PERSON

2025.03.09

俳優・大東駿介、育児放棄・菓子で飢えを凌いだ中学時代「自分をただの“肉の塊”だと感じていた」

19歳で芸能界デビューするや否や脚光を浴び、20年経った今も、話題作に相次いで出演している俳優・大東駿介。小学生の時に父が、中学生の時に母が帰ってこなくなるいう壮絶な過去からいかにして抜け出し、夢を叶えたのか。その人生を4回に渡って訊いた。【その他の記事はこちら】

俳優・大東駿介

ひどい自分の姿を誰にも見られたくなかった

2024年はTBSの連続ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』をはじめ6本のドラマと3本の映画に出演し、この5月には、大人気映画シリーズ「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の公開を控え、2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』への出演も決定。身長182㎝のすらりとしたスタイルに、色気漂うワイルドな風貌、確かな演技力で、俳優・大東駿介はデビューから20年に渡り、第一線を走り続けてきた。

そんな恵まれた俳優生活とは反対に、大東は、壮絶な幼少期を送ってきた。小学校3年の時に父が失踪し、クリーニング店を営む母とふたり暮らしに。ところが、その母も、大東が中学2年になった頃から、たびたび家を空けるようになり、ついには帰ってこなくなった。その後の大東の生活は、ネグレクト=育児放棄と呼ぶには、あまりにも悲惨なものだった。

「母は初め、500円とか1000円を置いて出ていっては、1日たつと帰って来るというのを繰り返していたんですが、その間隔がだんだん空いて、いつのまにか帰ってこなくなりました。まず困ったのは、食べること。店に落ちていた小銭をかき集めて、お菓子を買って凌いでいたけれど、そのうち電気も止まってしまって。

家に大きな鏡があったんですが、そこに映っているのは、げっそりとやつれた自分の姿。お風呂に入る余裕がなかったから、体臭もひどかった。そんな自分を誰にも見られたくなくて、だんだん学校に行かなくなり、ついには家から一歩も出なくなりました。

……助けを求めようなんて、まったく思いつかなかったですね。自分がこんな状況にあることを、友達にも、誰にも知られたくない。バレないようにしなくちゃって、そんなことばかり考えていました」

親に捨てられた自分は価値のない存在

親がいなくなり、食べるものもなく、電気もつかないその家で、14歳の少年は、何を考え、どんな感情と戦いながら、命をつないでいたのだろう。ふとそう思い「一番辛かったことは何か?」と問うと、しばらく沈黙した後、大東が発したのは、「辛いって感情は、いつ生まれてくるんやろうな」という言葉だった。

「たとえば、試合とかだと負けてしまった瞬間に、辛いという感情が生まれると思うんですけど、こういう日常で起こるイレギュラーなことって、どこが辛さのピークなのかわからないんですよ。だから当時の自分は、『これが一番辛い』とか『今が最高に辛い時だ』といった感情は、持っていなかった気がします。

でも今振り返ると、出口が見えないことが、一番しんどかったかもしれない。どんなに辛いことでも、いつか終わるとわかっていれば心持ちが少し変わると思うんですけど、その出口がまったく見えなかった。どこが底辺かもわからず、地上も見えへんまま、落下していく感じ。うん、それが一番辛かった気がする」

電気のつかない家で、たったひとりで過ごすうちに、自分の存在意義についても考えを巡らせた。幼い頃から論理的にものを考えるタイプだったという大東は、それゆえに、自己否定の想いを募らせることになる。

「親が出て行ったということは、自分は捨てられたということ。親に必要とされていない、愛情を抱いてもらえないような存在なんだと、自分のことを否定したし、どこか憎んでいたと思います。

ふつうの中学生って、家族がいて、温かいご飯があって、『勉強する意味なんてあるの?』なんて毒づきながらも、毎日が過ぎていくんだと思うんですよ。でも僕には、そういうものがまったくなかった。自分のことを、ただの“肉の塊”だと感じていました」

俳優・大東駿介
大東駿介/Shunsuke Daitoh
1986年大阪府生まれ。2005年デビュー。近年は連続テレビ小説『らんまん』、『アナウンサーたちの戦争』(2023)や『あのクズを殴ってやりたいんだ』(2024)などに出演。待機作に映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025年5月23日公開予定)、NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』(2026)がある。

最悪の状況を考える自分を、俯瞰して見ている自分もいた

3階にあった自分の部屋の窓から地面を見下ろして、「ここから先は、もうあっち側なんだ」と思ったこともあるという。窓の向こうへと身を投げ出せば、今の苦しみから逃れられ、別の世界に行けるのだと。

「距離感がバグるんですよ。地面がものすごく近づいてきて、すぐにでも“降って”いけそうな気がする。でも、その時に、脳みそがうわーっと動き出す。熱を持ったパソコンみたいに、音が唸るくらい思考を始めるんです。

生きる、死ぬ、生きる、死ぬ、怖い。それまで、のうのうと生きてきて、そんなことを考えるような経験なんてなかったし、頭がおかしくなるくらい何かを考えることもなかったから、あの時のことは今でも忘れられない。衝撃的な映画を観ているみたいに、常に心が動いていたんです。

一方で、そういう自分の心境に興味を持って、俯瞰して見ている自分もいたんですよ。『もっと派手に悲しんでおいた方がいいんちゃう』『行けるとこまで行った方がいいんちゃう』『声が枯れ果てるまで泣き叫んだ時のトーンは、覚えていた方がいいんちゃう』って。

最近、お仕事でご一緒した精神科医の方に言われたんですけど、僕は当時のことを話す時に、第三者の視点で語っているらしいんですよ。それは、当事者として語ってしまうと、自分がもたないからだそうです。自分のことじゃないんだという視点を持つことで、辛い経験に対してストッパーをかけていたんだって。

自分の感情を俯瞰して見ていた経験は、今、そのまま芝居に活かさせてもらっています(笑)。やっぱり、危機的状況から学べることって多いですよね。向かうべき場所がある限り、人生において、失敗も不幸もない。それが、僕の持論です」

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<衣装クレジット>
コート¥55,000、パンツ¥29,700(ともにニードルズ)、ベルト¥27,500(ウォーボーン ウォーク)、シューズ¥86,900(ネペンテス/すべてネペンテスTEL:03-3400-7227) シャツ¥31,900、ネクタイ¥14,300(ともにエンジニアド ガーメンツ/エンジニアド ガーメンツTEL:03-6419-1798) 

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=SHIN ISHIKAWA(Sketch)

STYLING=服部昌孝

HAIR&MAKE-UP=佐藤友勝

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