人気ドラマ『大追跡〜警視庁SSBC強行犯係』シーズン2で、係長・葛原茂を演じる俳優・光石研。インタビュー後編では、仕事との向き合い方、さらに木梨憲武との交流から見えてきた人生観について聞いた。「仕事は栄養ドリンクみたいなもの」と語る光石の言葉には、肩肘張らず、自分らしく歩み続けるためのヒントが詰まっている。#前編

「裸はNGです(笑)」光石研が語る、仕事を楽しむルール
ドラマでは、SSBC強行犯係の係長として、個性豊かなメンバーを柔和な空気でまとめる葛原茂を演じる光石研。前編で語ったように「素直な姿勢」を心がけているという光石に、仕事におけるマイルールを尋ねてみる。
「ルールですか? なんだろう。あ、裸はNGです(笑)」と、とぼけて、取材班一同を和ませる。
「あれ、そういうルールじゃない? でもやっぱり大切なのは、“どんな仕事でも楽しむこと”じゃないですか」
そんなおとぼけこそ、まさに光石の言う「楽しむ姿勢」の表れと取れる。インタビューの受け答えも、決して自分に嘘のないように言葉を探しながら、一緒になって考えてくれるのだ。
とはいえ、「楽しむ」と言うのは簡単でも、実践するのは難しい。秘訣を聞いてみた。
「案外、自分をさらすのがいいかもしれないですね。僕はこういう人ですよって。実際、僕とか遠藤(憲一)さんは、現場でのNG回数が一位二位を争うほど多いんですが、もう、そこは格好つけずに、“いい年だから、セリフ覚えが悪いんだよ”って(笑)」
一貫して、自らを背丈以上に飾ることのない「素直な姿勢」で現場を和ませているのが手に取るように伝わってくる。ただし、必ずしも若い頃からそうだったわけではない。今でこそ柔和さの滲む光石だが、青年時代はそれなりに“尖っていた”という。
「先日、遠藤さんと取り調べのシーンを撮影している合間に、お互い若い頃の“尖ってた話”で盛り上がっちゃって。尋問の体で、“どんなやんちゃをしてたんだ?”っていう、ミニコント状態。
僕は、16歳から俳優の道を志して、割と一人で歩んできたので。撮影時は何か爪痕を残そう、ってもがいていたので、今思えば、尖っていたんだよなぁ(笑)」
16歳で映画デビューを果たしたのちに、上京して事務所を探した光石は、縁あって現在の事務所に入所。劇団などに所属することなく、地道にキャリアを重ねてきた苦労人でもある。
「演技について、僕は誰かに教えてもらったということがないんです。これは、コンプレックスでもあるけれど、今では売りにもしているんです。“ストリート育ち”の俳優って(笑)」
長い時間を現場で過ごし、少しずつ身につけてきた何かがあるとするなら、「自分をさらせる素直な姿勢」なのかもしれない。

1961年福岡県生まれ。16歳の時に映画『博多っ子純情』で主役デビュー。30代に不遇の時代を過ごすも、その後の映画・ドラマで多様な役柄をこなして活躍の場を広げ、今や名バイプレイヤーとしての地位を築き上げている。
「趣味が多い自覚はない」光石研が語る、仕事と趣味の関係
光石研といえば、私服の着こなしをはじめ、洒脱なインテリアやこだわりの愛車などに囲まれて日々を過ごしているような、多彩な趣味人というイメージがある。
ところが、多趣味なイメージの理由を問うと「本当は、趣味なんて多くないんですよ。暇があるとYouTubeばかり見ちゃいますから」と、自嘲気味に答える。
「最近、台風が来た日がありましたよね。急遽撮影が取りやめになって、丸1日空いたんです。さて、何しよう?って、わからなくなっちゃった。
結局、その日はずっとレコードを掛けていたんですけどね。聴きたい聴きたい、という感じじゃ全然なくて、どこか無理やり趣味をしてるみたいな。ワクワクしてなかったんですよ。俺、大丈夫かなって」

