放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「私はSNSでは饒舌なのですが、リアルでの会話が苦手です。うまく伝わらない、かみ合わない、盛り上がらないと感じることが多いんです。話し上手になるコツがあれば教えてください」という相談をいただきました。
この手の相談は、デジタルネイティブ世代の若手芸人からも増えていますし、対面会議が減りテキストでのやり取りが増えたミドル世代からもよく聞きます。
文章だとスラスラ打てるのに、対面だと相手の胸を打てない。SNSだとフランクに話せるし気軽にバトったりできるけど、職場ではカチコチになるし議論にも参加できない……。きっと同じような悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか?
そこで今回は、毎年1000人以上の芸人の卵、いわばSNSでは饒舌なデジタルネイティブ世代を育成している僕の、「SNS時代の話し上手になるコツ」をシェアしていきたいと思います。
話し上手のカギは、SNSにはなくリアルにはある〇〇
リアル社会での会話が苦手な人に、僕は2つのシンプルな問いかけをしています。
①SNSにはなく、リアルにはあるものってなんだろう?
②話し相手が、あなたに一番求めていることはなんだろう?
さあ、お分かりでしょうか。
SNS上の会話にはなく、リアルな対面にはあるもの。それは、言葉の外側にある「非言語」です。
「話し上手」と聞くと、多くの人は「語彙力がある」「比喩がうまい」などの言語スキルを想起しがちで、それらを磨こうとします。
しかし僕は、生徒らに「SNSやテキストには文字列しかないけど、実社会の会話には、表情、目線、姿勢、声色、相づち、ジェスチャーとか、たくさんの非言語ツールがあるよね?」と伝え、そこに意識を向けさせるようにしています。
同じ内容を話していても、目を見て語りかけてくる人の言葉は届くし、姿勢が良い人は説得力がある。落ち着きのある声には威厳を、小気味よい身振り手振りには熱量を感じるもの。
そう、話し上手な人とは“対話に取りつけ可能な付属品、「非言語」の使いかたが上手い人”なんですね。
そして2つ目の問い、話し相手が、あなたに一番求めているものは「反応」です。
反応が薄いと、気持ちも下がるし、焦りもするし、会話を終わらせたくもなる。
実はその反応も“あなたの話を聞く姿勢、相づち、目線など、非言語の部分によって決まる”んですね。
なので、話し上手になりたい方は、“会話の良し悪しは、会話の外側にあるもので決着する”ということをインプットして対面に挑むようにしてみてください。
会話を「改話」にしてしまうSNSの病を手放す
10代・20代が中心の吉本NSC生の日常会話を聴いていると、「SNSみたいだな」と感じることがあります。例えば、分かりやすく要約すると……
A 「もう観た? あの□□っていう動画」
B 「観た! 1日で100万再生してたね」
C 「それよりさ、〇〇の新曲、神ってね?」
B 「聴いたよぉ、でも歌詞があんまりじゃね?」
A 「てかさ、みんな選挙行ったの?」
C 「そりゃ行かんとダメっしょ」
B 「そんなことより海は行った?」
そう、他者の話題に興味が集まると、別の話題を振って興味を削ぐ。つまり他人の話題に乗っかり続けるのは「ダサい」「個性的でない」と感じている風潮。僕はこれを、会話でなく「改話」だと考えています。
この改話は、より注目されるスレッドを立て、耳目を奪い合うSNSの構造に似ており、僕が若手育成の現場に赴任した15年前よりも濃くなっているように感じます。
実社会の会話で大切なのは、相手の話の腰を折っていく改話ではなく、差し向けられた話題に乗り、協力して揉み、ビジネスシーンであれば何かしらの着地点を見出すこと。
SNSのトークシステムを実社会に持ち込むと、会話のゴールは「着地」ではなく、議論や言い争いといった別の目的地へと「不時着」してしまう確率が上がります。
話し上手になるには、SNSの特徴である、いかに注目されるか、いかに他者よりフォロワーを増やすか、といった流儀でなく、会話の目標を「勝つこと」から「共感すること」へシフトさせることが大切なんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。