役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2025年7月25日公開の映画『スタントマン 武替道』を取り上げる。

感動のラスト? なのか?
梅雨前線が早々に消えてやってきた2025年の猛夏。滝藤は地方で時代劇の撮影に邁進していました。俳優とは肉体を使う仕事であることを改めて認識し、強く、美しく見える筋肉の使い方を所作指導や殺陣師の方から学ぶ日々。そして忘れてはならないのは、我々の代わりや相手役として、危険なアクションに挑むスタントの方々の存在。
今回紹介する映画『スタントマン 武替道』は、過去に若いスタントマンに無理をさせ、一生の怪我を負わせたアクション監督、サムが主人公。どこかで見た顔だなあと思っていたら、『燃えよドラゴン』でブルース・リーから「Don’t think. FEEL!(考えるな、感じろ)」と有名な台詞とともに頭をはたかれたあの少年! そのトン・ワイも御年67。香港では知らぬ人がいないアクション俳優&監督です。ジョン・ウーの『男たちの挽歌』のアクション監督も担当していたとは! カリスマですよ!
そんな数々の偉業に包まれた彼に、ここまで頑固で自分勝手なアクション監督役を演じさせるのは何故なんだ(笑)。許可のない市道でのゲリラ撮影をはじめ、ワイヤーなしの高所からの飛び降り、下が見えない場所からの階段落ちを当たり前にやらせる。今の時代では考えられないことばかり。
1970年代生まれの私はジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウの香港アクションに夢中でした! 彼らの映画なくして、今の滝藤はありません。その裏側はこんなにも激しい、理不尽な命懸けの撮影現場だったのですね。すごすぎる……なんて、美談にはさせないぞ! 映画『サンダーアーム』の撮影時、飛び移った木が腐っていて落下し、大怪我をしたジャッキー・チェンを思い出したぞ!
時代の変遷、若い世代とのバトンタッチが主題だと自分を納得させて観ていましたが、まさかのラスト。こんなにも主人公に共感できないなんて(笑)。もしかしたら、何かとてつもなく深い狙いがあるのかもしれない。制作側の意図があるに違いない。もう一度観てみます!
『スタントマン 武替道』
落ちぶれたアクション監督が、変わりゆく香港映画界のなかで再起をかけて、若いスタントマンと模索する人間ドラマ。主役サムを演じるトン・ワイは香港電影金像奨の最佳動作設計(ベスト・アクション・デザイン)を7度も受賞する伝説のアクション監督&俳優。
2024/香港
監督:アルバート・レオン&ハーバート・レオン
出演:トン・ワイ、テレンス・ラウ、フィリップ・ン、セシリア・チョイほか
配給:ツイン
2025年7月25日より全国公開
https://stuntman-movie.com/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在、『事故物件ゾク 恐い間取り』が公開中。2025年9月5日には『風のマジム』が公開される。