放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「桝本さんは、何でもデキる人だと思っていましたが、新刊を読んで、色んなことがデキなかった人でもあったと知りました。そんな自分をどうやって変えていったのか? 成功の鍵があれば教えてください」という相談をいただきました。
現在、7つほどの職種(放送作家、3つの学校の講師、コラムニスト、小説家、企業研修講師など)をこなしていますが、かつての僕は、仕事の力量も、人間的にも未熟者でした。
第一志望の夢だった芸人は廃業、放送作家に転身するもクビを経験、大好きな人が去っていく離婚の辛さも知っています。
吉本NSCで生徒に語りかけている言葉、先日発売した拙著 『時間と自信を奪う人とは距離を置く』の中には、そんなデキない人間が見出してきたメソッドが詰まっています。
さて今回は、元デキない人間の僕が、相談者さんご所望の「成功の鍵」とは何なのか? その「正体」を明かしていきたいと思います。
成功の鍵は、失敗の鍵のスペアです
廃業、クビ、離婚など、たくさんの失敗をしてきた僕は、成功の鍵は持っていないけど、「失敗の鍵」はたくさん持っていました。
他の人と違う点があるとしたら、大量の失敗の鍵をジャラジャラぶら下げて歩いていたこと。
つまり、良くも悪くも失敗に固執して、「何がダメだったのだろう?」と考えながら、あきらめの悪い空き巣ばりに何度も鍵穴に挿していたのです。
するとある日、それまで何度も差し戻されていた番組企画が、なぜかスルリと通って、あっさりレギュラー化。
それまでビクともしなかった扉の中に入ると、それまでクスリとも笑ってくれなかった人たちが、たくさん声をかけてくださいました。
また僕は、芸人を廃業するという人生の失敗をし、負い目を背負って生きていましたが、NSC講師という育成側に回ると、失敗の鍵が急に光りはじめました。
コンビ解散、周りへの嫉妬、ネタ作成の手詰まりなどの苦汁の日々が、そっくり反面教師となり、「桝本のようにならないでおこう」「こいつの話は聞いておこう」と、生徒たちの心を開くキーワードになっていったのです。
いまだに僕は、成功の鍵がどんなものかは分かりませんが、ジャラジャラ下げている失敗の鍵が、時間やタイミングによって、いつしか成功の鍵という名前に変わる。
つまり“成功の鍵とは、失敗の鍵のスペアのこと”という実感と経験があるのです。
誰もが「失敗の事情通」にはなれます
ここまで読んで、「失敗に固執して」の一文が気になった方もいるでしょう。
「過去のミスや過ちを引きずって生きるのは、しんどいよ」と感じた方もいるでしょう。
が、僕の言う「固執」は、心持ちがちょっと違うのです。
新刊の中で、“今日も、世界ではたくさんのモノが生産されていますが、もっとも多く生産されるのは、自動車でも半導体でも鶏卵でもなく「人の失敗」「不安」「悩み」です。”と伝えました。
失敗は大量生産されているのだから、これを活かさない手はありません。
デキない人だった僕は、失敗を繰り返しながらも、「なぜダメだったのだろう?」「なぜ怒らせちゃったんだろう?」と、失敗を「気がかり」、つまり「気に留める」くらいの感覚にして、心にジャラジャラとぶら下げていきました。
すると、自分の成功パターンなんて何一つ知らないけど、「あ、このパターンだとミスるな」、「これを言ったら怒らせちゃうな」など、“自分の失敗パターンなら知ることができた”のです。
また、僕が意識していたのは、「失敗の相手」は心にブラ下げないでおくこと。
相手の顔や人格までぶら下げてしまうと、失敗の原因よりも、人間関係のもつれのほうが拡大されていくので、あくまで失敗のテコになった事象のみをぶら下げる。
そのパターンをゆるやかに読みとり、やんわり微調整していく。それくらいの感覚がおすすめです。
成功者なんて、かんたんになれるものではありませんが、誰もが“自分の失敗の事情通”にはなれます。
成功の鍵だけでなく、失敗の鍵にも目を向けてみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!