趣味への熱量が薄れていることに、自分でも困惑してしまったという。失われてしまった若さへの思いが頭をよぎった。レコード、イラストやデザイン、サッカー、野球――。思えば不遇だった30代、仕事がないなか暇つぶし半分で始めたものだった。
「それはそれで楽しいんですけど、人間、仕事がないと心も荒みますからね。この時期に、あえて趣味は一旦きっぱりとやめて、仕事に真剣に向き合おうって決めたんです」
そうして仕事に向き合い続けた結果、俳優・光石研は不遇時代を克服して現在の確かなキャリアを築いていった。今、多趣味に映るのもこのときに培った趣味を、コロナ禍で再開させたことにも起因するようだ。
「時間があったから再開させたんですけどね。劇場界、エンタメ界は、あの頃キャンセルも多かったので。だから、かつてのように湧き出る思いで絵を描いていたわけじゃないんですよね」
それでも、多くの趣味が心の支えになっていたことは間違いない。そんな彼が今、ハマり始めたのが、ゴルフだ。
「去年(2025年)から道具を揃え始めたら、それが結構楽しくなってきて。80年代のヴィンテージクラブとかが届くのが待ち遠しかったり。今はそこから練習場とかも行きだしました。どうなっていくかな」
ワクワクを求める光石にとって、ゴルフは今、久々に心を動かす新鮮な趣味となっているようだ。2025年、ゴルフブランド「ニューヴィンテージゴルフ」では、光石がデザインを手がけたカプセルコレクションも発売された。
「イラストとかデザインは、根っから好きなんでしょうね。すごく夢中になって取り組めました。昔とった杵柄で、自分のつくった草野球チームのユニフォームとかをデザインしていたのを思い出したりして」
話を聞き進めるうちに、なんだかんだで結局アクティブな光石研の姿が浮かび上がってくる。なんとマラソンも5時間台で走るそう。自分ではあまりひけらかさない奥ゆかしさも、彼の魅力のひとつに違いない。

木梨憲武との出会い。「仕事は栄養ドリンクみたいなもの」
「この年になって、友人が増えるとはね」と語るのは、木梨憲武のことだ。
「何十年も前からずっと尊敬していたんですよ、木梨さんを。絵も描くし、音楽もダンスも上手。それに向こうはスターですから、ちょっと雲の上の存在という感じで」
一度知り合ってからは、当然のように意気投合。
「この人についていったら、何か楽しいことがあるって思わせる何かがある。実際、すごく楽しいんです。ポジティブな感じがとっても心地よい。僕はといえば、根はコンプレックスの塊で人見知り、ちょっと物事を斜めから見ちゃうんで。
そんな僕を、というか僕だけじゃなく周囲をぐいぐい引っ張っていくパワーが心地いい。65歳にもなって友達が増えるなんて思ってなくて。本当に感謝しています」
と、友人・木梨憲武を分析。新たな友人の登場をイキイキと語ってくれた。こうした日々のワクワクも光石研の心をアクティブにする原動力となっているのだろう。

ここまで話を聞くと、「あまり趣味がない」という本人の言葉は、謙遜にも思えてくる。さすがに“多趣味界のモンスター“木梨憲武に出会ってしまったら、「多趣味」のハードルがずいぶんと高まってしまうに違いない。
気づけば、光石研の周りには自然と「楽しいこと」が集まってくるように映った。
最後に、ゲーテらしく、「光石研にとっての仕事とは?」を尋ねた。
少し間をおいて「栄養ドリンクかな?」と一言。
「今日の話だと、さんざん遊んでいるようですけど(笑)。やっぱり仕事が元気のもと。趣味を楽しめるのも仕事が順調だからこそ。充実していないと、趣味も心からは楽しめませんから」
不遇を趣味で埋めていた時代があったからこそ、俳優としてひとつの地位を築いた彼の言葉に重みが生まれてくる。
「同じ仕事を長くやっていると、人って財産だなって思うんです。例えば、事務所が用意しているサイズ表なんて、若い頃のデータだから、今じゃ嘘みたいなもの。それでもスタイリストさんは、きちんと僕のサイズに合わせて衣装を用意してくれる。これは一例ですが、どこかの現場で、昔から知ってるスタッフがいて、目が合うと会釈して。ちょっとしたやりとりで懐かしくあったかい気持ちになる。仕事を通じて生まれた関係が僕を支えています」
俳優としての理想像を聞いてみる。
「自分から、こんな役がやりたい、みたいなことはありません。いただける仕事をまっすぐやり遂げていく。オファーがないと始まりませんから。そのなかで年齢にあった等身大の役を演じ続けて、年老いていけたらいい。そんな未来も楽しみです」
ここにも自然体でいることで、ワクワクを生み出していく光石研の姿があった。

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