連載「オークションから読む高級時計の行方」の第16回は、ロレックスの「オイスター パーペチュアル Ref.6062」を取り上げる。
約6億円で落札された、ベトナム皇帝の「オイスター パーペチュアル Ref.6062」
ヴィンテージロレックスの市場にて、圧倒的な存在感を放ち続ける「コスモグラフ デイトナ」。しかし、それとはまったく異なる立ち位置で注目されている究極のコレクターズアイテムが、「オイスター パーペチュアル Ref.6062」だ。
「オイスター パーペチュアル Ref.6062」は、プロフェッショナルモデルの登場に先駆けて1950年に発表。当時のロレックスは複雑機構の開発に注力しており、トリプルデイトとクロノグラフを兼ね備えた通称“キリーウォッチ”を筆頭に、独自路線を歩んでいた。
1950~53年にかけて製造されたRef.6062は、ロレックスの歴史上ふたつ目となるトリプルカレンダーとムーンフェイズを組み合わせた複雑機構搭載モデル。デザインのバリエーションは実に多彩で、ケースはイエローゴールド、ピンクゴールド、ステンレススチールの3種類、ダイヤルも6種類ある。
これまでオークションに出品されたRef.6062のなかで最も高額で落札されたのは、2017年5月にフィリップスの時計オークションに出品された、ベトナムの皇帝バオ・ダイが所有していたイエローゴールドモデルだ。
ブラックダイヤルにダイヤモンドのインデックスを備えたそのRef.6062は、たった3本しか製造されていないと言われており、なかでもバイ・ダイの時計の文字盤はひとつしかない。当時の為替レートでの落札額は506万スイスフラン(日本円で約5億7645万円)。この落札額は2017年5月の時点において、ロレックスの時計でオークション史上最高額を記録した。
こうした例からも、Ref.6062がヴィンテージロレックスの市場でいかに特異な時計であるかが分かるだろう。以下、2023年にフィリップスの時計オークションで落札された2本を紹介する。
圧倒的価値を持つふたつのRef.6062
ステンレススチール製のRef.6062の製造本数は、イエローゴールドよりもはるかに少ない。つまり、存在自体が極めてレアというわけだ。
2023年11月、スイス・ジュネーブで開催した時計オークションに出品されたRef.6062のステンレススチールモデルは、3時位置と9時位置のアラビアンインデックス、そしてツートーンカラーのダイヤルが特徴的な1本。
驚くべきはそのコンディションで、ロレックス鑑定家たちから「近年、オークション市場に出回ったステンレススチールのRef.6062のなかで、最も保存状態の良い個体である」と言った声も聞こえるほど。
当然、ヴィンテージウォッチとしての価値が非常に高く、予想落札額100万~200万スイスフランを上回る、211万7000スイスフラン(日本円で約3億5420万円)という高額で落札されることになった。
こちらは、2023年11月に香港の時計オークションに出品された、星型インデックスを配したイエローゴールドモデル。
欠損はほとんど見当たらず、ケースも未研磨の状態。プラスチック製の風防も一度も交換がされておらず、伸びやすいブレスレットも工場出荷時とほぼ変わらない状態をキープしている。全体として、ヴィンテージウォッチとして極めてコンディションがよく保たれている逸品だ。
また、この時計の過去の所有者はヴィンテージ時計の世界で最も尊敬をされているコレクターのひとりであり、そういった“来歴の確かさ”や保存状態のよさも相まって、711万2000香港ドル(日本円で約1億3950万円)で落札されることとなった。
極めてニッチなモデルであるRef.6062がオークションで注目を浴びるのは、揺るぎない価値を持つコレクターズアイテムであるからだ。ロレックスでは数少ない複雑機構搭載モデルはオークション界隈のスターであり、その立ち位置は今後も変わることないだろう。
■連載「オークションから読む高級時計の行方」...
新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。本連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。