役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年2月28日公開の映画『TATAMI』を取り上げる。
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ああ! モヤモヤする! なんなんだよ! チクショウ!
イスラエルとイラン出身の監督が共同で手がけた映画『TATAMI』。舞台は柔道の世界選手権大会。主人公のレイラはイラン代表選手。順当に勝ち上がった三回戦の直前、監督から突然、棄権するように指示を出されます。戦い続けると、イスラエル代表との試合が避けられない。イスラム教の聖地エルサレムのあるイスラエルをイランは国として認めておらず、直接対決は許さないと。
もし負けたら国のメンツが! とかじゃないんです。国として認めてないから戦わないんです。もう滝藤、全身の力が抜けましたよ。レイラは決して恵まれた環境ではないなかで血の滲むような努力をしてきたのです。きっと自分のためだけでなく、家族のため、国のために全身全霊をかけて戦うんです。そんなことは柔道をやったことのない人間でも想像に容易いです。
もちろんレイラにとっては承服しかねる事態。観ているこちらも“まあ国が言ってんだからしょうがないな”なんて1㎜も思えないですから! 無視して試合を続けると、両親が監禁。さらに監督や試合を監視している外交官、その上の政府高官までしゃしゃり出てきて、凄まじい脅しのオンパレード。“おい! レイラは今、目の前の強者たちと熾烈を極めた戦いをしてるんだよ! 死闘に水を差すとはまさにこのことだよ! こっちも死闘、あっちも死闘じゃ、試合に集中できないだろ! タイミング考えろ! ボケ!”と思ってしまうのは、平和ボケしている滝藤だけだろうか……。
次の試合まで時間がないなか、決断を迫られるレイラ。自分の選択によって、周りの人間に迷惑がかかり、取り返しのつかないことが起こる。これはわがままなんだろうか。ともに代表選手として参加する仲間たちの目はレイラを蔑んでいるのか、それとも希望を託しているのか。
作品名の「タタミ」は柔道の試合場を意味しているのですが、本編中、レイラはこの畳の上で戦っている時だけが安全な時間だったように思います。日本語の畳が、統治権力が及ばない聖域として象徴されているようで、誇らしく思いました。
『TATAMI』
多くの映画祭で高い評価を受けるがイランでは公開がかなわず、撮影後、イラン側スタッフは全員亡命した。2019年の世界柔道選手権で起きた出来事を男性から女性へと変更。オリンピック出場歴のある選手や指導者が関わり、手に汗握る技にも注目。
2023/アメリカ、ジョージア
監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミールほか
配給:ミモザフィルムズ
2025年2月28日より新宿ピカデリーほか全国公開
https://mimosafilms.com/tatami/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在、ドラマ『TRUE COLORS(トゥルー カラーズ)』(NHK BSプレミアム4K&BS)に出演中。映画の公開待機作もまもなく発表される。