放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、「令和ロマン」「エバース」「ヨネダ2000」をはじめ、多くの教え子を輩出した桝本壮志のコラム。

「最近、先輩芸人との過去のイザコザを明かしたり、噛みついたりしている後輩芸人のSNSをよく目にします。これって芸人界の上下関係が変わってきているのでしょうか?」という質問をいただきました。
なるほど、そんな見方をされている人もいるでしょうね。
僕が吉本の門を叩いた32年前も、物申したい先輩の一人や二人はいたものですが、酒場のグチや楽屋トーク止まりでした。
しかし現代は、その感情がSNSによって世に放たれます。賞レース人気によって、芸人志望者は30年間で約10倍に増えたので、世に出る感情の総量も増えています。
また、大量の若手が劇場やメディアになだれ込むので、玉突きが起こり、芸人以外の生活を送らざるを得ない中堅芸人も増えています。
彼らには、うまくやっている仲間や先輩が眩しく見えるし、SNSがなかった時代の「感情のツケ」を吐き出したくなる夜もある。
昨今の騒動の裏には、こういった時代背景もあるのです。
では、これから芸人さんのSNS事情はどうなっていくのか? どうあるべきか? 本当に上下関係は変わっていくのか? 今回は、僕なりの見立てをシェアしていきたいと思います。
先輩に物申す後輩=悪手ではない
まず、先輩に噛みつく後輩芸人の「姿勢」を批判する人も散見されますが、僕は悪手だとは思いません。
技術者が部品をあれこれイジリながら、黒電話→コードレス→スマホと進化させてきたように、芸人さんは先人をイジリながら笑いを進化させてきたからです。
例えば、ダウンタウンさんはコント番組のなかで、大先輩の横山やすしさんや桂三枝(六代目・文枝)さんを茶化していましたし、志村けんさんの笑いが発露したのは、同じグループであったにせよ、カバン持ちをされていた大師匠・いかりや長介さんをイジる芸風にありました。
ここで大切なのは、ダウンタウンさんはコント、ドリフターズさんは生放送の舞台という、「エンタメの箱」のなかで先輩をイジっていたこと。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。「令和ロマン」をはじめ、教え子は1万人以上。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。
令和の芸人さんたちは、新たなエンタメの箱である「SNS」というメディアのなかで、どのように先人をイジっていくのか? 「噛みつく」のは悪手ではないけど、「噛みつきかた」の技巧が求められる過渡期を生きているのです。
なので僕は、吉本NSC生たちに、「SNSで100日怒れば『怒る人』になるし、100日泣けば『泣く人』になるよ。皆さんは『笑わせる人』になってくださいね」と伝えるようにしてきたのです。
芸人さんのSNSリテラシーの未来
16年間、芸人学校の講師をしてきましたが、芸人さんの上下関係は、前時代と大して変わりません。
むしろ人間的にまともな若手が増えたし、コンプラ研修の成果で、穏やかな振る舞いの中堅・ベテランも多い印象です。
しかし、「真っ当な人」は「面白い人」なのか、疑問符がついてしまうのも芸人の世界。
社会常識になっている「ルッキズムはよくない」という考え方を遵守して、芸人さんが「デブ」や「ハゲ」などの自虐を封印したら? イジリやドッキリは「パワハラだ」「教育上よくない」と指摘され、自粛する芸人さんやメディアが増えたら? そう、お笑いは小さく、チープなものになっていくでしょう。
令和芸人のSNSリテラシーはどういったものか? それを創るのは、世間ではなく、芸人さんたち自身だと思っています。
海外進出を成功させた回転ずしチェーン店は、「寿司はこうあるべきだ」という定説に抗い、ハンバーグやアボカドをネタに加えた創造性がありました。
芸人さんも、あれはダメ、これもダメという風潮をすべて受け入れ、動きを小さくしていくのではなく、寿司店がネタを増やしたように、「こんなんどう?」「イケるやろ?」と、SNSでやれるネタを増やし、自分たちの陣地を拡大していくことが必要だと思っています。
それこそ賛否はありましたが、霜降り明星の粗品さんがはじめた「一人賛否」が僕は好きです。なぜなら「これはコントです」と新定義しているからです。
日本一に2度もなった芸人が「これはコント」と言えば、それはコントだし、その定義付けは芸人さんたちにしかできないクリエイションです。
お笑いを愛する一人のエンタメ人として、芸人さんたちには、小さくまとまらず、委縮せず、新たなエンタメの箱「SNS」の可能性を広げていってほしいと思っています。
では、また来週、別のテーマでお逢いしましょう。

