次の大きな大会はアジアカップ」と答え、自身の去就についてはその後「まだ何も決まっていない」と述べるに留めた。
サッカーにはこんな格言めいた言葉がある。「監督には2種類ある。辞めさせられた監督と、これから辞めさせられる監督だ」というものだ。もしかするとこの試合が森保監督にとっての最後の日本代表戦になるのかもしれない。そうでなくともいい気がする。

