役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年10月10日公開の映画『見はらし世代』を取り上げる。

人生を豊かにしてくれた家族に感謝し、今ある幸せを大切に生きたい
読者の皆様に質問です。やっととれた休暇。久しぶりの家族旅行。何時間もかけて避暑地に着いた途端に仕事先から電話。ビッグプロジェクトのコンペの最終選考に残ったらしい。どうしてもやりたい仕事です。そのために何年もかけて準備をしてきました。先方は今すぐ会いたいそうです。「チャンスを摑むためにも今すぐ東京に戻ってこられないか?」と。皆様ならどうされますか?
くぅー! 滝藤なら悩むなぁ、めったにあることではない人生をかけた大勝負! やりたいよなぁ……でもこうやって家族が揃って旅行に行けることなんてなかなかないからなぁ。くぅー! うん、大丈夫だ! 別荘まで連れてきちゃえば、オレがいなくともゆっくりできますものね! また帰る時、迎えに来ますから! 避暑地をenjoyしてね! パパは君たち家族のために東京に戻って働きます! なんて、映画の冒頭は思いましたよ。ええ、ええ、正直思いました。一応悩んだ振りとかしちゃったけどね。映画のなかのエンケンさん同様思いました。
そして10年半後。遠藤憲一さん演じる高野初は国際的なランドスケープデザイナーに。家族のためにもこのチャンスをどうしてもモノにしたいと言っていた渋谷の再開発にかかわるコンペ。なんとなんと! 勝ち取っていたんですよ! ヤッター! おめでとう! 家族みんな幸せの絶頂ですね! のはずが、なんだか不穏な空気。
黒崎煌代君、木竜麻生さん、井川遥さんをはじめ、キャスト陣の素晴らしい演技は唯一無二。言葉にするのが難しいですが、なんだか信じ難い瞬間の連続なのですよ! 瞬間瞬間に何が起きるかわからないんです! なんだよ今の! 噓だろ! すげーな! の連続。生きてる芝居というのかしら。なんかそんな感じなんです! この瞬間に俳優たちを導いた団塚唯我監督に声を大にして言いたい。ほんっとにいい映画っす!
しかし、口論の時にエンケンさんの役が言うセリフ「水掛け論じゃないか」。コレすごい表現だな。もし言われたら一生口きかないわ。顔も見たくない。
『見はらし世代』
第78回カンヌ国際映画祭の監督週間に日本人史上最年少の26歳で選出された団塚唯我監督の長編デビュー作。人生におけるキャリア設計と家族運営の両立の難しさにフォーカスし、再開発が続く東京と渋谷を舞台に、家族の離散と10年越しの対峙を鮮やかな感性で描く。
2025/日本
監督:団塚唯我
出演:黒崎煌代、遠藤憲一、井川 遥、木竜麻生ほか
配給:シグロ
2025年10月10日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。映画『風のマジム』が公開中。今は、鳥取県倉吉市にて映画『遥かな町へ』の撮影を行っている。