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2022.09.11

オークションから読み解く、ロレックス“ポール・ニューマン ダイヤル”の現在地。

連載「オークションから読む高級時計の行方」の第9回は、ロレックス「コスモグラフ デイトナ」の“ポール・ニューマン ダイヤル”を取り上げる。

“ポール・ニューマン ダイヤル”の現在

©️PHILLIPS

圧倒的な資産価値を持つ超人気のコレクターズアイテム

この数年、ロレックス「コスモグラフ デイトナ」の“ポール・ニューマン ダイヤル”は、時計オークションの世界を賑わす存在として注目を浴びている。

予め断っておくと、“ポール・ニューマン ダイヤル”というのは、ファンの間でつけられた呼称である。通称“エキゾチック ダイヤル”とも呼ばれる個性的なダイヤルデザインは、発売当時はあまり人気がなかったのだが、名優ポール・ニューマンがこのダイヤルを備えた「コスモグラフ デイトナ」を着用していたこと、そしてヴィンテージウォッチの本場であるイタリアで火がついたことをきっかけに世界的なブームを巻き起こした。

“ポール・ニューマン ダイヤル”が製造されていたのは、およそ1960年代後半から1970年前半と言われており、いくつものバリエーションが存在する。実際に市場を見渡すと、価格帯はかなり振り幅があることが分かる。ねじ込み式のクロノグラフプッシャーを備えたモデル、製造本数が少ないゴールドケースなどは総じて人気が高いが、最終的には個体の質や来歴によって評価は様変わりする。

現在確認されている“ポール・ニューマン ダイヤル”のなかで最も高い評価を得ているのが、ポール・ニューマン本人が所有していたRef.6239だ。2017年10月にフィリップス・ニューヨークが開催した時計オークション「WINNING ICONS」で、当時では腕時計史上最高額となる1775万2500ドル(日本円で約20億3400万円)で落札されたことで世間から関心を集めた。

この一件から、“ポール・ニューマン ダイヤル”を含む、「コスモグラフ デイトナ」の手巻きモデルの相場が一気に跳ね上がる結果となり、特別な個体に関しては、今もなお価格が高騰している状況だ。

コスモグラフ デイトナ Ref.6239(1968年製造)

コスモグラフ デイトナ Ref.6239(1968年製造)
2017年10月、フィリップス・ニューヨーク主催の時計オークションにて、1775万2500ドル(日本円で約20億3400万円)で落札。©️PHILLIPS

“ポール・ニューマン ダイヤル”の現在に迫る4つの事例

ここでは、“ポール・ニューマン ダイヤル”のトレンドに関する傾向を掴むために、フィリップスが2022年に開催した時計オークションから4つの事例を取り上げる。

貴金属製ケースの“ポール・ニューマン ダイヤル”用に作られたダイヤルデザインのうち、レモンカラーのダイヤルにホワイトのプリントが施されているブラックのサブダイヤルを備えたバージョンはマニアの間で“レモン”と呼ばれ、極めて高い資産価値を持つ。こちらの18Kゴールド製のRef.6264は、1969年に販売されてからメキシコ出身のオーナーが長年所有していたという代物で、貴重なメキシコ製のジュビリーブレスレットが付属する。ほとんど着用していなかったことで、コンディションを維持していたことから、3億円に近い落札額を記録した。

コスモグラフ デイトナ Ref.6241(1969年製造)

コスモグラフ デイトナ Ref.6264(1969年製造)
2022年6月、フィリップス・ニューヨーク主催の時計オークションにて、208万7000ドル(日本円で約2億8220万円)で落札。©️PHILLIPS

製造期間が5年にも満たないプレキシガラス製ベゼルを備えたRef.6241は、手巻き時代の「コスモグラフ デイトナ」のなかでも短命なモデルのひとつだ。この個体に搭載されたホワイトのダイヤルは、外周の目盛りが赤でプリントされた“赤巻き”と呼ばれるタイプ。コンディションも上々で、年代の合ったベゼルやブレスレットが装着されている。大変貴重な付属品がすべて揃う“フルセット”の状態で出てくることは実に稀である。

コスモグラフ デイトナ Ref.6241(1968年製造)

コスモグラフ デイトナ Ref.6241(1968年製造)
2022年5月、フィリップス・香港主催の時計オークションにて、327万6000香港ドル(日本円で約5440万円)で落札。©️PHILLIPS

ステンレススチール製のタキメーターベセルを装備したRef.6239は、1963年に発表された「コスモグラフ デイトナ」の記念すべきファーストモデル。こちらの個体に関しては、ポール・ニューマンが所有していたRef.6239と同じデザインのダイヤルを備えていることが特徴に挙がる。その一方、平均時速60~300mまで計測できるタキメーターベゼル、リベット式のブレスレットといった主要パーツの仕様が異なっている。

コスモグラフ デイトナ Ref.6239(1967年製造)

コスモグラフ デイトナ Ref.6239(1967年製造)
2022年5月、フィリップス・ジュネーブ主催の時計オークションにて、26万4600スイスフラン(日本円で約3530万円)で落札。©️PHILLIPS

ねじ込み式のクロノグラフプッシャーが正式に採用されたRef.6263の“ポール・ニューマン ダイヤル”は、世界中のデイトナコレクターにとって特別な存在である。とりわけホワイトバージョンは、“パンダ”の愛称で親しまれている。この個体に関しては、“マーク1.5”に分類されるダイヤルであることに加え、外周の目盛りがブラウンに変色していることが高い評価を得たポイントだ。

コスモグラフ デイトナ Ref.6263(1972年製造)

コスモグラフ デイトナ Ref.6263(1972年製造)
2022年5月、フィリップス・ジュネーブ主催の時計オークションにて、50万4000スイスフラン(日本円で約6720万円)で落札。©️PHILLIPS

これらの落札結果からも分かるように、ヴィンテージロレックス屈指のステータスシンボルである“ポール・ニューマン ダイヤル”の人気ぶりは相変わらず凄まじいものがある。とはいえ、その評価はあくまで個体次第であることから、購入する際は細心の注意を払う必要がある。さらには、世界中のコレクターやオークションハウスのスペシャリストたちの研究が進むに連れて評価基準が変わることも忘れてはならない。

 

連載「オークションから読む高級時計の行方」...
新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。本連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。

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TEXT=戸叶庸之

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