放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「仕事や恋愛で大きな失敗をするたびに『生まれ変わろう』と誓うのですが、しばらくすると忘れ、同じ失敗を繰り返して落ち込みます。こんな私にアドバイスをください」という相談をいただきました。
若いころの僕もよく「生まれ変わろう」「生まれ変わらなきゃ」と考えていましたが、相談者さんと同じように「変われない自分」「成長していない自分」に嫌気がさしていました。
ですが、あるマインドセットによって、そんな自分とうまく折り合い、仕事もうまくいくようになったのです。
今回は僕が実践してきた、良質な企画を生み出すクリエイティビティや組織マネジメントにも応用できる 『自分・仕事・組織をうまく変化させる思考メソッド』をシェアしていきたいと思います。
「一新」よりも、まずは「全体の5%」を変えよう
まず「生まれ変わろう」と思うのは、とても良い心の駆動ですが、ある日を境に別の人間になるというのはハードルが高く困難なものです。
そこで僕は35歳のときに、生まれ変わる=一新するという考えを手放して“激変よりも微変”、つまり劇的な変化よりも一部分に集中した小さな変化を目指してみました。
例えば、職場や会議でうまく話せず「積極的な自分に生まれ変わりたい」と思っても、突然アクティブにはなれません。
まずは「あいさつのトーンを変えてみる」や「話すときの姿勢を見直す」「となりのデスクの人と快活に話せるようになる」など“問題全体の5%くらいを変えていくマインド”でやってみる。
その5%ができるようになると、さらに次の5%を変えていく。すると1年も経つと60%くらいの変容が獲得できるというのが僕の実体験です。
チームづくりも前任者の5%から変える
この「全体の5%から変える」というメソッドは、組織マネジメントでも同じことが言えます。
チームには必ず前任者がおり、新しくリーダーになった方は「自分のカラーを出したい」という想いから「前任者の色を一新したい」という感情になりがちです。
しかし、企業にしろ政党にしろ、トップの顔が変わり方針や側近を刷新したら組織がガタガタになった事例が多くあるように、過剰に自分のカラーを押し出した変革はマイナスに働くこともあります。
ちなみに僕は、吉本NSCで様々な試みをやってきた講師と言われていますが、最初にやったことは1つだけ。
前任者の伝統を大切にしつつ、ネタのダメ出し(修正点や欠点を伝える講評)を、美点から伝えていく「ホメ出し」に変えたことのみでした。
リーダーポジションになった方は「より自分の色が出る5%は何だろう?」を考えて、それを実行してみてください。
良質な企画も「定番×自分なりの5%」
「全体の5%」は、企画作成などのクリエイティビティにも有用です。
誰もが上司をあっと言わせるアイデアや、業界を引っくり返すような企画のホームランを打ちたいものですが、斬新なものや奇抜なものは、顧客のニーズや発注者の意図から掛け離れたプランになる危うさもあります。
アニメや漫画のヒット作品に「学園もの」がたくさんあったり、同じインスタントラーメンでも新商品がどんどん出てきたりするように、企画は「定番もの」や「枠組み」から逃げずに“いかに自分らしい5%をふりかけることができるか?”も大切なポイントです。
芸人さんには「漫才」や「コント」という枠組みがあり、コントなら「先生×生徒」「警官×犯人」「「不良×いじめられっ子」などの定番ネタがありますが、同じ設定でも面白いネタがどんどん生まれていきます。
例えば、教え子のコント師は、不良×いじめられっ子の定番ネタを創りましたが、そこに若手らしい5%をふりかけました。
不良がカツアゲを始めると、いじめられっ子はスマホを取り出し、その模様を世界にライブ配信するのです。
たった一つの要素ですが、定番のネタが「不良×いじめられっ子×それを見守る世界中の人」という新感覚のネタに昇華しているんですね。
新サービスや新商品をクリエイトする際は、前例を否定せず、うまく下敷きにして自分らしい5%のスパイスを探求してみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。