ENTERTAINMENT

2025.11.01

滝藤賢一、人生を考えさせられる。実際の報道に着想を得た衝撃作『火の華』

役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年10月31日公開の映画『火の華』を取り上げる。

映画『火の華』
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静かな怒りを感じる強烈な一作

『火の華』、ただならぬ緊張感に満ちている。なかなか今の日本では想像しにくい、戦地でのシーンもより身近に、リアルに感じるのは、実際に起こりうることだからかもしれない。映画の題材は2016年、PKO(国連平和維持活動)のため、南スーダンに派遣されていた自衛隊員の活動エリア付近で戦闘が発生したあの事例。後に「戦闘」に関する記述のあった日報が隠ぺいされ、大問題となったように記憶しております。

先日、敗戦直後、満蒙開拓団が生き残るため、若い独身女性をロシア兵に差しだしながら、戦後、被害を受けた女性たちを誹謗中傷したうえ、口封じを強いたというドキュメンタリー映画『黒川の女たち』を観ました。どちらの映画もそうですが、観るまでは戦闘や性暴力の事実を知ることはなかった。たとえニュースで知っていても、どこか他人事のように感じていた。私は当事者ではありませんので、その事実を今の世の中に伝えたほうがいいのか、隠したほうがいいのかはわかりません。あったことをなかったとすることが当事者にとって、正しいことなのか、そうでないのかも私には判断できません。

ただ、この事実を知ることで、今後、こんなことが二度と起きないように話し合うことはできますし、考えることができます。もし知らなければ、自分の子供たち、孫たちは同じことを繰り返すかもしれない。私もそうですが、戦争をリアルに感じていない世代がまた愚かな行動を取らないためにも、この2本の映画の存在はとても意味がある。作るべくして作られた映画のように思います。

今作はスーダンの戦闘でひとりの隊員が命を落としたというオリジナルの設定で、他言しないようにと命じられた元自衛隊員たちそれぞれの、政府へのケツのふき方を描いたもの。お上への復讐に邁進する者もいれば、主人公の島田(山本一賢)はとてつもない憤りを感じながらも、花火職人として人生を生き直そうとしている。銃も花火も同じ火薬をもとにするが、片や人を殺め、片や人を楽しませる。ならばどちらの道に行くか。人生の哲学を考えさせられる一作。

『火の華』

2016年の自衛隊日報問題に発想を得たオリジナルストーリー。東京大学建築学科卒という異色の経歴の小島央大監督の2作目。南スーダンでの過酷な体験によるPTSDに苦しむ元自衛隊員が、縁を得た新潟で花火師を目指す再生劇。

2024/日本
監督:小島央大
出演:山本一賢、柳ゆり菜、松角洋平、伊武雅刀ほか
配給:アニモプロデュース
2025年10月31日よりユーロスペースほか全国順次公開
https://hinohana-movie.com/

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。映画『風のマジム』が公開中。先月は、鳥取県倉吉市にて映画『遥かな町へ』を撮影。“暮らし良し”な街だったそう。

COMPOSITION=金原由佳

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