選ぶもの、惹かれるものには、その人の感性が如実に現れる。神宮寺勇太が未来に受け継がれていくはずと語る名品時計には、時代を超えて響く“美”への、確かな手応えが宿っている。【特集 100年後も受け継ぎたい高級腕時計】

100年後も色褪せないのは、本質を極めた普遍的なカッコよさ
ある特定のジャンルに心を奪われ、その世界にどっぷりと浸かってしまうことを、人はしばしば“沼にハマる”と語る。だが、物事に深く没入する力を備えた者にとっては、それは単なる趣味を超えた、豊かで心躍る探求の旅路でもある。
ハードなヒップホップナンバーと切れ味鋭いダンスで無二の存在感を放ち、Number_iのメンバーとして熱狂的な支持を集める神宮寺勇太。ヴィンテージにも精通し、時計好きとしても知られる彼が今回、“受け継ぎたい時計”として披露してくれたのは、自らのスタイルの一部として日々愛用しているヴィンテージのロレックス2本だ。
出会ったその時が手に入れるタイミング
ひとつは1953年製の「ロレックス トリプルカレンダー オイスタークロノグラフ」、通称“キリー”。神宮寺が同じ年代のヴィンテージハワイアンシャツに合わせて選んだのは、その希少な「Ref.6036」だ。カレンダー機構を備え、デイトナの前身ともされるこのモデルは、かねてより憧れていた1本。市場にほとんど出回ることのないこのモデルと2024年にふとしたきっかけで出会い、迷わず手にしたという。
「個人的に惹かれるのは、初期のモデルにだけある、埋込み式の四角いインデックスです。さらにこの年代のキリーは、モデルによってカレンダーの仕様が微妙に異なっていて、そこもまた面白い。一般的にあまり知られていないモデルですが、ヴィンテージロレックスのマニアであれば『そこ、いったんだ』と共感してもらえるはずです」
そしてもう一本は、「ロレックス デイトナ Ref.6239」、エキゾチックダイヤルを擁する、伝説の“ポール・ニューマン”だ。
「これはもう10代の頃から憧れていた時計です。30歳になったら手に入れようと決めていたのですが、年々価格が跳ね上がってきていて……。まだ20代ですが、欲しいと思っているのなら今しかないと思い、文字の擦れもなく、完品だった一本を、思い切って手に入れました」
そう語りながら愛機を見つめる眼差しは、どこか慈しむように柔らかい。さらに、それぞれの時計の特徴や仕様を淀みなく語る姿からも、探究心と審美眼がありありと伝わってくる。現に、著名な時計ジャーナリストも参加するコミュニティにも参加し、情報交換も重ねてきたという。
さらに自宅には、ストラップを交換する専用ツールや、コンディションを細部までチェックするためのライトつきルーペも完備しているほど。そこには、“好き”という感情を、知識と手間と覚悟を持って深掘りしていく神宮寺勇太らしいこだわりと、自らの美意識を丁寧に育んでいく意志が垣間見える。
よく知らないものを“好き”とは語れない
他にも、現行の「デイトナ」に加え、希少な「デイデイト」やヴィンテージの「エクスプローラーⅠ」など、彼のコレクションはロレックスで揃えられている。他のブランドにも関心はないのか聞くと、彼は少し笑みを浮かべながら、こう答えた。
「もちろん、気になる時計がないわけではありません。ただ、そのブランドやモデルのことを深く知らずに身につけるのは、僕のなかではちょっと違う気がして。コミュニティの方たちと時計について話す時も、自分の経験や知識があるからこそ、会話も盛り上がる。人から教えていただいたことや、自分で調べたことを、頭のなかで確かめていくような感覚もありますね」
今回、“100年後に受け継ぎたい時計”として、キリーとポール・ニューマンの2本を選んだ理由についても、「時代の流行に左右されない、普遍的でカッコいいと思うデザインだから」と、その言葉に迷いはない。
「僕が身を置くエンタテインメントの世界でも、同じことが言えると思っています。音楽やダンスは100年前と比べてずいぶんと進化しましたけど、根底にある“楽しさ”や“高揚感”は変わらない。今、僕らが表現しているものも、形が変わっても、根っこにある本質が誰かに届けばちゃんと未来に受け継がれていくはず。そういう意味でも、時計とエンタテインメントって、似ている気がしています」
アーティストとして、さらに上の高みを目指し、日々成長を続ける神宮寺勇太。多忙を極める毎日のなかでも、お気に入りの時計と向き合う時間は、彼にとって思考を整え、心を穏やかになれる至福のひと時なのだろう。時計以外に気になっているモノは? とたずねると、彼は少し照れたように笑った。
「いや、本当はこれ以上“沼”は広げたくないんです。時計で最後にするつもりですから(笑)」
そう語る彼の腕元には、やはり例の“キリー”が、静かに、そして格別の存在感とともに時を刻んでいた。
神宮寺勇太/Yuta Jinguji
1997年千葉県生まれ。2023年に、平野紫耀、岸優太とともにNumber_iを結成。翌年元日に1stデジタルシングル「GOAT」でデビュー。2025年5月には2ndシングル「GOD_i」をリリースしたばかり。多趣味で知られ、特にバイク、古着に造詣が深い。
▶︎ 撮影は、2025年7月1日に東京・芝浦にグランドオープンするラグジュアリーホテル、フェアモント東京にて。最上階のプレジデンシャルスイートは、東京湾の壮大なベイビューが息を呑むほどに圧巻。東京タワーと都心の灯りを望むバーは、新たなナイトスポットとしても要注目。
この記事はGOETHE 2025年8月号「特集:100年後も受け継ぎたいLUXURY WATCH」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら